2-5
オムライスに使えそうな食材はすべて使ったので、完成したオムライスは一人前を超えたものとなってしまった。いくら四人掛かりといえど、間食として食べる分には大変そうだ。
テーブルには部長と俺が、対面に織川と桜庭が並んで座り、それでは準備が整ったことだし実食タイムに移ろうとした瞬間だった。
突如、ビビビッとデコレーションされたスマホによるバイブの振動が机に響いた。織川がスマホを手に取り、数度タッチしたのち画面を見やり、
「…………ふむふむ、……えっ!?」
「どうした織川、何かあったのか?」
「さっきあたし、なに喫茶にするかは明日決めるって言ったよね? でもね、今日決まっちゃったみたい……」
学園祭実行委員がクラスの意見を待たずに決めたってことか? ンな勝手な……。
「何でも別の要件を話し合いたくなったらしくて……」
スマホの画面を俺たちに向けた織川。そこには『明日のHRではオムライスの打ち合わせを優先したいので、喫茶店の種類は誠に勝手ながら実行委員のほうで決めさせてもらいました』、とメールの文面が綴られていた。
「舞夏ちゃん、どんな喫茶になったの?」
織川はスマホの画面を下にスライドさせ、
「メイド喫茶だって」
不安を表すように、僅かに童顔を曇らせてそう呟いた。
その表情が気になった俺、尋ねようとしたが織川が先に口を開き、
「前にも一回、ホームルームで学園祭の話題を話し合ったんだけど、その時はメイド喫茶の案が一番多くて……。だから既定路線と言えばそうなるんだけど……」
やはり変わらない不安げな顔色が気になったものの、まあ後で訊くことにしよう。
しかしメイド喫茶とは。ベタと言えばベタな出し物だが……、他のクラスと被るんじゃねえの? 個性が死んでツマンナイとは思うね。それに俺はどうだっていいが、女だけが主役に立つことに反感覚える男子だって一定数はいるだろうに。
「メイド喫茶か……、うーん俺は反対だね」
顎に指を触れ、篠宮天祷は悩ましげに呟いた。
「そんな部長サマはどんな喫茶がいいんだよ?」
「俺か? そもそも食材扱いたくないんだよなー。食中毒になったら始末が大変だろうし」
ふっ、と口元を緩め、中性的な顔立ちから放たれる決め顔でビシっと天に指差し、
「俺はオバケ屋敷を推薦するねッ。子どもも生徒もカップルも、お年寄りも楽しめるオバケ屋敷がサイコ―だろ、なっなっ?」
意外とマトモな意見だ。てっきり洋画上映会かド派手な出し物を開くとでも言うと思ったわ。
「洋画上映会もそれはそれでアリだな! 俺のコレクションから、泣いて笑って楽しめるベストセレクションを上映したら大盛況間違いなしッ」
……待てよ、…………映画上映会ね。これ、いい案じゃねえの? なぜって、前日までの準備と当日の動きが少なそうだしな。よし、明日のHRではこの案を出すことにしよう。
「それで織川、織川はメイド喫茶に賛成なのか?」
可愛らしい服を身に纏うことが好きそうな織川なら大賛成の案に思われるが。だけど先ほどから見せる表情、どうしても気になる。
「……えーっと、メイド喫茶はちょっと……」
どこか濁した言い方、やっぱり嬉しそうには見えない。
「あん? 水着とは違ってメイド服なら健全だろ。布の面積だって多いし」
「うっ、うーん……、理由は言いにくいけど……」
ま、言いたくなさそうだしこれ以上は散策しないことにした。
「ねぇねぇみんな、オムライス冷めちゃうよ」
おっと、桜庭の言うとおりだ。オムライスの存在を忘れていた。
「それでは、いただきます」
篠宮に続いて食へと感謝し、そうして俺たちは一つの皿へスプーンを伸ばし、各自取り皿へとオムライスを分ける。
「はいぜんじー、あーん」
声の方向は真正面から。オムライスへ向けていた注意を正面に向けてみれば、
「ほら、お口開けて。あーん」
織川は嬉しそうな笑顔で、オムライスを乗せたスプーンを俺に差し出してきたのだ。
「……それを食えってことか?」
それも篠宮と桜庭が見てる前でのプレイ。俺にできるわけないだろ。
「……あたしのスプーンじゃ嫌? あたしに食べさせてもらうの嫌?」
とんでもなく寂しそうな表情するなよ。断りにくいだろ。
「…………あ、あーん」
……恥ずかしさは募るもの、仕方なしにそれを口に含んでやった。あー俺の顔、絶対に引きつってんだろうな。
それでも織川は嬉しそうに、もう一口分を俺に差し出しながら、
「どうどう、おいしくできた? はい、あーん」
「……あっ、あーん……。味はイイけど、織川が味付けしたワケじゃねぇだろ。そこは篠宮の手柄だ。ほら織川、野菜が嫌だからって俺に押し付けるなよ? 後は自分で食え」
「うっ、鋭い……」
皿に取り分けたオムライスをもぐもぐ頬張る篠宮、
「ありがとよ、褒めてくれて。意外と悪くないだろ、ケチャップで味付けしないのも」
桜庭も、もぐもぐと頬張りながら、
「うん、サッパリしてる。私はこっちも好みかも」
野菜嫌いの織川はピクピクと引きつった笑いを終始浮かべながら、
「うっ、うん……おいしいよ、オムライス……」
マズイと口に出さないところが優しさの表れなのかもしれない。
その後、俺たちは学園祭の話題を中心に話でも交わしながらオムライスを腹に収めた。
ただ――――織川のあの反応、その真意が少し気になる俺ではあった。
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