3-7

 練習二日目。


 俺、桜庭、織川の三人が練習室に赴くと、二人の先輩がすでに演奏の練習をしていた。


「あ、みんな、歌詞は考えてきた?」


 ギターを弾く手を止め、俺の元までやって来た西尾先輩。俺は自分考案の歌詞を二人の先輩に見せた。


「わぁ、素敵な歌詞。巧くん、これでいいよね?」

「うん、曲に合った素晴らしい歌詞だね。これでいこう。それじゃあ早速だけど三人とも、練習を開始しようか。スケジュールはこれね」


 岡崎先輩は俺、桜庭、織川に練習スケジュールをまとめたプリントを渡してくれた。学園祭までの日程が記されており、全然無理は無さそうだ。


「よ~しみんな、初めての練習だねっ。気合入れて頑張ろ!」


 本日の練習時間は計一時間、四十五分が個人練習で十五分が全体練習らしい。ただし学園祭が近づくにつれて全体練習の割合を増やすと先輩は言った。

 個人練習――、俺は譜面と格闘しながらキーボードを手名付けることに終始打ち込んだ。

 そして個人練習終了、全体練習の時間。

 西尾先輩が譜面を俺たちに示しながら、


「今日はサビの直前まで弾いてみましょうか。みんな、準備はいいかな?」


 岡崎先輩のドラムの音を合図に演奏開始。だが、


「あっ、すんません……」


 出だし早々の俺のミス。入り方をミスってしまい、思わぬ音が演奏をぶち壊してしまった。

 西尾先輩、岡崎先輩は軽く笑ってくれ、


「神宮寺くん、気にしない気にしない。バンド初心者ならよくあることだからっ。さ、気を取り直して」


 織川も先輩方と同様、冗談めかしく頬を緩めて、


「ドンマイ、初っ端は結構ムズいもんね」


 だがしかし、桜庭は「ここ、ミスるとこ?」とでも言いたげに俺を見てきた。そういう顔をされると申し訳ない気持ちで胸がいっぱいになる。


「かなっち、そんな顔しないの。間違えることは誰でもあるんだから」

「しっかりしてよね。初っ端コケるのは縁起悪いし」


 練習再開、しばらくは不揃いながらも演奏は順調に進んでいったのだが、サビの四小節手前で俺がミス。とんでもない音色を連続で出してしまった。


「スイマセン、手が絡まっちまって……」


 実は練習でも手間取った箇所。指の動きの関係上、弾きにくいことこの上ないのだ。しかしこれを言い訳にしていてはダメだと自覚はしているので、もう一度謝って演奏再開。だがしかし、この後同じ小節で二回連続躓いてしまった。


「……チッ、連続で間違えるのはねーわ。……ほんと、申し訳ないです……」


 自分にも腹が立ったし、先輩方、それに織川や桜庭にも申し訳なさが募る。

 これには流石に黒髪ロングの桜庭かなえが、


「三回間違えるのはどうなの? ねぇ、マジメにやってる?」


 イラついたように黒く細い眉をひそめ、少し強めの口調で言い放ってきた。正直、メチャクチャ怖い。間違いを犯し立場が弱いというのもあるが、気持ちは萎縮する。


「わっ、悪い……。個人練習でも上手く弾けなかった……。家で復習するから……許してくれ」


 喉の筋肉が強張る。他の女子に比べれば比較的接し慣れた相手とは言え、怖い。


「かなっち、そうやって責めちゃダメ。ぜんじーだって失敗したくてやってるんじゃないから。……ね、ぜんじー? 気にせずガンバ!」


 天使のごとく俺に声を掛けてくれた織川。情けなくて何も言葉が出てこなかったが、彼女には心の底から感謝した。


「……ふん、なにデレデレしてるんだか」


 ポツリと、不機嫌そうに呟いた桜庭。その時、


「………………」


 怖いくらいに真顔で桜庭を見た織川。


「………………」


 同様、笑いも怒りもせず織川を捉えた桜庭。


「………………」


 二人と同じように押し黙った神宮寺善慈。


 だけど俺が押し黙った理由は、二人とは訳が違う、それはすぐに自覚した。

 だがすぐに、


「みっ、みんな! あとちょっと頑張ろっか!」


 西尾先輩が俺たちの間を切断するように、明るい声でそう言ってくれたのだった。

 その後、先輩方のフォローもありなんとか本日の目標は達成できた。これには俺も一安心。


 だが。


 気のせいか? 桜庭、織川の間に一瞬流れたあの変な空気。


 まあ、俺の気にしすぎということにしておこう。

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