第15話 ソシエ支部
ソシエは目抜き通りを三分程歩いた場所にある大きな建物だった。入口の頑丈そうな観音開きの扉は通りに向かって開け放たれており、頻繁な人の出入りを伺わせる。
メリッサは中に入ると、奥のカウンター越しに座っている何人かの女のうち、接客していない女に歩み寄り声をかけた。
「ブランキア商会のメリッサよ。護衛依頼の件で報告があるの」
「メリッサ様、いつもありがとうございます。はい、こちらで承ります。担当はジョルジャ達のチームでしたね。完了報告は担当から出してもらうのですが、何か問題でもございましたか?」
「ええ、盗賊に襲われてジョルジャ達は全員殺されたわ」
「盗賊!しかも全滅ですか。それではここでは難しい話もあるでしょうから詳細は別室で担当が伺わせていただきます。こちらへどうぞ」
案内された部屋は、大きなテーブルとそれを囲むように椅子が10脚設置された会議室のような部屋だった。そこで三分ほど待っていると、入ってきたのは俺より身長は高いが均整のとれたスタイルに立襟シャツを着て、長めの亜麻色の髪を総髪に纏めた女だった。
「メリッサ、盗賊に襲われたってのは本当か!」
「ええ、本当よ。運よく私は生きてるけど。ジョルジャ達は必死に私とニコレを守ろうと戦ってくれたけど殺られたわ」
「くっ、盗賊共皆殺しにしてやる」
「盗賊は憲兵に引き渡したわ。頭目は縛り首、手下は良くてベリテの鉱山送りでしょうね」
「捕まえたのか!お前だけでどうやって?」
「私とニコレも身代金目当てで捕まっていたのよ。そこを彼女たちに助けてもらったの」
そう言ってメリッサが俺たちの方に手をかざすと、女は俺たちにようやく気づいたのか訝し気に視線を向けてきた。
「私はマリダ。彼はリュートよ。タイミングよく盗賊たちが寝込んでるところを襲う事ができただけ。メリッサも私たちも運が良かったわ」
「そうなのか。いきなり大声を出してすまん。挨拶がまだだったな。私はキアーラ。この支部で
ジョルジャ達は残念だったが、護衛対象のメリッサが無事だったのがせめてもの救いだ。彼女たちが命をかけて役目を果たそうとした事を知ることが出来た。それだけでも彼女たちの名誉を守る事ができる。少しは浮かばれるだろう。重ねて礼を言う」
そう言うとキアーラは机に両手をついて頭を下げた。
「二人には私からも改めてお礼を。勿論、対価も払わせてもらうわ。受けた恩に比べれば十分とは言えないかもしれないけど、私とニコレの気持ちだと思って受け取ってちょうだい。それとキアーラにはこれを」
メリッサは机の上に4枚の金属製のプレートを出した。
「登録証を回収してくれたのか」
「さすがに埋葬まではできなかったけど、少しでも彼女たちの為になればと思って。遺体の場所は憲兵に報告してあるから明日には確認できると思うわ」
「プレート回収の謝礼の手続きをしておく」
「それはマリダたちにお願い。回収できたのは彼女たちのお陰なんだから」
「マリダ、ソシエの登録は?」
「私もリュートもないわ」
「じゃあ登録した方がいい。今回の支払いもスムーズにできるし、色々と役に立つ。邪魔になるものじゃないからな」
そう言うとキアーラは席を立ち部屋を出ると、登録申請用紙と羽ペンを持って戻ってきた。
俺たちは用紙を渡されると名前と年齢、性別を記入し、技能欄には読み・書き・計算・格闘術と記入してキアーラに返した。
「ほう、格闘術が使えるのか。そうじゃなきゃ、いくら寝てるとはいえ盗賊相手に仕掛けられんわな。良ければそのうち手合わせしてくれ。腕が良ければパディにスカウトしたいところだ。特にリュート。男のアジェントが居ない訳じゃないが、お前ほどの体で、戦えるのなら仕事はいくらでもあるぞ。どうだ」
「襲われたら戦いますけど、争いごとには余り関わりたくないので遠慮しておきます。それに期待されるような腕前じゃありませんよ」
「今すぐ決めなくてもいい。気が変わったらいつでも言ってくれ」
「そろそろいいかしら。スカウトはまたの機会でお願い。さすがに今日は疲れたわ。家に帰って一息つきたいんだけど」
「そうだったな、スマン。これが
申請書の下半分を切って渡された。割り印があり名前と登録番号が記入してある。
「謝礼は明日には受け取れるように手配しておく。それと今回の件は、名前は出さないが書類にしてアジェントに公開したい。注意喚起は常に必要だからな。承諾してもらえるかな」
「ええ、問題ないわ」
そして建物の玄関を出た時には陽は傾き、あれほど青かった空は茜色へと変わりはじめていた。
俺たちは暮れかかる街並みを店まで戻り、眠ったままのニコレと共にニーノが準備してくれた
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