第11話 それぞれの出会い


Side ヴィオラ


「なあ、あいつらどう思う」


「悪い奴らじゃなさそうだけど、ちょっと世間知らずって感じだね」


 部屋に戻ったヴィオラの問いにアリーチェが応える。



 今日は面白そうな奴らと知り合った。


 食堂のテラス席で遅めの朝飯を食ってるときに通りがかったそいつらの、いやそいつに驚いて思わず声かけちまった。

 女と見紛う体躯の男なんて誰でも驚く。王都でも見たことがない。

 この町に来て10日。真面目に仕事してたから男を抱く暇もない。そんな飢えてるときにあんな体を見つけちまったら考えなしに声に出してた。少し濡れた。

 連れの華奢な女に文句言われたけど、アリーチェがいつものごとく上手く納めてくれた。いつもアタイの思慮が足りなくて尻ぬぐいさせてスマン。


 物を売りたいらしいからアタイも何度か行ったロブの店を教えてやった。あの爺さんはもう年だし、腰を痛がってるから男としては役に立たんだろな。薬使えば何とかなるだろうがそこまでして抱きたいとは思わない。


 部屋に戻ってから軽く道具の手入れをして道具屋に行った。昨日からアリーチェの弓の調子が悪く、診てもらおうとわざわざ今日は休みにしたんだから。


 道具屋のおばちゃんの見立てでは、弦が切れかけてテンションが変わったから感覚が狂ったんだろうと言われた。すぐに張り替えられるというからグリップの巻き直しと併せてお願いした。


 交換作業が終わると、店の裏庭で試射をして、その感触で微調整をしてもらってから店を出た。アリーチェは仕上がりが気に入ったのか嬉しそうだ。


 宿への道を歩いていると前方にグレタ達三人組を見つけた。グレタはアタイ達と同じ目的で先にこの町に入っていたアジェントだが、仕事もせずに街中をふらついては周りに迷惑をかけているらしい。宿の女将にも何とかして欲しいと頼まれていた。まったくアジェントの面汚しだな。評判落とすなよ。


 バレないように距離を取って、様子を見ながら付いていく。海岸に行くようだ。海岸なら人も少ないから騒ぎも起こさないだろうと思ったアタイが甘かった。


 ちょっと間を置いて建物の陰から海岸が見渡せる場所に出ると、早くも誰かに絡んでるグレタが見えた。相手が今朝の二人組だと気付き、助けに入ろうと一歩踏み出した瞬間に、グレタ達が三人とも吹っ飛び、砂の上で動かなくなってた。


「こりゃ・・・。どうしたらこうなるんだか」


 声をかけながら近づくと、マリダと名乗った女が涼しい顔で返事を返してきた。


「ちょっとこの人たちに絡まれたんでお灸を据えただけ。まずかった?」


 グレタ達の体に隠れて華奢なマリダの動きは良く見えなかったが、腐ってもグレタは銅札クップだ。他の二人も鉄札フェロのベテラン。人数も三対一なんだから半端な実力差じゃこうはならない。アタイでもこれ程あっさりとは片付けられない。本人は嗜み程度と言ってるがとんでもない事だ。


 聞いたらまだ宿は決めてないらしいので、海の調べ亭の女将に紹介する事にした。そして、心の中で朝は喧嘩にならず済んだことをアリーチェに感謝しながら風変わりな二人組を連れてアタイは宿へ向かった。






Side ロブ


 今日の最初の客は変わった二人組だった。


 声をかけながら扉を開けたのは随分と華奢な体格の女。こんな体格じゃまともに男も守れんじゃろうに。


 その後ろにいたのは見たことも無い大きな男。ワシは男として普通の体格じゃが、そのワシより頭二つはデカい。こりゃ珍しいモノを見た。


 今でこそこの田舎町に定住して店を開いているが、若い時分には国内を巡って珍しい事も見たり聞いたりしてきた。しかしここまでの大きさの男は知らん。時たま背の高い男はいたが、大抵は背は高いが細く折れそうな体格だった。そういう男は体力がなく子種も弱いと言われるから女達には人気がなかった。


 だがこの男はどうだ。兵士のような肩幅で、それに相応しいしっかりとした肉付きが服の上からでも見て取れる。鎧を付けて顔を隠せば女だと言っても疑われることはないだろう。きっと毎晩、何度も女に抱かれても問題なさそうだ。おっと、昔の辛い思い出が蘇っちまった。


 二人の用事は買い取りだという。物は上質なクリオスだ。クリオスは薬を作る時や色々な術の触媒として人気がある。特に無色の物は色があるものと比べると癖が無く使いやすい。そのうえ、濁りがなければ仕上がりが良くなるので好まれている。


 そんな人気商品に少々、色気を出して安目の査定を提示したら女にごねられた。交渉の結果は42000セルで落ち着いた。うむ、上手くいかんもじゃ。


 そこまでは普通の商いだ。変わっていたのは取引が決まった後だ。金を払ってもいいからこの町の話を聞かせて欲しいと言ってきた。


 珍しい話の一つでもあれば喜んで話もするが、こんな田舎町にそんな話が転がっている訳はない。そう言うと「それでも構わない。何でもいい」と更に頼まれた。


 何でもいいならワシの昔の旅の自慢話でも聞かせてやるか。丁度、宿酔いに効くクダミの葉で茶を入れる途中だったし、奥で座って話してやろう。渋くて美味い物じゃないが体にはいいからの。


 昨夜は飲み屋で漁師のデミに口説かれて、飲み過ぎたうえに久しぶりに伽をした。おかげで腰が痛いんじゃよ。


 しかしワシもまだいけるもんじゃな。

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