第20話 それぞれの出会い 2
Side メリッサ
私は森の奥で娘と一緒に手足を縛られ拘束されていた。商談の帰り道、あと少しで帰りつける処で、目の前で酒宴をしている盗賊たちに襲われ、攫われた。
道中は護衛も付けていたが、予想外の場所での奇襲で先手を取られ、抵抗も虚しくアジェント達は斬り殺された。
私と娘は
リーダーらしき女が私の持ち物の中にあった
目の前の酒宴からは酔って大きくなった声が漏れ聞こえてくる。明日には脅迫状を出すようだ。私の髪の毛を添えて。
「言う事聞かなけりゃ、次はどっちかの首でも送ってやるか。ギャハハハハ」
頭目らしい女の下品な笑い声が響く。
娘が眠っているのが救いだ。こんな話は聞かせたくはない。もう十歳になったのだから勉強のためにと今回の旅に同行させたばかりに、こんな目に遭わせてしまった。この子だけでも何とか助けてあげたい。
そんな事を考えているうちに話声が聞こえなくなった事に気付く。空が白み始めて、夜明けが近い事を知った。一晩中呑んで漸く寝たのだろう。
何とかして縛めを解こうと身じろぎした時だった。
向かいの藪から二つの人影が飛び出すと、酔って寝ている盗賊たちに襲い掛かる。手にした棒で殴りかかり『バチッ』と音がして火花が散る。殴られた盗賊は抵抗する間も与えられず呻き声を上げるだけだ。
あっという間だった。森を吹き抜ける風のようなスピードで九人の盗賊を打ち倒した。動かなくなった盗賊たちを手分けして手早く縛り上げると一人がこちらに近づいてきた。
驚いたことに男だった。体格から女とばかり思っていたが見たことも無い体格の男だった。
「私たちはこの森で迷い、たまたま通りかかった旅の者です。事情が判らないので解放はできませんが、まずは話を聞かせてください。できますか?」
男の問いかけに私は頷く事しかできなかった。
私たちは猿轡を外してもらい、その後ろから大きな荷物を事も無げに両手に持ち近付いてきた華奢な女の質問に応える。口調は優しく、私たちの体調の心配までしてくれた。
聞かれたら喉の渇きを思い出した。捕まってからは何も口にしていない。目を覚ました娘に水を飲ませてほしいと頼むと、男が変わった形の水筒を荷物から取りだし、自分で一口飲んでから娘の口に傾けた。中身が安全なのを教えてくれたようだ。
私も一口貰い渇きを癒すと、体の中を落ちていく水の流れを感じながら「ああ、助かったんだ」と改めて実感した。
男が頭目の尋問を始めた。何とか言い逃れようとするがボロが出て嘘は直ぐに見破られた。
「マリダ、メリッサ達の縄をほどいてやってくれ」
「!」
驚いた。男が尋問するのも不思議に思ったのだけれど、男が女に命令している。女も当然とばかりに命令に従う。私の周りに女に命令する男などいないし、聞いたことも無い。男は小さく、か弱く、女に守られるものだからだ。
二人の振る舞いや荷物にも聞きたいことがあるけれど、二人の関係が一番不思議で、私の常識では理解できない何かを感じた。
でも聞くのは今じゃない。まずはこの子と一緒に無事に街まで帰ろう。
乱暴に縛られ、赤く腫れた娘の手首をさすってあげながら、私は二人の行動を見つめていた。
Side キアーラ
メリッサが盗賊に襲われたと聞いて駆け付けた会議室にそいつらはいた。
メリッサから自分を助けてくれたと紹介された二人は珍しい組み合わせだった。マリダと名乗った女は華奢で、とても盗賊と戦えるようには見えないし、リュートと名乗った男は見たことも無い大柄の男だったが、ジョルジャ達が敵わなかった盗賊と戦って勝てるとは考えにくい。
しかし話を聞くとメリッサを助けただけでなく九人の盗賊を捕まえて憲兵に引き渡したという。メリッサが言うのだから嘘ではないだろうが俄かには信じがたい事だ。
ジョルジャ達の登録証を回収してくれた謝礼の支払いを口実にソシエの加入申請書を書いてもらった。二人とも特技の欄には格闘術と記入がある。
これか、これなのか。数で勝る盗賊を倒す技があるのか。あるのなら見てみたい。今すぐにでも。
しかし、メリッサに止められた。確かに疲れているだろうとその日は諦め、手合わせの約束だけで又の機会を待つことにした。
機会は直ぐに訪れた。次の日、受付が騒がしいので覗いてみると二人がいた。受付で白貨を出して騒ぎになったようだ。私の部屋で話を聞いたら、ロクな説明もせずメリッサが渡したらしい。金持ちの常識は庶民の非常識なんだよ。
だがお陰で早々に手合わせの機会が巡ってきた。その事には感謝だ。
これから探す予定だった宿を紹介するからと、やや強引に時間を作り訓練場に連れて行った。
武器を選ばせると、マリダは剣の打ち込みを受ける防具を選んだ。確認しても問題ないという。本人がいいなら構わないが、どう使うのか想像できない。
組み手は驚きしかなかった。マリダの手にした防具はくるくると向きを変えながら私の剣戟を受け、流し、攻撃してくる。こんな動きは今まで経験した事が無い。突きなら防げないだろうと繰り出した私の剣は魔法のように絡めとられ手から消えた。諦めず掴みかかろうとしたら腕を捻り上げられ地面にうつ伏せに組み敷かれていた。
あり得ないだろう。
リュートは更に驚いた。マリダには多少の油断もあったかと気を引き締め望んだのだが、一瞬で懐に入られた。そこからの流れるような動きでの追撃。速い。速過ぎる。
反撃に振り下ろそうとした剣は柄を握る拳ごと蹴り上げられた。痺れて取り落としそうになる剣を両手で握り直して振り下ろすが僅かな動きで躱された上、強烈な蹴りを貰った。踏みつけられて動かせない剣を手放し、自分から跳んで衝撃を逃がしたからすぐに立ち上がれたのだが、あの蹴りの威力はヤバい。
拳や蹴りで反撃を試みるが全く当たる気がしない。腕や足で確実に防御されるし、当たる寸前ですり抜ける様に躱される。それでも諦めず力を込めた一撃を放った途端にリュートの姿は視界から消え、背中に地面を感じる私の顔に拳が突き付けられていた。
投げられ仰向けに倒れているのだと理解するのに時間がかかった。投げられた意識も持てない程の無理のない動きなんてどうなってるんだ。
これは鍛え直さないとダメだな。完全に鈍ってる。
そんな感想と共に分かった事は「盗賊如きが太刀打ちできる相手じゃない」事と、「この二人はヤバい。何かが違う」という表現しにくい恐怖にも似た感覚だった。
このまま二人を野放しにするのは危険だと考え、宿への紹介状には決まったら私に連絡するようにと宿宛の一文を付け足した。
この男の子供なら産んでみてもいいかもなと益体のない事を思いながら。
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