第113話 身体能力

 皆が見守る中、練兵場の中央付近で対峙するマリダとクロウが手にする武器は共に長さ80センチ程の剣。

 片手でも扱えるし、両手で持って武器の損壊を考慮せずに叩きつければ金属鎧の相手にもそれなりにダメージを与えられる戦場では最もポピュラーな武器だ。


 一般的で汎用性の高いものだからこそ扱う者の技量がものをいう。

 マリダは条件を同じにすることで比較対象としての基準を明確にして収集データの分析に用いるつもりなんだろう。


 ナメてるようにも見えるだろうがリシャ―ルで見たロッソの戦闘状況から判断してる様だから問題ないだろう。


「用意はいいか?では、始め!」


 オデッサの掛け声に合わせクロウが突っ込んで上段に振りかぶった剣を叩きつけてくる。


 「速っ!」


 俺が驚くのに十分なスピードの攻撃だったが、決してマリダが躱せない程のものではなかったはずだがそれをあえてマリダは正面から受けて耐える。


 受けられた事に驚くように一歩下がったクロウだったがそこから鋭い斬撃を連続で繰り出しマリダに反撃の隙を与えない。


 しかしマリダも二撃目からは往なす事にしたのか小さな動きでクロウの連撃を滑らせるように流し捌いていく。


 息継ぎのためか一瞬できた隙をついてマリダが攻撃に転じたが、クロウはその攻めを躱しつつ横に回り込み薙ぐように剣を振るう。


 これにはさしものマリダも大きく飛び退き躱すしかなかった。


 一瞬の静止の後、互いの視線がぶつかったのが合図かのように同時に踏み込み中央で剣を交える。


 力で押し切ろうとするクロウに対してマリダは力を肘で吸収しながら自ら更に間合いを詰めて鍔迫り合いに移行すると見せかけながらがら空きの胴に蹴りを叩きこんで吹き飛ばした。


「ぐっ!」


 予想外の攻撃にマリダへの視線を切り俯いた顔を上げたクロウの視界には既にマリダの姿はなく、その首筋には後ろから剣が突き付けられたいた。


 蹴りを放ったマリダは振り抜いた足の勢いのまま自らが蹴り飛ばしたクロウを追い越すようかのようにその脇を抜け後ろに回り込んでいた。


 完全な死角から急所に剣を宛がわれては反撃のしようがない。勝負ありだ。


「それまで!クロウの動きも良かったけどマリダの方が一枚上手ね。慌てないでもう少し訓練してちょうだい」


「くっ……はい。ありがとうございました」


 さすがにクロウも首に剣を押し付けられては何も言えないのか悔しそうにしながらもマリダに向き直ってペコリと頭を下げた。

 自信に溢れてたからたかが傭兵に後れを取ったのはさぞかしショックだろう。

 でも、相手は戦闘型のドールだからあんまり気にするなよ。教えてやれないけど。


「新人とはいえ選ばれし者エリーテを負かすなんてさすが四百人殺しね。キューも真面目にやらないと知らないわよ」


「ふふーん、そこはこのキュー様にまっかせなさい」


 滅茶苦茶楽しそうだな、おい。俺、大丈夫か?

 そんな事を思いながら戻ってきたマリダに声を掛ける。


「モードはどうした?」

「すみません、変更チェンジしました」

「どの辺から?」

「最初の一撃からです。ここの剣、ソシエにあった物より頑丈にするためなのか重量があります。それでもあのスピードですから威力は相乗効果で比べ物になりません。通常モードでは出力不足で押し負けます。気を付けてください」


 衝撃の大きさは『重さ』と『速さ』に比例して大きくなる。より重い武器をより速いスピードで叩きつければ相手に与えるダメージは幾何級数的に大きくなっていく。


 それを可能にするためには人並外れた膂力が必要となる訳で、普通より重い剣を自由に振り回している時点で彼女たちの基礎的な身体能力の高さは推して知るべしだ。


「キアーラを超える力を使ってアリシア並みのスピードで攻撃されるとでも思っていただければ対応できるかと」


「それ無理じゃん」


 キアーラの攻撃だけでも凌ぐの大変だったのに、それがアリシアのスピードで繰り出されたら武器の重さも相まって攻撃力は倍増してるって。


 ロッソですらないクロウでそんなのなら五輝聖ペンタゴナのキューって一体どれだけ……。




 えーと、キャンセルってできます?


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