第2話 ここ何処!
「痛っ」
全身の電気的刺激に思わず悲鳴を上げながら目を覚ます。
「チクショー、痛いんだよ!」
左腕の管理用マルチ端末を睨みつけながら文句を呟く
『最終の呼びかけから3分を経過しましたが応答がなかった事とバイタルの状態から意識消失状態と判断し覚醒を試みました』
「気を失ってたのか。ウェ、気持ち悪い。飯食う前でよかったよ。無駄にするとこだった」
シークエンス完了を告げられ手元に現れた最終確認ボタンを押した直後に、内臓が持ち上げられるような浮遊感のあと上下感覚を喪失してブラックアウト。気を失ったようだ。とりあえずまだ生きているらしい。
「で、通常空間には戻れたの?ここ何処?」
『船外の状況から亜空間トンネル内ではありませんが通常空間であるとも確定できません。また、現在地の確定も出来ていません』
「ん、そりゃどうして・・・」
『外部観測の結果、航宙図に登録された恒星や星系が確認されていません。星の配置に明らかな違いが確認されます』
「なるほど。つまり、少なくともここは連邦の航宙可能領域ではないどこかという事でいいのかな」
『はい。通常空間であれば知っている星の光も届かない遥かな辺境、又は全く知らない異空間と推測されます』
「て事は自力で連邦に帰ったり救助が来てくれたりする可能性は・・」
『限りなくゼロに近い確率です』
乱数の女神様には完全にそっぽを向かれたらしい。
ハァ、一難去ってまた一難。とりあえず生き延びたみたいだけどお先真っ暗、知らない空間で独りぼっちってか。俺、何か悪い事でもして罰でもあてられてんのかよ。
あっ、上官タコ殴りにしたのは悪い事とは思っていません。
「船の状態は?」
『外装、内部機能共に異常はありません。問題の第二、第三量子ジェネレーターは停止中。技術ユニットが構造確認を行っています。
原子力バッテリーはジャンプアウト後に亜空間シールド展開の必要がないことを確認できた事から再充填過程に入り充填完了は141時間後です。
現在は第一量子ジェネレーターが稼働率20%で船内環境維持を継続しています』
この船は全長782メートルの巨体を有する外宇宙用貨物船。通常はその巨体故に惑星に降下することなく衛星軌道上に待機しながらランチや軌道エレベーターで地上との物資のやり取りを行う。
この時代の船は大まかに一般用と軍事用の二種類に分別され、その最たる違いはエンジン出力と武装。じゃあ一般用は全く武装がないのかと言えばそうでもない。宇宙空間での海賊行為に対応するための最低限の武装は許可されているし、備える事が義務づけられている。
同じように船内装備も乗員の食事を含む生活環境を維持する生活ユニットや医療ユニット、破損や故障のトラブルに対応するための技術ユニットなどの設置が定められている。宇宙空間は軍と民間で扱い分けてくれたりしないから。
ぶっちゃけこの船の装備は最低限の物だが100人位は余裕で暮らしていける。
でも、こんなにデカい船でも搭乗員一人で運用できるのは何故か。全ては完全自律型AIのおかげだね。船体機能と物理的作業を行うワーカーと呼ばれるドロイドを管理運用する優れモノだ。この船のAIの名前は「ドルシネア」、愛称は「ドル」だ。
これは俺が学生時代から大事に育て上げたプログラムで、俺より俺の事を分かっている大事な相棒だ。俺の生活環境が変わる度にカスタマイズを重ね、貨物船の運行管理も問題なく熟している。
じゃあお前、要らないじゃんと言われそうだがそうはいかない。どんなに優秀でも人の造りし物は人を傷つけず人に従うとの大原則があるので責任者としての人間の配置は必要なんです。
攻撃して人間を傷つける可能性が高い行為はAIには出来ないので軍艦には未だに人がうじゃうじゃ乗ってます。
「よし、暫くは大丈夫そうだな。でも漂ってるのも性に合わないから降りられそうな星でも探しながら移動してみようか。ひょっとしたら知ってる場所に出られるかもしれないし」
『了解しました。外部探査を実施しながら最も近い星系への航行を開始します』
そしてロシナンテは愚か者を乗せて未開の空間を進んでいった。
・・・・・・・
「これから俺の大冒険が始まるんだ!」
なんて呑気にドキワクしてたのは何処の愚か者だ。まったく。
あれから既に3か月
「これで何個目だっけ?」
『18個目です』
俺たちは相変わらず知らない宇宙をさまよっていた。
結局、ジェネレーターの不調の原因は不明のまま。技術ユニットの調査の結果、物理的な問題点は発見されず、再起動を試みたらあっさりと動きました。
確認のしようがないけどドルの推測では「至近での超新星爆発などにより放出された大量の宇宙線がジェネレーターチャンバー内の量子活動に影響を及ぼしたための一時的な不調」ではないかとの事だった。
今は動いていて船の運航に問題がないのでこの件は一旦終了でいいかな。
それより直近の問題は、どこまで進んでも知ってる場所は出てこないし、着陸して生活できそうな星も見つかりゃしない事。やっぱりこのまま宇宙を漂って果てるしかないのかねと悲しい気分になりかけた時だった。
『前方62光年の惑星上に海らしきものを確認しました』
「キターーー!!!!!」
海だよ。水だよ。液体の水があるという事は継続的な火山活動等で排出された二酸化炭素のような温暖化効果ガスに覆われており一定の環境が保たれているということ。その安定した環境下では生物が発生する確率も高くなる。こりゃ期待できるかも。
「全速でその惑星の低周回軌道まで移動して、速やかに大気分析と惑星表面の状態観察を実施してくれ。あ、軌道上に人工物を確認したら接近中止で」
『了解しました』
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