3-16

 回想終わり。


 あれから一年が経過した、その事実に驚きは隠せない。今でも鮮明に残るあの記憶。


「それまではなんかバラバラってカンジがしてたよね。一つの部って意識が薄かったのかも」

「そだね、あれが本当の始まりになったのかも。……結局、個人プレーが中心の部だけどね」


 織川の指摘どおり、今でも四人が集まって~、という時間が比較的少ないのは事実。今だって部長の篠宮天祷は不在だしな。でも、集まる集まらないは関係ないのかもしれない。言葉では上手く表せないが。


 ともかく、桜庭かなえと織川舞夏の間に、本当の意味での繋がりが形成されただけでも価値のある経験だったのは間違いない。

 織川は、その大きなバストを押し付けるようにガバッと隣に抱き着き、


「かなっち、だーいすきっ」


 満面の笑みでそう放った織川に呼応するように、桜庭も、


「舞夏ちゃん、大好きっ」


 織川の柔らかそうな頬に、自身の頬をくっつけながら抱き返したのだった。


「そんで、今はお互いどう思ってんだよ? 何も性格が変わったわけじゃないだろ?」


 あの件がキッカケで桜庭の性格が天使のように変貌したわけではないし。織川だって特に変わりはしない。


 桜庭は織川から離れると、少し首を傾げて、


「そりゃあ舞夏ちゃんだって悪いところはあるでしょ? 勉強サボったり授業中寝たり、友達のメール優先させて依頼後回しにすることもあるし」

「そーゆーかなっちだって悪いトコあるでしょ? 性格だってお世辞にもイイとは言えないし、自分のこと一番可愛いと思ってるし。露骨に誰かを見下すこともあるし」

「そんなこと言って大丈夫か? 本人が隣にいるんだぞ?」


 だけれど、二人は本気で怒った素振りは特に見せない。


「けど舞夏ちゃんが一緒だと楽しくなるし、部の雰囲気明るくなるし。青春部に必要なのは間違いないよ」

「かなっちこそ青春部にいないとイケナイ人だよ。かなっちに頼ってくる人、いっぱいいるもん」


 それを聞いて一安心。またあのような事態になったら、流石に二度目は対応したくない。その場合は篠宮部長に仲裁の役目を押し付けてやろう。

 桜庭がクスっと笑って、


「私と舞夏ちゃんの性格は真逆かもしれないけど、それを友達になれないって言い訳にするのは違うよね。大事なのはそこじゃないよ、きっと」


 織川もうんうんと納得するように、


「本当に仲良くなるって、お互いの性格は関係ないのかも。ぜんじーだってわかるでしょ?」


 ふん、あの詞を書いたのは誰だ? それくらいわかるに決まってるわ。

 …………いや、わかってはいるが、


「それを実行するのが難しいってことは、この部に入って何度思ったことか」


 たとえば浅間葵さんと赤池遊來さんの件もそうだ。それが一時できなくなって二人の仲がこじれたのだろう。


 まあでも、この二人を見ていると――――難しいことではあってもできないことではないのだと確かに思った俺であった。


       ◇◆◇


 友達、という繋がりをもつためには一体何が必要不可欠なのか? 相性的に考えて、地球上すべての人間と友達になることは不可能だろう、間違いなく。親しくもないのに平気で蔑んでくるヤツ、ひたすらウザイヤツ、迷惑行為を平気でするヤツ……まあ友達になんて無理でしょ。逆に自分が気に入られないケースだってある。


 つまり、認め合えなければ友達になんてできっこない。


 やっぱり大事なのは、お互いを認め合うことなのだと俺は考える。お互い気に入らない部分が多ければ友達になんぞなれん。だがしかし認め合うことができれば、性格が真逆だろうと友達になれるのだ。


 たとえば一年前の桜庭かなえと織川舞夏も、お互いの長所と短所を認め合うことができた。だから性格が対照的でも、今のように友達という関係を保てるのではないか。

 ならば俺はどうかというと、……どうなんだ? 友達は、多くはないといえいるにはいるが、心の底から認め合っていると訊かれれば……残念ながら答えはノー。やっぱ難しいな、認め合うことって。


 しかれど、桜庭かなえと織川舞夏のケースのように不可能なことではないので、――――いつか心の底から認め合え、信頼のできる友の存在とやらが得られることを信じたい。

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