第17話 報酬
翌日の目覚めは爽やかだった。快適な寝床のお陰だ。
この社会は夜明けとともに動き出す。便利な照明がなく、夜の行動が制限されているから陽の光は貴重なんだね。
俺たちも窓の外が白々と明けてくると食堂へ向かった。
昨日、部屋に戻る前に朝食は夜が明けたらいつでも食べられるように準備していると伝えられていた。
食堂では既にメリッサが朝食を摂っていた。
「おはようマリダ、リュート。ゆっくりできた?」
「おはようメリッサ。昨夜はおいしい食事も頂けたし、ベッドの寝心地も良かったからさっきまでぐっすり」
「それは良かったわ。さあ、座って。私は仕事があるから先に頂いちゃってるけど」
盗賊のせいで到着が一日押して、予定していた休みが取れなくなったそうだ。
席に着くとすぐに温かいスープ、パン、薄く切った肉を焼いたものが並べられる。
この世界は朝からしっかり食べる。その分、昼は軽く済ませて夜にまたしっかり食べる。食品の保存技術が低いので移動に持って歩ける食べ物が少ないし、都合よく飯屋なんかない。
「今日はどうするの?」
「街に出て様子を見ながら宿を探すわ。どこかお薦めの宿はある?」
「無理に探さないで暫く家にいればいいのに」
「そういう訳にもいかなわ。昨夜泊めてもらっただけでも申し訳ないのに」
「気にする事ないのに。でも、無理に引き留めるのも良くないわね。じゃあ、今のうちに。マイア、お願い」
メリッサが声をかけると、昨日出迎えてくれた使用人が上品な造りの木の箱を俺たちの前に置く。
メリッサに視線を移すと頷くので箱の蓋を開けると、中には中央に王冠を象った金貨より二回り大きい眩い白金のコインが2枚入っていた。
「これは・・・」
「今回の謝礼よ。お金でどうこうできる事じゃないのは分ってるけど、私たちの気持ちだと思って受け取って。それだけ私とニコレは貴方達に感謝してるのよ。勿論、これで終わりじゃないから困ったことがあったらいつでも言ってちょうだい。できる限りの協力をするわ」
それは白貨だった。価値は一枚で金貨100枚分、一千万セルだ。
「これは貰い過ぎよ。偶々通りかかって寝てる盗賊捕まえただけなのに。盗賊捕縛の報酬も全部私たちが貰える事にしてくれたんだから、それだけで十分よ」
「偶々でも態々でも関係ないわ。大切な事実は、殺される運命だった私とニコレを貴方達が助けてくれたと言う事。そのお金で殺されても生き返れるなら大事に取っておくけど、そんなことはできないでしょ。私とニコレのこれからの人生、それに関わり暮らす多くの人達の人生の値段としては安すぎるくらいだわ」
「でも」
「仮に身代金で私が生き残ったとしても、あの盗賊はブランキア商会を知っていたんだから要求額はそれの何倍にもなっていたでしょうね。だから受け取ってちょうだい。そして私に気分よく仕事をさせてちょうだい」
そう言って微笑むメリッサには勝てませんでした。ワタシマケマシタワ。
その時、外から鐘の音が聞こえた。
「あら、もうそんな時間?急がなきゃ。そうそう、お金はソシエか商工組合で預かってくれるから。詳しくはマイアかニーノに聞いて」
と言い残し、メリッサは仕事のために慌ただしく席を立った。この世界でもセレブが時間に追われるのは変わらないようだ。
残された俺たちは食事をするのも忘れ、スープが冷めるまで箱の中の煌めきを眺めるしかなかった。
お金はソシエに預ける事にした。昨日、登録も済ませてるし、プレート回収の報奨金の受け取りもある。一度に済ませられるなら、それに越したことはないだろう。
マイアさんに聞いたら、朝の3の鐘前くらいまでソシエは混むそうなので3の鐘を聞いてからマイアさんたちにお礼を言って屋敷を出た。馬車を出すと言ってくれたのだが、道も覚えていたし、大した距離でもないので遠慮させてもらった。歩きながら街の様子も観察したかったしね。
昨日は気付かなかったが、住宅地区の入り口には門があり、両端に衛兵が立っていた。一般的な街の住民とこの地区の住人では確実な違いがあるようだ。まあ、金だろう。うん、金だな。
この手の警戒は入ろうとする者には厳しいが、出ていく者へは緩いのが相場だ。ここもご多分に漏れず、軽く会釈をするだけで何も言われず通してくれた。
門を過ぎると行き交う人が増えてきた。殆どは女で身長は高く、200センチを超える者も数は少ないが見受けられる。偶に見かける男はやはり小さく華奢な体格が多い。男と女というより大人と子供だ。そりゃ俺が目立つわけだ。
俺たちはすれ違う人に時々、驚かれ、好奇の視線を向けられながらソシエに辿り着くと、受付で声をかけた。勿論、マリダが。
「報奨金の手続きをしたいんだけど」
「登録証はお持ちですか」
「これを」
昨日貰った紙を2枚提示する。
「マリダ様とリュート様ですね。支払い手続きは完了していますね。一万二千セルですが現金でお支払いいたしますか?口座への入金も可能ですが」
「それじゃあ等分して口座への入金で。それと一緒に手持ちも預けたいんだけど」
「はい、承ります。おいくらでしょうか」
マリダが俺の方を振り返るので、盗賊の持っていた薄汚れた小袋から白貨を取り出しカウンターに置く。
「二千万頼む」
受付の娘は状況が呑み込めないのか、白貨に目線を落としたまま、ポカンと口を開け止まっている。ちょっとはしたないですよお嬢さん。
そりゃ
「し、少々お待ちください」
正気に戻った途端そう言うと、後ろの事務所へと弾ける様に入っていった。
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