第103話 置き土産
「子爵、これは何ですか?」
「あ?何か分ればとっくに整理しておるわい。分からんからそこにある。それは確か随分と昔に迷いの森で見つかったと言ってソシエが持ち込んだ物じゃな。他の依頼で森に入ったアジェントが偶然見つけた物らしい。中央の模様は文字のような気もするが誰も分からんかった。お陰でもう十年近くそこに置いたままだ」
「どこで見つけたのか詳しく知っている人はいますか?」
「ちょっと待て。そいつの資料は確かこの辺に…」
子爵は書架の下段に積まれている書類を漁ると一冊の本を取り出した。
「確かこの中に…。おお、これじゃな。王国歴671年、赤の月、ソシエンテのアジェントが迷いの森で発見と。アジェントの名前はタリー、フェム、キアーラの三名」
「キアーラ!キアーラってティリンセ支部のキアーラですか?」
「それはワシにはわからんな。ソシエで確認できるかもしれんがの。何じゃ知り合いか?」
「ええ、同じ名前のアジェントの知り合いがいるんです。じゃあソシエで聞いてみます」
そんな会話を終えてマリダを見ると小さく頷いた。
「じゃあ今日はこの辺で失礼します。また寄ると思いますけど今日はありがとうございました」
「気にせんでいい。ワシはいつも此処におるからいつでも寄ってくれて構わんよ。時間だけはたっぷりあるからな」
子爵に挨拶を済ませてから俺たちは保管庫を出た。
王城を出るまで俺たちは王城の感想などの差し障りのない話題以外を口にしなかった。
マリダの索敵範囲内に常に二つの反応があったからだ。
恐らく王城警護の監視だろう。
付かず離れず移動しながらこちらの行動をジッと伺っている。
如何に伯爵の連れであり王の許可が与えられているといっても所詮一般人だ。
そんな人間を王城内で自由にさせるのは不用心過ぎるから当然の対応だろう。
多分、宰相辺りの指示かな。
王城を出たところで数こそ一人になったものの監視は伯爵邸に入るまで付いてきていた。
おちおち寄り道もできない。
伯爵邸は入口の門扉から部屋まで優に50メートルはあるので索敵範囲外に離れる事が出来た。
部屋の窓から庭を眺めて漸く一息ついた。
「さすがに敷地内までは入ってこないか」
「向こうも様子見でしょうからそこまでのリスクは取らないといった所でしょう」
「あれだけフレンドリーでもさすが王城ってとこだな」
「国家の中枢ですから」
「しかし面倒な物見つけちまったな。画像出せるか?」
手首の端末の上に浮き出た小さなモニターにさっきの遺物が映し出される。
「この内容が本当なら放っておいていい感じはしないよな」
「マスターからいただいたミラクの言語情報である程度は理解できますがマスターの
解釈をお聞かせ頂きたのですが」
「そうだな。認識の共通化は大切な事だ。ここに刻まれているのは
『禍の獣目覚めし時ラメントの扉は開かれるであろう。
彼の力、人には過ぎた力なり。故にこの地に封印す。
扉開きし者が正しき心を持つ者であることを願う』
てな感じだな」
「何かの警告文のようですね」
「そうだな。『禍の獣』も『ラメントの扉』も何だか分からないけど、どうやらミラクの民の置き土産があるらしい。しかもとびきり厄介そうな奴が」
「ミラクの技術力をもってしても解決できなかった何かですか」
「そうだ。魔素の問題はあったとしても星を見限るには余りにも拙速な行動だったと思わないか?ひょっとしたら奴らがこの星を去った本当の理由かもしれん。しかしその情報はサジからは聞いていない。サジが意図的に隠しているのか知らないだけなのかは分からないが迂闊にサジに確認するべきではない気がする。ノアも同じだな」
「扱いの優先順位が難しい問題ですね」
「そうだな。重要なのは間違いなさそうだけど見つかってからも10年近く経っているなら今すぐどうこうする話じゃなさそうだ。元を辿れば二万年以上経ってる話だし」
「でしたら当面は帝国対策を優先すると?」
「そっちが片付かないとおちおち探索もしてられないだろ。
んー、宿題を片付けに来たはずなのに宿題が増えていく一方な気がするのは俺の気のせい?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます