0-7
「あーマジウゼー」
放課後になり、俺と篠宮天禱は共に部室へ向かっていた。
「高坂のことか?」
「ああ、そりゃあそうだろ。結構前から小言は言ってきたし、俺たちを見る目はヤバそうだとは思ってたけど……、とうとう爆発したって感じか。高坂やらその取り巻きやら……」
一体何が気にくわないのかは俺には分からん。誰かの悪口を言い合うなどのことはしていなかったのだし。
「ぶっちゃけ俺の映画トークそのものはどうだっていいんだろうね。高坂らにとってみれば、俺らの存在が何となく気にくわない程度だろ」
「その程度でああも因縁付けるか? ……いや、付けるヤツは結構おるわ」
俺には理解できないが、気に入らないものがあれば因縁を付けるなりする連中も一定数存在する。中には暴力だって振る連中も。その点から考えれば、高坂はまだマシな存在なのだろう。
「やっかいなことに、そういう連中って強いよな」
強い? ケンカのことか? 能力のことか? 俺がそう尋ねると、
「なかなか言い表しにくいけど、存在……のことか?」
「まあ、何となくわかる。でもよぉ、そういう強さってコミュニケーションの力が大事だろ?」
チッチッ、篠宮はそう告げ、
「そりゃあコミュ力も大事さ。けどな、何やかんやで自分を押し通す力も強くないとダメなんだろ。俺はそうだと考える」
「それなら自己中心的で嫌われないか?」
「その通り、我が強すぎれば単純に嫌われる。だが高坂のような
篠宮が
「んで、
深く考えずとも、面倒なことが待ち受けていることは容易に想像できる。
「あー、明日マジで学校に行きたくねぇわ。ウザイ目で見られるんだろうなぁ……。家に帰っても引きずるんかなぁ……、映画も気楽に見れねーわ」
「篠宮がそんなに他人の目を気にするヤツだとは思わなかった。それなら高坂に歯向かうなんてしなきゃ良かったのによ」
ふんっ、篠宮はそうやって俺の言葉を鼻であしらった。
「俺たちはボランティアの会の人間だ。で、活動は何かというと、人間関係の問題を解決することだ。だから俺は高坂の人間関係を解決しなきゃならん。そのために高坂を煽って無理にでも関係を作ったのさ。アイツに近づきやすくするためにな。このまま高坂たちをほっとくと、俺以外を含めて面倒なことになりかねん」
「わざわざそんなに面倒なことをするなんて……お前って結構なお人好しだよな」
「はんっ、イーさんやかなえが悲しむような顔を見たくないもんで。……ついでに織川もか」
「織川?」
「……何でもねーよ。気にすんな」
◇
本日の部活動には誰も相談に訪れなかったし、メールだって届かなかった。暇を持て余した俺たちは各々時間を過ごしたのだった。桜庭かなえが心配そうに篠宮に話し掛けていたが、篠宮はこの先困ったことがあったら相談するとだけ彼女に告げた。不満そうな桜庭を尻目に、出雲柚儺は『何のことやら』と首を捻っていたが。
そうして部活が終わり、俺は靴を履きかえて校舎から出ようとした。
「ねぇ、神宮寺くん!」
おっと、誰かが俺を呼び止めたようだ。黄色い声、聞き覚えのある音色。後ろを振り返れば、金髪お団子ツインテールが特徴的なクラスメイト、織川舞夏が後ろに控えていた。
「どうした? 俺に何か用か?」
織川は目線を落とし、そうして、
「ごめんなさいっ。あたし、ルミちゃんを止められなくて……、ううんっ、止めようとしなくて……。篠宮くん、その……」
「俺に謝っても何にも始まんねーぞ。篠宮に謝ってこいよ」
「う……でも……、篠宮くん探してもどこにも……」
ああ、そういやぁ俺よりも先に帰ってたっけ。
「じゃあな、また明日」
俺に謝ったって篠宮が満足するワケではない。ならば俺と話したって何にもならない。
「ちょっと! 待って!」
……なんだなんだ? 一息ついて振り向けば、
「どうしたんだよ……?」
しょんぼりとした様子で織川は俯いていたのだった。妙に儚げな態度に、ほっとけない雰囲気に思わず足を止めて訊いてしまった。
「……何かあたしにできないかなぁ? さっきは神宮寺くん頼りだったことが悔しくて!」
「それは俺が役立たずだったことからの反省か? スマン、悪かったな」
「そうじゃないよっ! あたしだって友達としてルミちゃんに言わないとって。……どうすればいいかな?」
そんなことは分からん。何たって、俺は織川のように多くの友達を作るタイプではない。そこまで深くの付き合いもしない。そのお友達がマズイことに手を染めていたのなら、改心させる方向なんて考えずに縁を切ることを優先させてきた俺には何も考え付かない。
「…………」
だからといってそんな答えは吐きたくない。それは自分が許せないし、織川にとっても失礼だから。
「自分の気持ちを伝えてみろ。高坂に気持ちが伝わって、それでも理解してもらえないなら縁を切るなり距離を置いたりするなりした方がいい。……こんなアドバイスでいいか?」
我ながら不器用な回答だと思う。けど、
「ありがと! あたし頑張るよ!」
そんな一言と彼女の振る舞いで、少しだけ嬉しくなったのは事実だった。
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