第8話 絡まれました

 二人が揃って振り返ると、そこにはヴィオラと同じような革鎧を身に着け、荒んだ雰囲気を垂れ流す俺と同じくらいの身長の女が3人、にやけた表情で立っていた。


「私たちに何か用?」


「あんたには用はない。隣のニィちゃんをちょっと貸してくれればいいだけだよ」


「そんな要求に私が従うとでも?」


「大人しく言う事聞いといた方が利口だよ。痛い思いはしたくないだろ。あたしたちが満足したら返してやるからさ。どんな状態になってるかは保証できないけどね」


「「「ギャハハハハ」」」


女たちは舐めた台詞を吐いて下品な笑い声をあげた。


「そうですか。では仕方ないですね」


 マリダの振り向きざまに小声で声をかける。


「手加減しろよ。モードテストするのか?」


「はい、チャンスがあれば」


「程々にな」


 そんな会話は聞こえない女たちは、何だやるのかと言わんばかりに左右に広がり、気持ち腰を落として戦闘態勢をとった。

 マリダを囲い込むように距離を詰めると、中央の女がいきなり殴りかかる。

 その攻撃を軽くバックステップで躱したマリダが最後通牒を言い放つ。


「身をもって自分の行動を後悔しなさい。行きます」


 勝負は一瞬だった。


 正面のリーダーらしき女の懐に目にもとまらぬステップで滑り込むと同時にマリダの右拳がボディにめり込む。動きの止まった相手の下がった顔面に左拳を叩きみ吹っ飛ばすと、そのまま流れるような動作で左の相手に左足を軸にして後ろ回し蹴りを放ち、頭を蹴り飛ばす。最後に背後から取付こうとしていた相手の鳩尾に肘鉄を決めると髪をつかみ地面に引き倒してから頭を蹴りつけた。


 うう、容赦ない。マリダに喧嘩を売ってはいけません。ただでさえドールに喧嘩を仕掛けて勝ち目なんて無いのに、それが戦闘型ならそれは自殺です。


 はい、マリダは戦闘型でした。


 その美しい外見から介護型か愛玩型だと思ってたら、まさかの戦闘型でした。


 戦闘型の最たる特徴は、戦闘モードの設定があること。戦闘モードでは時間制限はあるが通常の1.7倍まで出力を上げることができる。人工筋肉も出力耐性を高めた高級品。出力が上がった分だけ素早く、力強く行動できる。

 その上、他の型には無い基本プログラムの格闘技や武術のデータを使いこなすから、ほぼバーサーカーだよ。他にも警護業務で役に立つ半径50メートル範囲の索敵機能なんかもあるから不意打ちもできない。だからこいつらが近づいてくるのもマリダの警告で分かってました。

 外見で油断を誘い、近づいたらバーサーカーが準備万端で待ち構えてるって、オーダーした奴の性格が伺えるわ。


 あれ?AIは人を傷つけられないのでは?


 はい、そうです。でもそれは連邦人類に対してのセーフティーですから。元々、直接攻撃に対するある程度の防衛行動や確保の為の攻撃は可能だし、そもそもエルパ人は外的特徴こそ連邦人類に酷似してるけど連邦人類以外の生き物だからね。ドルの認識も未確認知性体のままです。保護すべき人の括りに入ってません。連邦人類以外の危険を及ぼすと判断される生物の排除に躊躇はありません。悪しからず。


「モードテストはまたの機会に持ち越しですね」


 呟きながら振り返り微笑むマリダは見とれる美しさだったが、その肩ごしの景色に見知った顔を見つけた。


 ヴィオラとアリーチェが驚いた表情でゆっくりと近づいてきた。


「こりゃ・・・。どうしたらこうなるんだか」


「ちょっとこの人たちに絡まれたんでお灸を据えただけ。まずかった?」


「いや、こいつらはアタイと同じアジェントで、一月くらい前から住み着いてるみたいなんだけど、ロクに仕事もしないで好き勝手やってるから町の連中も困ってたんだ。

 アタイ達も何とかしてほしいって泣きつかれてね。こんなとこじゃソシエの支部も無いし、どうするか考えてたからちょうど良かった。だから問題ないだろうよ。しかしひでぇ有様だな。どうすんだこれ」


 ヴィオラは石畳に横たわる泡吹いて白目剝いてる奴と、鼻血流して白目剥いてる奴と、ゲロの海に突っ伏してる奴を眺めながら呆れるように言った。


「骨が折れるような大怪我はさせてないつもりだから、このままここに放置でいいでしょ。気が付けば勝手にねぐらに帰るだろうし」


「自業自得で、こいつらにはいい薬だろうが、あんた見かけによらずキツイんだな。強ぇーし。3人相手に一瞬だったろ」


「嗜み程度だけどね。それよりヴィオラ達は今日の仕事はもう終わり?」


「いや、今日は休みにしてたんだ。朝飯もゆっくり食ってただろ。ここんところ結構稼げてたし、アリーチェの弓の調子が悪くなっちまったから調整の時間も必要だったからな。

 そしたらフラフラしてるこいつら見かけて、悪さしないように付いてきたらこのざまさ。あんたたちの助けに入ろうかと考えてるうちにその必要もなく終わっちまった」


「心配してくれたみたいね。ありがとう。でも大丈夫よ」


「見れば分かるよ。そういえば宿は決めたのか?まあこの町にはアタイ達が泊ってる宿と、こいつらが泊ってる宿の二軒しかないけどな」


 マリダが俺に目配せするので軽く頷く。


「さすがに殴った相手と一緒は無理ね。空きがあれば海の調べ亭一択かな」


「ならアタイ達も宿に戻るから一緒に行こう。女将に聞いてやるよ」


「面倒かけちゃうけどお願いするわ」


 俺たちはヴィオラ達の後ろについて宿に向かって歩き出した。


(やっぱり勉強必要なかったんじゃね?)と、全く喋る機会のない俺が、ちょっと悲しそうにしてたのは秘密です。













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