0-6

「ああ、胡散臭い部活動の仲間を連れて来たんだ。で~、神宮寺を横に据えて何がしたいワケ~? ハハッ、女の子を泣かせるため?」


 高坂は取り巻きたちと一緒にクスクスと笑いやがる。完全にバカにした笑い方、態度は鼻に付いた。

 しかれど篠宮は冷静に、


「勘違いするなよ、俺はボランティアの会の一員として問題の解決をしたいだけだ。そのための相談員として、この神宮寺善慈を連れて来たワケさ。さ、高坂の抱える問題、俺たちに相談してみな」


 怖気つくことなく流暢にそう話していく篠宮。対してイラついたようにピクリと眉を動かした高坂は、


「ハァ? 悩みなんてないしー。つーか、お悩み相談員の力を借りなくても自力で解決できるから」

「――――――友達の好きだった男を知ってたうえで彼氏にしたこと。これはどうなんだ?」

「――――なっ!?」

「これも心の内に悩みがあってやったんだろ? さ、ボランティアの会に相談してみようじゃないか。親身になって相談してみると、案外気が楽になったりするもんだぜ」


 顔を見合わせる高坂の取り巻きたち。ワナワナとする高坂。


「ちょっと!」


 ムっと口を結んだ高坂は右手で篠宮の胸元をドスンと押した。グラリとふらつく篠宮の身体。


「人のプライベートを覗くとかサイテー! 気持ち悪いの次元越えてるし!」


 しかし篠宮は高坂に構うことなく、


「うわっ、触んな! バイキンが移るだろうが!」


 篠宮は高坂に触れられた箇所を触れ、そうしてベターっと擦り付けるように俺の服を掌で擦ったのだ。お前は小学生か。いくらなんでも気に入らないからって女子を病原菌呼ばわりはマズイだろ……。

 その時、高坂がドシンッと傍の壁を蹴った。ピクリと高坂のお友達が狼狽える。


「バイキンって何だよ……」


 ぐぬぬ……、と拳を握って限界まで顔を強張らせて強い視線を向ける高坂。対照的に篠宮は呑気に、


「ああ、バイキンってのは病原菌の元の総称だ。そんなことも知らねーのかよ」

「いや、そんなことを訊いてないだろ」


 俺は思わず篠宮の肩を叩いてツッコミを入れてしまった。


「……なっ、なっ……どんだけ私をコケにしたいんだよ……ッ!」


 マズイね。しょうもない漫才もどきをしていたら高坂の顔を真っ赤にしてしまったようだ。

 篠宮は畳み掛けるように、


「ふんっ、バイキンガールは結局気に入らない俺たちに因縁を付けたかっただけのようだな。そんな振る舞いはノーサンキューだぜ? いつまでも自分勝手な振る舞いをしてると、いつか痛い目見るぞ?」

「バ、バイキンガール言うな…………」

「バイキンガールは食パン齧りながらバイキン男を手懐ける日も遠くはないだろうな」

「……そんなの………知るかぁ………。……んっ……うっ…………えぐっ…………」


 高坂は目に涙を溜め、そうしてとうとう泣き出してしまった。可愛らしいパッチリお目々からボロボロと涙を流す。彼女のお友達が必死に慰めようとする。もちろん俺らに舌打ちを交えながら。


 不謹慎な話、気の強い女がこう振舞う場面を優越感浸って眺める行為、嫌いではない。こんな趣味、クズだと罵られるのは仕方がねえが。泣きじゃくる高坂を可愛いと思ってしまったのはアレだろうか?


 篠宮はどうでもよさそうな表情で、


「もういいか? 授業始まるぞ?」


 そうして、篠宮はヘラヘラとした調子で自分の椅子に戻ろうとした。――――だが、


「おいっ! ちょっ!」


 思わず漏れた俺の声。

 なぜなら。


「――――くっ、…………放せ……よッ」


 篠宮が壁際に、胸ぐらを掴まれるという形で叩きつけられたのだから。

 篠宮を壁に叩きつけた主は――――菱野高丞。つまり――――高坂玖瑠未の彼氏。


「女の子を悪口で泣かせるなんて最低だろ! 高坂に謝れよ!」


 ごもっともな意見を強い口調で交えながら篠宮を責めるイケメンくん。

 取り巻き連中は高坂を慰めながらも、菱野の味方をするように篠宮と俺に咎めるような視線を投げる。

 篠宮は頭を下げ、その表情は読み取れん。しかし、


「彼氏のお前が、彼女が侮辱されたことに怒るのは理解できる。けどなぁ……、お前見てただろ? 高坂が因縁付けて俺らに絡んできたの。――――その時、どうして止めてくれなかったんだ?」


 グッ、と押し黙る彼氏の菱野。


「……色々と気持ち悪いんだよ。頼むから、もう俺たちに絡まないでくれ」


 菱野は力なく篠宮の胸ぐらを離した。

 そうして篠宮は無言で自分の席に戻ったのだった。

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