第98話 復帰
マリダと一緒に湖畔の森の入り口に転移した俺たちは湖の景色を眺めながらゆっくりと歩いて街に入った。
日常の営みとは凄い物だ。
まあ戦争など関係なく人は食わなければ生きて行けないから当然と言えば当然なのだが。
戦争の経過が公式に発表された影響もあるのだろうがティリンセの街は行動制限も解かれ開戦前と変わらぬ生活に戻っている。
途中で水面の煌きの前に行列が出来ていた。料理の評判は上々のようだ。
ラードの製造はモニカやメリッサのお陰で順調に進んでいる。レシピと共に市販されるのもそう遠い先ではないだろう。
特にやる事もないので体を動かそうとかとソシエに向かう。
最近は夜しか汗かいてなかったから。
受け付けで訓練場を使いたいと申し出ると
「紛争参加を理由に退会処理が行われていますが再登録しますか?再登録には費用がかかります。予定は空きがありますのでこのままゲストとして有料で使用する事もできますがどうしますか」
との事。
そういえばキアーラが手続しといたとか何とか言ってたな。
一旦落ち着いたとはいえ先行きは不透明だ。再登録のタイミングはキアーラに相談してからの方が良さそうなんで今日の所はゲスト扱いで使用料を払って使わせてもらう事にした。
ついでに返却してなかった登録証も返した。
身分証はメリッサが登録してくれた商工組合の登録証があるので大丈夫。
パテント料の支払いに必要だからと登録しておいてくれた。
訓練場の人影は少なかった。
手の空いてるアジェント達をキアーラが纏めて連れていったせいだろう。
俺がストレッチをしてる間に武器を選んでいたマリダがアジェントから声を掛けられていた。
「突然スマン。私はイリス。あんたマリダだよな。キアーラさん達とフォーゲに行ったんだろ。向こうはどうなってるんだい」
俺たちがここ最近キアーラと親しくしていたのを知っている何人かが戦況を聞きに来たようだ。
「フォーゲは大きな戦闘もなく無事よ。ローザンもリシャールも王国軍が抑えたからもう少ししたらキアーラさん達も戻ってくると思うから安心して」
「そうなのか。私達が戻ったのはみんなが出た後だったから追加の募集でもあればと思ってたけど出番はなさそうだな」
ちょっと残念そうだ。
「これから訓練なんだろ?良かったら私達も一緒にやらせてもらえないだろうか」
後ろの三人を見ながら聞いてきた。四人でトレーニングをしていたのだろう。
マリダが俺の方を見るので軽く頷く。
「リュートもいるけど男が一緒でもいい?それでよければ私達は構わないけど」
「勿論。アイツがキアーラさんを投げたのを見てるからな。一度手合わせしてみたかったんだ。私はイリスだ。よろしく頼む」
そう言ってイリスは右手を差し出した。
そんな日々を過ごしながら瞬く間に三週間が過ぎた頃に伯爵が帰ってきた。
リシャールでの交渉をアイスラー公爵に一任してニケ王が王都に戻るのに合わせて伯爵もローザンを一旦離れる事にしたようだ。
ローザンは逃げたロマーヌ兵や不穏分子の掃討の必要もある事から当面はルース司令が指揮を執る。
伯爵自身は二週間後に王都での報告会の出席を命じられたようで慌ただしくモニカでは処理できなかった仕事を片付けている。
三日後には出発の予定で、俺とマリダも同行を命じられた。
俺たちは相も変わらずメリッサ邸に居候中なので然したる準備の必要もなく出発の時を待つだけだ。
もちろんメリッサと暫しの別れを惜しみながら。
まあ、今生の別れじゃないから一月もすれば帰ってこられるだろうけど。
因みにマリダに事の成り行きを説明したところ「おめでとうございます」とは言ったものの、予想通りと言うべきか感情的な反応は示さずに生物学的アプローチによる学術的な興味が大半を占めている様だった。
俺の
映像資料の提供を求められたがそんな物は存在しません。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます