1-10

 こうして浅間さんは去っていった。部室に残ったのは俺と桜庭。


「うわ、女の子トークを黙ってずーっと見てたヘンタイがいる」

「うっ、うっせーな。悪いか、見てちゃ」


 我ながらワガママでキモイ願望だな。浅間さんに迷惑だったら申し訳ない。


「それで、ああ言ったはいいけどどうするんだよ? 二人の仲を取り戻すって結構キツくないか?」

「うん、難しいよ。修羅場なお二人の仲を部外者が取り戻すなんて、そりゃあもう」


 とは言いつつも、すでに答えを知っているかのごとく余裕ぶっている桜庭。


「……策でもありそうな素振りだな」


 桜庭は美少女フェイスを俺に向け、何かを企むように小悪魔的にクスッと笑って、


「難しいとは言ったけど、善慈くんの助けがあれば話は別。つまり、キミの働きが重要になってくるってこと」

「俺の働きがぁ?」


 言っちゃ何だが、ここまで大した活躍のなかった俺。だからこのまま桜庭かなえによって解決が図られるとさえ思っていた。


「ロクに働いてない善慈くんだもの、仕事を与えてあげるだけ私に感謝してよね」

「……働いてないのは自覚してるわ、悪かったな。胸が痛い」

「冗談だってば。本当に善慈くんの力が必要になったから頼っただけだよ」

「んで、俺は何をやりゃあいいんだ?」


 俺が伺ってみると、桜庭は今後の方針を含め、彼女がこれから起こす行動、俺たちの動きによる周りへの影響、それらをすべて話してくれた。


「……――ということで、善慈くんの働きが重要になるってこと。おわかり?」

「わかったけどよ。でもな……、……それ、どうしても俺がやらないといけないのか?」


 活躍の場を与えてくれることには感謝の意を示したいが、話を聞いて思わず髪を掴んだ俺。


「だって男の子だもん、女の私じゃ無理だし」

「たしかにそうだが……この俺が…………」


 俺には無縁の世界であり果てしなく遠い世界の要件、できるとは到底思えん。俺の性格を知っていてよく任せたな、とさえ思えてくる。


 桜庭は呆れたようにジト目で俺を睨み、


「ふーん、仕事してくれないんだぁ。あっそ、なら別の人に任せるけど?」

「いや、やってやるよ。ここまで大して力になれなかったのは俺が一番わかってる」


 ぶっちゃけやりたくない気持ちは未だ心に残るが、ウダウダと文句を言うのも自分の存在意義を疑ってしまう。浅間さんのためにもやってやろうじゃあねぇか。

 俺の決意を耳に入れると、桜庭は待ってましたと言わんばかりに笑って、


「よーっし、この私が手取り足取り教えてあげるっ。お楽しみに!」


 ――――翌日、放課後。


「さてと、二人ともここに来てくれてありがとう」


 場所は部室ではなく三階のとある教室。集まったのは俺、桜庭、依頼者の浅間さん、それから――――、


「あの、私をここに呼んだのって……?」


 浅間さんの恋のライバル、赤池遊來さん。


「うん、赤池さんとも話したいことがあって。要件は手短に済ませるからよろしくね」


 ちなみに赤池さんがここに来るということは、浅間さんには事前に知らせなかった。逆もしかり。それもあるのか、二人の間には居心地の悪そうな雰囲気が流れている。

 二人をこの場所に呼んだ張本人、赤一色のヘアバンドで適度に切り揃えられた前髪を留める桜庭は、彼女らに面と向かって、


「お二人をここに呼んだのはね、我が青春部メンバー、神宮寺善慈くんが二人にどうしても伝えたいことがあるからです」


 ただ一人緊張という二文字を知らない様子で、俺の肩をツンツンと小突きながら言った。


 マジマジと俺を凝視する浅間葵、赤池遊來の後輩二人。


「わっ、私たちに言いたいことですか? 神宮寺先輩が?」

「ええ!? ちょっ、私たちって……。というか先輩と私、面識ありませんよねぇ!?」

「……いや、面識とか関係ないんだ。二人を見て思ったことを言いたくて呼ばせてもらった。その……、ひょっとしたらキモイかもしれんけど……聞いてくれないか?」


 二人は押し黙り、改めて俺の顔をジッと見据えた。ピンと張りつめた緊張感がこちらにも届く。……いや、俺の緊張が向こうに伝わってるだけか。


 俺は意を決し、口を開いた。


「――――俺は二人のことを可愛いと思ってる。赤池さんは美人でスタイルもよくて、そんで活発だ、正直友達にしたい。それに浅間さん、目立たないかもしれないけど普通に美人だ。こんな女子が一緒のクラスだと嬉しいと思う」


 浅間さん、赤池さんの二人は口をポカンと開けた。全く同じリアクションの両者、凍りついたように固まり――――、


「ええええええええっ! どっ、どうしたんですか先輩!?」

「ちょっ! えっ、えっ、…………ええええええええええ!?」


 顔を真っ赤にし、叫びにも似た甲高い声を同時に上げたのだった。


「ふふん、二人ともウブな反応しちゃって。もっと引いてもいいのに。特に赤池さん、見ず知らずの男にああ言われても、ぶっちゃけキモイだけでしょ?」


 飄々とした振る舞いで間に入ったのは桜庭。


「いやっ、そそそそそんなっ、キモイだとかそんなことは……」


 続いて桜庭は浅間さんの頬をぷにぷにと指で弄り、


「葵ちゃんも可愛い反応しちゃって。遠慮せずにキモイって言ってもいいよ? ギャップ萌えで萌え死んでくれるからさ」


 萌え死なねーよ。


「もっ、萌え死ぬなんて……。私、そんな可愛くなんか…………」

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