第6話 接触


「コンディション、オールグリーン。発進!」


『ローンチ』


 ドルの返事とともに俺の隣にマリダを乗せたランチはスルリと宇宙空間へと滑り出した。


 最初に降下してから2か月半。


 言語の習得も(泣きながら)一定のレベルに達したので、いよいよ原住知的生命体改めエルパ人類との接触を試みる。

 これまで収集したデータから推測される事柄の検証を行うと共に、この先この惑星で暮らしていけるのかを判断するための重要な作戦だ。


 エルパ人類とは現時点での原住知的生命体の仮呼称だ。俺は管理の都合上、この惑星に名前を付けた。それが「エルパ」。

 そこに住む連邦人類に酷似した外観を持つ知的生命体だからエルパ人類。エルパ人と呼ぶことにした。

 性別区分も雄型・雌型ではなく、外見的特徴から男性型・女性型にしたんだ。本音は「原住知的生命体」に「雄・雌」じゃ全く仲良くなれる気がしないからだけどね。


 データ分析の結果としてエルパ人について判明しているのは


〇集落の居住者は300名前後。その他の生物として四足歩行の小型生物を少数確認

〇活動時間は日の出前後から日没後3時間程度までで、日中が中心である

〇外観は連邦人類と酷似している

〇種類は男性型、女性型の二種類

〇集落の男女比率は凡そ3:7で男性型が少ない

〇体格は女性型の方が大きい傾向がある

〇管理者や兵士が女性型であることや、男女比、体格から女性型中心の社会構成の可   能性がある

〇道具を造り使用する事が出来る

〇貨幣経済が存在する可能性が高い


 もう人類でいいんじゃね?という解析結果のなかで気になるのは「社会構成」だろう。歴史書の中世や近世の文明レベルなら女性多数の環境で男尊女卑がひっくり返って女尊男卑なんてのもあり得るからね。


 その可能性も考慮してマリダだ。男性蔑視の風潮の可能性が確認されてから、その対応策としてというのもマリダ稼働に踏み切った理由の一つだ。同行できる女性が必要だったんだ。最悪、女性がいれば何とかなるだろうという程度の浅い考えです。スイマセン。


 前回と同じ島に無事到着。当然、時間は夜中だ。これまた前回と同じく警護のワーカーを配置して、ブースターの状況を確認です。


 大きく違うのは俺の恰好。ノーマルスーツじゃ即トラブルの未来しか想像できない。前回持ち帰ったサンプルでは病原性のウィルスも確認されず気密を維持する必要もなくなったので、ちゃんと住民と似たような服装に偽装しました。衣装は積み荷の衣類をバラシて技術ユニットで作りましたよ。


 もちろんマリダも立派なパンツスタイルの町娘。美人は何着ても似合うってのは都市伝説じゃありませんでした。そんな繊細で美しい荷物をホバーカーゴの荷台に乗せて潮風を肌に感じながら大陸に向かって移動しましょう。


 岩場にホバーカーゴを隠して、その場で夜が明けるのを待つ。明るくなってから周りを確認しながら慎重に道に出て、集落を目指して移動を開始した。




 30分程かけて集落にたどり着き、何人かの住人とすれ違いながら中心部を目指して石畳を進んでいる時だった。


「おっ、見ない顔だな。随分珍しい男連れてるじゃねえか。よう兄ちゃん。そんな細っこい女よりアタイみたいな頼りがいのある女に乗り換えないかい。満足させてやるぜ」


 ファーストコンタクトは下ネタでした。いきなりセクハラかよ。でも、ヒアリングは大丈夫そうでホッとしたよ。


 それよりもこの言葉に含まれる意味は非常に重要だ。


 珍しいのは男を連れている事ではなく俺の何かがこの世界では珍しいのだ。男を連れているのが珍しい事でないのなら男の地位が女より低く女に連れられるのが自然である事を示唆している。その上どうやら俺の外見には男として珍しい何かがあるようだ。目立たないように改善の必要があるだろう。


 声をかけてきたのは、建物の前に設置されたテーブルで仲間とおぼしき女性と二人で食事中の女だった。通りがかった俺たちが目についたようだ。


 その女は短めの薄紫の髪を後ろに撫でつけ、日焼けした肌に革鎧を身に着けていた。肩幅や、鎧から覗く二の腕の筋肉から座っていてもその体格の良さが感じられる迫力の持ち主だ。


「いきなり失礼ですね。リュートの何が珍しいというの?」


 俺の目配せを受けてマリダが言葉を返す。男と女の立場によって受け答えの担当を打ち合わせておいたんだ。地位が低い者が迂闊に喋るとロクな事にならない。上司の会話に部下が許可なく割って入れば怒られるに決まってる。


「へえ、リュートていうのかソイツ。何がってこの国でそんなにデカくてゴツイ男はそうそう見ないだろ。獣人の血でも入ってるのかい?アタイは初めて見たから珍しくてつい声をかけちまった」


「こいつはいつも考えなしに喋っちまうんだ。気に障ったのならスマン。悪気はないんだ。勘弁してやってくれ」


 同席者が振り向き、仲間の言動をフォローしながら謝罪する。


「そう言われればそうかもね。私はずっと一緒で慣れてしまってるから全く気にならないけど、他の人が見たらそう思うかも」


 さすが先生。相手の意見を程よく認めながら穏やかに場を納めた。


「それより私たちは旅の途中で初めてここに立ち寄ったんだけど、色々と買い取りをしてくれるような店はない?少々懐が寂しくなってきたんで持ち物売って路銀の足しにしたいんだけど」


「それならこの先にロブって爺さんがやってる店がある。雑貨屋だけど大抵のもんは買い取ってくれるよ。金額は期待できねえけどな」


「ありがとう。早速行ってみる」


「ああ、稼げるといいな。アタイはヴィオラ。こいつはアリーチェ。当分はこの ”海の調べ亭” に泊ってる。これも何かの縁だろうから気が向いたら寄ってくれ」


「ええ。私はマリダ。何かあったら頼らせてもらうわ」



こうしてエルパ人とのファーストコンタクトはあっさりと終了した。


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