0-12
筆箱を開けてシャーペンを取り出してみれば、どうやら芯が切れてしまったようだ。しまったな、替えの芯は昨日切らしていたし……。仕方ない、他人に貸しを作るのは嫌いだが、授業中に一人だけ文字も書けないような原始人になるハメにはなりたくはない。小学生の時、鉛筆を忘れた際に爪で文字を刻印していた光景を教師に見られたのは嫌な思い出だ。
篠宮は隣の西野たちと噛みあわないラブコメトークをしているので、机に伏している出雲に話を持ちかけることにした。
「おい出雲、お前ぼっちか? 朝から机に伏してると勘違いされるぞ?」
出雲の髪を摘まみ上げたり突っついたりしてみる。だが、
「――……すぅ…………」
「おいおい、ホントに寝てんのか。つーか、コミュ力の高い出雲がぼっちなワケねぇか」
可愛らしく寝息を立てる少年を、たかがシャーペンの芯を借りるために起こすのは気が引けたので、ここは別の人間に借りることにしよう。
教室を一通り見回していると、
「…………織川、アイツ」
やはりとは言うものの、金髪お団子ツインテール、おまけに着痩せ傾向にはあるものの巨乳女子は目立つ。そんな織川舞夏はドア付近で、告白五秒前な感じでそわそわしていたのだった。何だか妙に緊張しているみたいである。
と、そこへ、
「…………ル、ルミちゃん!」
改造を施したスクールバッグを肩で背負うようにして登校してきたのは高坂。登校で暑
さを感じたからか、ブレザーもバッグに被せるように肩で背負っていた。
「…………チッ、性懲りもなく……また文句でも言いたいの? で、どーしたの?」
投げやりな様子で面倒そうに、織川から離れるように自身の机に向かう高坂。
織川はもじもじと両手の指先を弄り、
「……英語の宿題見せて」
高坂は立ち止まり、ポカンとマヌケ面で、
「え?」
「だっ、だから! 眠たかったから英語の宿題やってないの! ほらっ、見せて見せて!」
織川はせがむように高坂に両手を差し出したのだ。
呆れたように口を開けていた高坂だったが、やがてガックリ肩をすくめて、
「数学もいいけど、英語の宿題もしっかりヤレって何度も言ってるでしょ? もう……」
高坂は席に着き、スクールバッグから英語のノートを取り出した。
「ほらっ、丸写しはダメだからね。私が共犯者だってバレたら嫌だし」
織川はニコリと笑って、
「ありがとう、ルミちゃん! えへへ」
渡されたノートを大事そうに両手で抱え、織川は席に戻っていった。
「……――ん、あれ? 善慈、どうしたの?」
おっと、出雲の目が覚めたようだ。
「ってか、どうしたの? そんなにニヤニヤして。ちょっと気持ち悪いよ?」
「ふんっ、まあお前には分からんで結構。それよりも、シャーペンの芯を俺に貸してくれ。礼は倍にして返すからよ」
結局のところ、織川舞夏のとった行動は簡単なものだった。
『――――決めた。あたし、行動で示すから』
この行動とは、どうやら高坂玖瑠未の悪いと思った点を説教臭くクドクドと言葉を並べるのではない。高坂とは変わらずに友達として接すればよい、これが織川の出した結論だろう。
「ふん、俺の出る幕はなかったようだな。ま、人の嫌な面も受け入れて、それでも普通に接することを教えるのは俺じゃ無理か。こればかりは織川じゃないとな」
高坂と織川、そして周りには片瀬やら数人の仲間が楽しそうに集まっていた。俺にとっちゃあ近づきにくいことこの上ないが。
そんな彼女らの様子を傍から眺めるのは篠宮と俺。
「織川は天使みたいなヤツだな……。俺なら付き合いヤメることもないけど、確実に距離は置くぞ?」
「縁は切らないのか?」
「それは短絡的な考え方だ。いくらなんでも高坂を敵に回すのはアレだ」
どうやら簡単に縁を切れば良いと思っていた俺は相当なアホのようだった。桜庭に篠宮、それに織川だって分かっていることを俺が分からなかったのは反省せねばならない。
「織川はそんなこと考えてないだろ」
自信満々な顔でそう言った篠宮。
「敵に回すとか、クラスの中での立ち位置が怪しくなるとか、そんなことは考えてないさ。単純に高坂と仲直りしたかっただけだろ」
ふん、わざわざ言わんでも分かる。あんな楽しそうな織川の顔を見ればな。
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