第100話 登城
「…以上がこれまでの経緯となります」
ここは王城の会議室。
巨大なテーブルの両脇に居並ぶ諸侯に対してティリンセ伯爵が今回の一連の経緯を説明し終えたところだった。
「ここまでの説明は私もこの目で確認したところだ。間違いはない。何か質問は在るか?」
上座から話を纏める声をかけたのはもちろんニケ王だ。
「帝国がケビンウッドの独断と言っているのはどこまで信用できるのでしょうか」
「恐らくは時間稼ぎの言い訳でしょう。実際すぐ後ろにアーガイル将軍率いる第一軍が控えていたのですから。こちらの対応が遅れていれば間違いなく攻め込んできていたはず。皇帝の命無くして第一軍が動く事などあり得ない事です」
軍務卿ウォーレンシア侯爵の問いに宰相ヒューリック侯爵が答える。
「ならば今ここで講和の形を取ったとしても無駄ではありませんか」
「帝国が何を考えて一旦矛を収めたのかは分かりませんが時間を得られるのは我が国にとっても僥倖。備えを怠る事無く迎撃の準備を進められます。まずは講和と並行してリシャールの先に砦を築き二千の兵を常駐させる環境を作ります。当面は現在の第一軍と入れ替わるために向かっている第二軍をこれに当てる予定です。労役の確保は任せてよろしいですねティリンセ伯爵」
「お任せください。既に帝国兵捕虜とローザンの反乱に加担した者たちである程度の労力は確保できておりますので現地では作業に取り掛かっております」
「陛下は全面戦争は避けらないとお考えですか」
「もちろん講和を通じて出来るだけの事はするつもりだが向こうが攻めてくる以上黙って観ている事は出来ない。こちらから攻め込むのは帝都を落とさなければ終わらないと判断した時だ」
「その猶予は」
「一年以内だ」
「一年ですか。余裕があるとはいえない期間ですね。しかしその根拠は」
「ティリンセ伯爵からの情報だ。帝国は何やら準備を進めているらしい。そうだな伯爵」
「はい。一年以内には新しい武器の準備ができるようだと傭兵からの報告を受けております。準備が整えば再度の侵攻は避けられないかと」
「傭兵?そんな輩の話を信用しろと言うのか」
「ふふ、たかが傭兵と侮る訳にもいかんぞウォーレンシアよ。ティリンセの初動でのその働きは見事な物だ。たった二人で四百もの伏兵を退け、最後は逃げ出すケビンウッドを捕らえたのだからな。そんな傭兵が持って来た話だ。無視する訳にはいかんだろう」
「陛下のお言葉のままに」
「仮にその読みが外れても無駄にはならん。国境警備の補強は必要な事だ。今までネヴィア・ローザンが面従腹背で止めていた物を進めるだけだ。多少急がせる事は仕方がなかろう。半年以内には準備を終わらせるつもりで動け。軍務卿はリシャール国境軍の編成に伴う騎士団を含む各軍の再編成を。内務卿は装備品及び兵站の確保を最優先としろ。ティリンセ伯爵には王国領となったローザン地方の代理執行官の権限を与える。ティリンセと共に治め次なる侵攻に備えよ。全ての者がこれに協力するように」
「「「はっ」」」
全ての参加者が立ち上がり胸に手を添え頭を垂れたところで会議は終わった。
廊下を通る人の気配が多くなった。
「引っ張り出されないで済んだみたいだな」
「はい。終わったようですね」
俺とマリダは会議室の傍の一室で座り心地の良い椅子に腰かけのんびりと時間を潰していた。
新しい情報を提供するために伯爵についてきたのだ。
「陛下がおみえになります。起立してお待ちください」
扉を開けた近衛の声掛けに従い席を立ち直立の姿勢で主賓の来訪を待つ。
「待たせたな。マリダ、リュート。久しいな、変わりはないか」
「はい。お陰を持ちまして日々滞りなく過ごさせて頂いております」
国王の問いにマリダが恙無く答える。
部屋には国王に続きティリンセ伯爵ともう一人。
「メリンダ・ヒューリックだ。宜しく頼む」
「名宰相の誉れ高いヒューリック侯爵にお会いできて光栄です。私はマリダ。そしてリュートです」
「リュートです。こちらこそ宜しくお願いします」
挨拶を口にしながら互いに右手を差し出し握手を交わした。
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