第99話 王都
ティリンセから王都までは馬車移動で七日前後かかる。
ローザンに国境があるのだからその隣のティリンセもそこそこ辺境だ。
しかしこの旅の途中におかしな奴らが出てくることもない。
どんなに馬鹿な盗賊も騎士に取り囲まれた伯爵家の紋が描かれた馬車を襲う事はない。
仮にその場は何とかなったとしても、その後は貴族の威信にかけて地の果てまで追われることになるからだ。
それでも襲ってくるとすればそれは個人的な確執に起因する貴族同士の争いだろう。
しかしそれも既に国王派として名前が売れているティリンセ伯爵に面と向かって難癖をつける根性のある貴族はいないようだ。
強いて言えばローザン伯爵がその役回りだったのだろうが今回の騒ぎで退場と相成った。
俺とマリダは伯爵と同じ馬車に乗る訳にもいかないので随行の荷馬車の荷台で尻の痛みに耐えながら旅を続けていた。
別行動で王都の近くに転移することも考えたのだが、日常を知るいい機会だったし態々怪しまれる別行動もどうかと思い一緒に行く事にしたのだが…。
今までインチキな途中参加の旅しか経験していなかったのでその辛さも
素直に他の皆さんの辛抱強さに脱帽です。
でもそんな艱難辛苦を乗り越え旅の終わりは目前に迫っている。
眼前に広がる長大な城壁。
観測データで分かってはいた事だが高さ10メートルを超えるであろう石壁が延々と続くその威容を実際に目にすると感嘆するしかない。
どれだけの労力と時間を費やせばいいのかすら想像できない。
王都ミケドニアはティリンセと比較にならない規模の街だった。
ティリンセは
ドルの試算でも推定人口は10万を超えている。
大陸でも屈指の大都市だ。
その規模に並ぶのはロマーヌ帝国の帝都ハインローマ、ヴェアリシャル聖皇国の聖都サントヴェアリス、隣国ジェロムハス王国の王都ハースくらいだろうか。
王都に入るための検問に多くの旅人や商人が列を成す横を悠々と通り過ぎた一行は貴族門から王都へと入った。
壁の内側にあったのは活気の坩堝だった。
多くの露店が立ち並び広場はまるで市場の様相を呈している。
長い旅路を経て王都に辿り着いた人たちの希望とそこに住む人たちの生きる事への活力が混ざり合い、いい意味で混沌とした空気を醸し出している。
その迫力に圧倒され感慨深げに街並みを見つめたまままま立ち止まる者。
そんな佇まいの旅人にこの時とばかり物を売ろうとしたり宿を斡旋しようと声を掛ける者。
少しでも早く商人が持ち込む商品や情報を手に入れようと手薬煉を引いて目を光らせる者。
訪れる予定の客人を案内の看板を手に持ち待つ者。
そんな人混みに埋め尽くされた広場を馬車は石畳にカポカポと蹄の音を響かせながらゆっくりとした常歩で進んで行く。
街中は馬が走る事は禁じられているため人が歩くのと変わらない速度でしか移動できない。
ゆっくり半刻ほど進むと目の前には新たな石壁が現れる。
この先には貴族が暮らす地区があり、その中心に王城が聳え立っている。
第二の石壁の先は正に緑豊かな閑静な住宅街。
門扉の奥の広い庭の奥に立つ白い瀟洒な建物たち。
どこもかしこもそんな感じでさっき通って来た雑踏に続いているとは思えない別世界が広がっていた。
ティリンセも同じように区分されていたが規模がまるで違う。
正にこれが王都の証なのだろう。
そして辿り着いたのはティリンセの官邸の倍はあろうかという豪邸だった。
貴族が集まる機会の多い王都では会場確保のためどうしてもこの規模の屋敷が必要となるそうだ。
王都にいる間はここが拠点となるのかと建物を見上げる。
立派過ぎで気後れするよ。
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