第96話 先行き

 昼はゴロゴロ、夜はイチャコラな天国のような生活を過ごしながら何日かが経った。


 ドルからはマリダのメンテナンス終了の知らせが届いていたのでそろそろ迎えに行かなきゃな。


 ノアは順調に帝都に入れたようだ。

 今は街で情報を拾いながら中枢に入り込める機会を虎視眈々と伺っている。

 分体を多く作ると体積が減るので今は子供の姿で活動しているらしい。

 手が足りないのならもう二・三体召喚する事も考えておこう。


 帝国の情報が集まったら手を考えよう。


 今回のように戦争が始まってから介入してもいいけど敵も味方も人死にが多すぎる。


 戦端が開かれる前に収められるのならそれに越した事は無い。


 戦場で命を散らすのは違う正義を掲げたただの兵士達だ。

 いろんな正義があるのは仕方ないけど仰ぐ旗の模様が違うだけで殺してもいいなんてのは勘弁してもらいたい。

 それをさせる指導者が間違ってる。


 兵士に聞いてみればいい。

 国の決まりで兵役には就いているけど戦争がしたいなんて思ってる奴はそうそういないはずだ。

 もちろん一部には戦争大好きってネジが外れた奴もいるだろうけど、そんな奴は放っておけば犯罪者になるような奴だろう。


 その正義を意図的にミスリードして私欲を満たそうとする馬鹿が必ずいる。

 他国を侵略し多くの人々の暮らしを踏み躙ったこ事を手柄として喧伝する馬鹿。

 それを認め報奨を与える馬鹿。

 人を人とも考えず自分が自由にできる駒だと思ってる馬鹿。

 まずはそいつらをこっそり潰す。


 戦争はボードゲームじゃない事をその身をもって分からせないとね。


 俺としては奴隷狩りが制度として認められている時点で帝国は信用できない。


 この国にも奴隷はいるけど犯罪奴隷と借金奴隷に限定されて国によって厳しく管理されている。


 これはある意味生きるための手段を失った人たちへの救済措置の側面もある。

 だから刑期を務め上げたり借金を返し終われば奴隷身分からの解放が約束されている。

 犯罪奴隷の労働環境は厳しい物も多いが借金奴隷ならば豊かではないがある程度の権利が国によって認められている。

 それを果たさない使用者は厳しい罰を受ける事になる。

 つまり奴隷身分の権利も最低限保証されており、そこからやり直す機会も残っている。


 対して帝国では奴隷は一生奴隷だ。

 しかも本人に全く非が無くとも狩られてしまったら奴隷なのだ。


 当然、自国民を狩る訳にはいかないので周辺の他国民や亜人を捕まえて数を確保する。

 そしてそれらの奴隷は公然と売り買いされ、一部の権力者の懐を潤す。


 リシャールが狩られなかったのは伯爵との密約があったからであり、次に攻め込まれれば多くの住民は奴隷となることだろう。


 国境付近に広大な空き地がありながら小さな集落が存在しないのはそういう理由だ。


 集まって自衛しなければたちまち奴隷狩りの餌食になってしまう。


 この一点だけでもロマーヌ帝国は俺には受け入れられない国だ。


 ロマーヌ人は全てに優れた優秀な人民であるからそれ以外は全て無条件に従うべきだなんてふざけた考えの奴らはどんだけ野蛮なんだよ。

 だから潰すことに何の痛痒も感じない。


 この十年大人しかったのは跡目争いで国中で揉めてたらしい。

 それもどうやら去年片が付いてまたぞろ外に向かって悪さを始めたようだ。


 代替わりしてもやる事が変わらないんじゃもう皇帝がどうこういう話じゃないって事だろう。


 もうチマチマした手直しじゃ追い付かないほど腐ってしまっている。

 基礎が腐った建物を治すなら手間のかかる改築よりいっそ新築した方が安上がりでいい物が出来るのは常識だ。


 後はこの国がそこまでの覚悟ができるかだ。

 相手を倒すだけで戦争が終わる訳ではない。

 勝った後には相手の国の民を新しい支配者として養っていかなくてはならないのだ。


 そんな事は関係ないと見捨てる事もできるだろうし、後顧の憂いを断つつもりで根絶やしにすることもできるかもしれないがそこに俺の知る王国の人達が付いてくるとは考えにくいからそんな事にはならないだろう。


 俺たちが中枢を潰してもそのまま放って置けばそれこそ広大な無法地帯が出来上がるだけだ。


 俺が手伝えるのは解体まで。

 その先の再構築はニケ王に任せるしかない。


 彼女のカリスマにどこまで王国の臣民が付いてきてくれるか。それは帝国民にも通用する物なのか。


 それを判断するには王国全体の事もニケ王の事も情報が少なすぎる。

 王都に招かれた時に見極められればいいんだけど。

 それが済むまでは表立った行動は慎むべきだろう。


 あら?


 俺のノンビリ生活どこ行った?


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