第14話 ブランキア商会
壁を抜けた先は小高い丘の上で、そこから見える景色は雄大だった。
まるで海のような広大さで豊かな水を湛えるティリンセ湖。湖の対岸は霞んで見えない。その手前には領都と呼ぶに相応しい規模で広がっている街。ここからでもその活気と熱気が感じられそうだ。
青い空、白い雲、蒼い湖、白い街並み。完璧とも思えるコントラスト。強烈なインパクト。さっきまで壁に視界を遮られ石に囲まれていた人間には、想像する事も出来ないような景色が目の前に広がっていた。
観測データでは解っていた事なのに全く違う何かがそこにあった。暗い宇宙を何万光年も旅する技術力を有し、膨大な知識量を誇っても、モニター越しでは決して分からない何か。数字には変換できない何か。
そんな漠然としたものを感じながら突っ立ってる俺にマリダが声をかける。
「どうかしましたか?」
「いや何でもない。ちょっと景色を見てただけだ。美しいなって」
「そうですね、確かに」
マリダには後で何か感じるものはなかったか聞いてみてもいいかもしれない。
盗賊の引き渡しは大した手間もかけずに終わった。場所や状況の説明はメリッサがしてくれた。憲兵が緊張してたみたいだからメリッサは意外と大物なのかもしれない。お茶も出してくれたし。
期待していた報奨金の受け取りは、明後日以降と言われた。街の中心部にある憲兵隊本部でできるらしい。最低でも二泊することは決定かな。
その代わりではないが、今日のところは盗賊の持ち物として報告した現金と武器がもらえた。盗賊から押収した金品は記録だけして討伐者の物になるそうだ。金貨12枚と銀貨、銅貨が結構あったので当座の資金には十分だ。
とりあえず今晩の宿はメリッサが自宅に招いてくれた。決まった予定があるわけでもないので、ありがたく誘いを受けることにした。
検問所を出た後はメリッサの店に向かい帰還を知らせる。荷車の品物も早く渡さなきゃいけないようだ。
ブランキア商会は街の中央にある広場を囲む建物の一角で、中々立派な構えの店だった。店の前に荷車を停めて中に入ると、精緻な細工を施した家具や食器が並べられ、重厚な雰囲気を醸し出していた。他には帽子や
「メリッサ様お帰りなさいませ。昨日お帰りの予定と伺っておりましたが、確認が取れず心配しておりました。ご無事なご様子を拝見できて何よりです」
「何事もなく、という訳でもないけど帰ってこれたわ。心配をかけたわね」
「今日もお戻りになられなければ憲兵隊か守護隊に相談しようかと話をしておりました。やはり何か問題でも?」
「昨日、盗賊に襲われたわ。護衛のアジェントは全滅。盗賊共が欲を出してくれたから私とニコレは無事だったの。商会から身代金を取ろうと思ったみたいよ。そのあとに盗賊共の塒で捕まっていたところを、今朝この方たちに助けていただいたの。おかげで何とか帰ってくることが出来たわ」
メリッサが振り返り俺たちを見たので、男に向かって軽く会釈する。
「そんな事が・・・。ご挨拶が遅れ申し訳ありません。私はこの店で店主を務めさせていただいているニーノと申します。この度は当商会会頭とお嬢様をお助けいただき感謝の言葉もございません。ありがとうございました」
当然、マリダに向かって深々と頭を下げる。この世界ではそうなるわな。
「ご丁寧にありがとうございます。私はマリダと申します。彼はリュート。今回は本当に偶々ですから。そんなに気になさらないで下さい」
「そんな訳には参りません。会頭とお嬢様を助けていただいて礼の一つもできないようなら商会の名折れ。偶々で済ませる訳には参りません」
うん、堅物だ。男でありながら店主を任せられているなら、きっと優秀なのだろうが力み過ぎです。ありがたいのだがちょっと面倒くさいかも。
「今晩は家に泊ってもらう事にしたから、お礼は後でゆっくり考えられるわ。それよりもニコレをここで少し休ませてあげて。私はソシエに報告に行かないといけないから」
ニコラはメリッサのズボンを握り、立ってはいるがうつらうつらしていて今にも眠りそうだ。あんな体験したんだから、よく今まで頑張ったよ。
「はい、すぐに部屋の準備を。ソシエへの報告も急いだほうがよろしいですね。次の被害が出かねませんから」
「それは大丈夫。盗賊はマリダ達が捕まえて憲兵に引き渡し済よ。だから次の心配は必要ないわ」
「なんと!護衛のアジェントを全滅させた盗賊をたった二人で捕縛するなど俄かには信じられない話ですが、メリッサ様がお話になられるのなら事実なのでしょう。お二人には重ねてお礼を申し上げねばなりませんね」
寝込みを奇襲しただけですからあんまり威張れません。
「じゃあ、ソシエに行ってくるわ。済んだら家まで
そして俺たちはソシエに向かうために三人で店を出た。
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