第16話 メリッサ邸
馬車で5分程移動するとメリッサの家に着いた。白壁の立派な建物だ。街中と違い、広い敷地に隣と十分に空間を取り建てられている。周りもそうなので、この一帯がこんな感じなのだろう。上流階級の住居区域のようだ。
玄関前の馬車寄せでメリッサに付いて馬車から降りると。使用人らしき年配の女性が一礼してから話かけてきた。
「メリッサ様、お帰りなさいませ。お話はニーノから聞いておりますので準備は整っております」
「そう、ありがとう。じゃあ、お客様を部屋までご案内して。私も食事の前に着替えたいし一息つきたいわ。ああ、マリダ達はそのままで大丈夫よ。食事の用意ができたら呼びに行かせるからそれまでゆっくりしてて」
玄関ホールは吹き抜けで、両脇に階段がある広々とした造りだ。
「こちらへどうぞ」
使用人に導かれ、付いていくと2階の部屋に案内された。
「こちらでお食事の時間までお寛ぎください。直ぐに飲み物とお湯を持ちいたします」
使用人が部屋を出ると改めて室内を見回す。
30平米程の広さの部屋にベッドが2台とテーブルとイスが2脚。奥の壁には窓があり、外はまだ薄暮だが両脇の壁際では照明の炎が揺らめく。
そう、ベッドなんだ。そこにあるのは藁袋に包まる硬い寝台ではなく、柔らかそうな布団が掛かったベッドと呼べる物だった。木枠に革を張りその上にたっぷりと藁を詰めた厚めの袋の上に動物の毛を詰めたと思われる軽い袋が掛けてある。一番上には肌触りのいい生地の夜着が広げてあった。
そして窓。窓枠には曇りや歪みはあるが向こうが見える程度には透明な板が嵌められていた。ガラスかと思い軽く指でつついてみると、ガラスというよりプラスチックのような音がした。ガラスが無いのに石油化工製品なんかあるのか?謎物質だ。
「廊下に人を待機させておりますので、御用の際はお申し付けください」
案内してくれた人とは違う人が、お茶とお湯の入った桶を置いて部屋を出ていくと、早速マリダに聞いてみた。
「これガラスじゃないのかな」
「分析器にかけてみないみないと判断できませんが、光の屈折率はガラスとは違うようです。厚さのムラの発生パターンもガラスの製法では発生しにくいパターンが検出されています」
「しかし立派な家だね。かなり金持ちみたいだ。商売上手くいってるんだろうね。検問も顔パスっぽかったし、ソシエの部門責任者とも知り合いなんて、かなりの有力者だろ。上手く付き合えればこの街じゃ過ごし易くなりそうだね」
「後ろ盾のない私たちには大変有意義な巡りあわせだと思います。盗賊に関わるリスク以上の物はあったでしょう。このまま良好な関係の構築を目指すべきかと」
「情けは他人の為ならずか。こんな宇宙の果てで実感するのも変な感じだ」
お茶を飲みながらそんな話をしていると食事に呼ばれた。
使用人の後ろに続いて、上ったのとは別の階段を下り食堂へと向かう。階段いくつあるんだよこの家。
食堂では既に席についていたメリッサとニコレが席を立って迎えてくれた。
「こうしてまたニコレと食事ができるのも、マリダとリュートのお陰よ。今日は本当にありがとう」
豪華な料理が並べられているテーブルを挟んで二人は頭を下げた。
「大したもてなしもできないけど、せめて今日は遠慮しないでたくさん食べてちょうだい。ほら、座って。お待たせしちゃったからお腹減ってるでしょう。さあ、食べましょう」
料理はどれも美味かった。グラニドの宿の料理も美味かったのだが、素材の味と味付けの主張がそれぞれ強く尖った印象なのに対して、この料理は手間をかけて最良の調和を生み出して、それぞれの味を高めている感じだ。大衆食堂と高級レストラン。とちらも捨てがたい良さがある。
食事中の会話で分かった事がいくつかある。
メリッサは36歳。商会は4代目として3年前に亡くなった母親から引き継いだそうだ。街の商会としては古株で王宮とも取引があり信用も篤いようだ。今回はニコレが10歳になったこともあり、他の領の実情と商談を学ばせようと初めて連立って出かけ、その帰路に盗賊に襲われた。
盗賊はけっこういるらしい。殆どが10人以下の集団で、ソシエが
そんな中で気になった話が一つ
「それにしてもティリンセ湖は美しいですね」
「そうね、見慣れている私でも今日みたいな天気のいい日はずっと眺めてたくなるくらい綺麗だわ。綺麗だからこそなのかもしれないけど伝説も多いのよ。一番有名なのは、あそこには大昔にとても栄えた国があったんだけど、神の怒りに触れて滅ぼされ、その時に湖ができたっていうお噺かしら」
「へぇ、そんな話があるんですか。神話みたいですね」
「それにね、ここでは昔から湖面が光るのを見た人が大勢いて、強ち作り話じゃなくて本当に何かが湖の底にあるんじゃないかって。研究してる人もいるみたい」
湖に沈む秘宝。ロマン溢れるでしょ。
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