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『アンタは知らなかっただろうけど、あたしはアンタのことをずっと……なっ、何でもない!』
一つボタンを押せば現れた二つの選択肢、『1、何でもないワケないだろ? 2、何でもないならまあいいか』。さて、プレイヤー神宮寺善慈は何を選ぼうか。ツンデレ赤髪ショートの『月詠アカネ』とやら、正直言って彼女の好意なんぞもはや興味ないが。
「……ッチ、ンだコレは?」
つーか……、攻略作業ツマラン。
つい先ほど『ラブコメ研究会』に属する一人のオタク野郎から半ば強制的に押し付けられた美少女ゲーム。何か感想を言わないと面倒そうだし、それに初体験のジャンルであり少なからずの興味があったので、両足を机の上に放り出しつつこうして携帯ゲーム機をポチポチしているわけだが、……まぁ俺の趣味ではないね、コレ。
たかが二次元平面で繰り広げられる恋愛劇、と三次元の恋愛には奇跡的にご縁の無い俺が言ったところで虚しいだけだが。ただ、一人特定のヒロインを選ぶ形式には何となく好感を持てる。爽やかな学園青春ラブコメディはやっぱりそうでなくちゃぁな。
ま、何にせよ恋愛未経験者特有の上から目線意見なんて誰の参考になるものでもない。だから恋愛の味を知らない俺に青春要素を届けさせようとしてくれた彼には一応、感謝の意を示そうじゃあないか。
画面に淡く反射する生気の薄い顔に嫌気が差し、乱雑に伸びた髪を掴むように掻きつつ赤髪ショートの美少女からふと顔を上げると、
「……――うんうん。つまり、ちょっと前までは普通に仲良かったのに、最近になって距離を置かれるように感じた……、そういうことだよね?」
二人の女子生徒が前方出入口傍の机で相対し座っている。教室の後ろ半分が机、椅子置き場として利用されているおかげで狭苦しい空間の中、俺を含めた三人の人間がこの部屋にいた。
「そうなの、一緒に遊んだり宿題やったりしてたのに……。私、距離置かれるようなことした覚えは全然……」
同情を誘うように溜息をつきつつ、本日、我が青春部にやって来た相談者は寂しくそう告げ、続けざまに、
「声を掛けても……なんか他人行儀っていうか……。変な例えだけど、恋人に愛想尽かされたって印象を受けたような……」
声を掛ける練習台ならここにいるがな。話が弾む保障は全くないが。……というか、一度くらい挨拶……せめて目配せしてくれ。
ならばこちらから目配せしてやると、
「…………ひっ」
おっ、声が震えるくらいに感激してくれたようだ、よかった。ただ、これ以上感激されても相談の邪魔になるので、サッと赤髪少女に顔を戻すことにしよう。先ほど以上に死にそうな顔がそこには映っていた。
ともかく盗み聞きした相談内容をまとめると、『これまでは仲の良かった友達の一人が、最近になって理由もわからず自分によそよそしい態度を取るようになった』とのことらしい。ま、日頃から対人関係には細心の注意を払っているこの神宮寺善慈、相談に乗ってやってもいいが、
「私もあるよ、そういう経験。直接その子に会ったわけじゃないから本音はわからないけど、たぶんその子の友達付き合いが変わったからだと思うよ。友達の間に上と下の関係ができた……、そうじゃないかな?」
――彼女が相談に乗っているのならば、わざわざ俺が出る必要はないだろう。
年上のお姉さんのような語り口調で意見を述べ、安心を与えるように口元を綻ばせた相談員。
「えっ! なら私って……下に見られるようになったってこと……?」
「残念だけど、今はそうかも。でもね、それって向こうが勝手にそう思い込んでるだけ。本当に仲が良いなら、ちゃんと心は通じ合えてるはず。大抵はしばらくしたら元通りになるよ」
「そっ、そうかなぁ?」
「実はそういう相談、結構あって。でも、さっきも言ったけど自然に放っておくのが一番だよ。変な横やり入れると余計おかしくなっちゃうし。それでも関係が回復しないようだったら、もう一回ここに来て。そのときは私たちが動いてみるよ」
と、余裕たっぷりに相談員は言い切ったのだ。
その言いっぷりは相談者の気持ちの曇りを晴らさせたのか、
「わかった、そうする! 今日はありがとうございました、桜庭さん!」
サッと立ち上がると相談員に深々とお礼し、出入口の扉を開け、そうして軽い足取りで彼女は部室から出ていったのであった。
出入口に寄り、軽い笑顔で手を振りお見送りをした相談員。完全に見送ったのち、クルリとこちらに翻る。その端正な顔立ちをまざまざと見せつけるように。
彼女は柔和な顔つきを崩さないまま、部屋の隅で二次元の美少女と面談する俺の下まで歩んでくる。身長は女子高校生の平均程度だが、それ以外は文句の付けようのないスタイル、身に纏う制服の着こなしも優等生のごとく抜群な彼女。
彼女は窓際に寄り、しなやかな指を滑らせるようにガラスへと触れた。差し込む太陽の光が、他とは変えがたいその美貌を鮮明にくっきりと映えさせる。
神にも愛された天性のメインヒロインはパッチリとした切れ長の目を細めて外を眺め、静かに小さな口を開け――――、
「ふーん、ご苦労なこった。もう学園祭の準備を始めるなんて。絶対心の中で実行委員にキレてるよ、クラスメイト」
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