第12話 初討伐は突然に
俺たちは陽が落ちるのを待ってランチのある島に戻った。
ランチのシートに腰を下ろし、マリダが淹れてくれたコーヒーの香りが鼻をくすぐると、気が緩んだのか、軽い疲れを感じた。
「さて、どうするかな。ティリンセに行くならもう少し準備した方がよさそうだけど」
「そうですね。どうせランチを動かすのなら、一度ロシナンテに戻ってもいいと思います。水晶も補充しておきたいですし、装備も少し見直した方がいいでしょう」
「だよなぁ。・・・よし、戻ろう。予定外の宿泊だったから準備も覚悟も足りなくて、たった一晩だったけどベッドが恋しいし。少し寛いで情報を整理しながら準備をしよう」
「では、帰船準備を開始します」
言葉と共にマリダはコックピットへ入っていった。
船に戻った俺たちは必要な物の準備を三日で整え、再び地上へと向かった。
ランチの隠し場所は、街道に沿うように生い茂る森を3キロ程入った場所にある小さな湖にした。水深は20m以上あるし、ランチを沈めても水位に影響が出る心配も無い程度には大きい。暗い湖畔の開けた場所に着陸したランチは、俺たちを降ろした後に、プログラムで指定場所まで移動し、ゆっくりと水中に沈んでいった。
ランチが指定深度で安定したのを確認した後、街道に向けて移動を開始した。朝霧の森の中を足場と獣の気配に注意しながら進むこと二時間。街道まで1キロを切ったあたりだった。
「左前方に10体前後の生物の反応があります」
「10体か。猿の群れでもいるのかな。ここはまた通らなきゃいけないかもしれないから確認だけでもしとこうか」
「では、こちらへ」
腰を屈め下草と樹木に身を隠しながら、音を立てないようにゆっくりと慎重にマリダの後ろについて進む。
「あれですね」
「あちゃ~、猿じゃなかったか」
視線の先には、少し開けた場所にごろ寝する女たちがいた。燻って白い煙を上げる焚火の跡もある。
だらしなく焚火の周りで寝ているのは9人。全員女のようだ。何人かは上半身裸で丸見えです。それよりも気になったのは、その奥で手足を縛られている女と子供だ。寝ている女たちは髪はボサボサで服も肌も黒く薄汚れて清潔感ゼロなのに対し、縛られている二人は汚れはあるものの小綺麗な服で髪もキチンと纏められていた。どう見ても仲間じゃなさそう。
「これって山賊とか盗賊ってやつじゃない?」
「人目を憚ってか、こんな森の中で寝泊まりして、人を拘束しているようですから、連邦の常識では真面な奴らとは思えません」
グラニドでは男女の立場以外の倫理観のズレは特に感じなかったから、その辺の感覚もそんなに違うものではないだろう。
「俺たちの常識と違う事もあるだろうから抵抗されても殺すのは避けよう。とりあえず、寝てる奴らを拘束してから両方の話を聞こう」
「武器の使用は?」
「
バックパックを降ろし、中から警棒を取り出してモード設定してから、レイガンをヒップホルスターで固定する。
「最初は俺が手前の茶髪でマリダはその左の緑頭だ。そこからは俺は右回り、マリダは左回りで頼む。制圧後に手足を拘束して終了だ。そこまで一気に行くぞ」
「はい」
「状況開始」
俺の囁くような号令で始まった作戦はすぐに終了した。
森から飛び出した俺たちに寝たまま警棒を当てられた女たちは、抵抗する事もなく「グッ」とか「ギャ」とくぐもった呻きを発しただけだった。さすがに一番最後の女は異常に気付き、剣を取ろうと手を延ばしたが、その手をマリダが警棒で叩き落すと「ヒッ」と声をあげてから白目を剝いて動かなくなった。150万ボルトは強烈です。
「どうか悪人でありますように」と不届きな願いを口にしながら全員の手足を拘束していく。有無を言わせず失神させた相手に謝るなんてハードルが高すぎる。
縛り終わるとその様子をジッと眺めている奥の女に近づき、正面で目線を合わせるように屈み話しかけた。
「私たちはこの森で迷い、たまたま通りかかった旅の者です。事情が判らないので解放はできませんが、まずは話を聞かせてください。できますか?」
すると女が頷いたので肯定の意思表示と解釈して猿轡を外した。子供も可哀そうなんで一緒に外してやってから、荷物を持って近づいてきたマリダに目配せで続きを頼む。
「まずは、なぜこんな森の中で貴方たちは縛られていたのか教えてください」
「はい。私はメリッサと申します。この子は娘のニコラ。私たちはリミーエで商売をしてティリンセへ戻る途中で、昨日そこの女たちに襲われました。護衛達は皆殺され、荷物は奪われました。私はティリンセでブランキア商会という店を営んでいるので身代金をとるつもりだったようです。娘は恐らくは奴隷として売ろうとでも考えていたのでしょう」
「何か身分を証明できる物はありますか?」
「
「なるほど。話の通りならすぐに開放してあげたいところですけど、向こうの話を聞くまでもう少しこのままで我慢してください。怪我とか具合の悪いところはありませんか?」
「怪我は大丈夫ですが、この子に水だけでも飲ませてやって頂けませんか?昨日から何も口にしていないので」
「じゃあこれを」
俺はバックパックの横に下げていた水筒を開け、自分で一口飲んでから子供の口元で傾けてやると、ゴクリと三口ほど飲んで口を離した。
「おいしい。お母さんにもお願い」
「そうだね」
メリッサの口元に水筒を近づけると、「すみません」と恐縮しながら水を口にした。
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