第172話 神の視界
手に取った服は布地は薄いがとても手触りの良い物だった。そしてとても軽い。いくら細い糸だろうとここまで目を詰めて布を織ったのならもっと厚く重くなるはずなのだがそれは滑らかな手触りと軽い着心地を見事に両立させていた。
それは膝丈のローブのようなデザインで体の前面が合わせとなっており不思議な事に布を重ね合わせるだけでボタンを掛ける必要もなく布同士が吸い付くようにピタリと止まり腰ひもをゆう必要もないのに
ゆったりとした袖の袖口は大きめであり容易に肩までたくし上げられそうな造りだ。
『通路の奥へ移動してください』
その声と共に壁の一部が『ピッ、シュッ』という小さな音と共に口を開けた。この場所の出入口であろうその部分を縁取るように緑の光がゆっくりと明滅を繰り返している。そこを進めと言う事なのだろう。
足元の冷たさを感じる事も無く裸足のまま指示に従い通路に入ると部屋と同じ白い壁に囲まれた通路の先に同じように緑の光が点滅している場所が見える。そこまで進むとそこも壁がポカリと口を開けておりその奥には椅子やテーブル、ベッドが置かれている部屋があった。
『こちらで次の指示までお過ごしください』
部屋に入るとその背後で入口はごく細い継ぎ目を残して再び閉じていた。
「ふむ」
機能回復訓練とやらが終わるまではここからは出られないらしいことを確認すると他に思い付く事も無いので体を軽く動かしながら異常がないか点検していく。開閉を繰り返えす自分の掌に視線を落とした時にふと思い出したのは離れていても会話が出来る指輪型の遺物の事だった。
(こうなるなら安全確認など待たずに持っておくべきだったか)
自分としてはすぐにでも身に着けたかったのだがメリンダが頑として譲らない為に今は安全性の検証中なのだ。しかしその仕組みが分かる訳でもないのでやっている事と言えば指輪を長時間身に着けて体調に異常が出ないかを確認する程度だ。
万が一を考えて慎重になるのは仕方がないが、リュートが「多分大丈夫」などと中途半端な返答をしたのが悪い。
「ドルシネアと言ったか。城の様子は確認できないだろうか」
あの遺物も元々は遺跡に残されていたいた物だ。ひょっとしたら遠話が可能な他の物があるのではないか。そんな思い付きを聞いてみる。
『マスターに連絡する事は可能ですが現在は応答できないと思われます。こちらをご覧ください』
すると壁の一部が突然四角い窓へと変わった。そこに見える景色は最初は分らなかったが見覚えのある尖塔の形や建物の配置からどうやら城の周りを空から見た景色らしいと思い至る。
「…これは」
連絡が取れれば程度の考えだったが目の前に現れたその景色に息を吞む。
『王都王城区画の上空映像です。そして――』
映し出された景色の一部がどんどんと大写しになっていく。
そこは緑が多い王城区画の中で茶色一色の開けた場所だ。城との位置関係から判断すると国軍の練兵場のようだ。その一角に黒く人だかりが出来ているようだった。
(空から地上を見ているのか。人が蜜に集まる虫の様でまるで神になったような気分だな。しかしこいつら何をやっているんだ?)
俺は多くの女達に囲まれていた。
そう、それは男なら一度は夢に見るであろうハーレム――
「ウリャー!!!」
じゃないな。
ハーレムは奇声を上げながら掴みかかってきたりはしないわな。
仕方がないので左足を引きながら体を開いて突き出された手首を掴み右足を一歩踏み込みながら掴んだ腕を下方向に押して外側へと捻りを加えると何という事でしょう。俺よりデカい筋肉ゴリラ(一応女性)はなす術もなく宙を舞い背中から地面へと叩きつけられた。
「ぐっ」
「次!」
一息つく間もなく無情な声に続いて次の挑戦者が目の前に立つ。背中から地面に叩きつけられて息が詰まって動けない元挑戦者はギャラリーに両腕を抱えられ既に退場済みです。
今度の相手は軽快なステップを刻みながら近づき見事な右ストレートを繰り出すがそれをダッキングで躱しつつ踏み込み左フックをキドニーにドン。
「グエッ」
口からキラキラしたものを迸らせながら前屈みに蹲り動かなくなる。
「次」
今度の相手も立ち技系。繰り出された正拳をサイドステップで躱すと待ってましたとばかりにハイキックが頭目掛けて飛んでくる。それを腕を畳んだガードで防いでからその足を脇に抱え込んで踏み込み軸足を刈る。仰向けにひっくり返って無防備に晒された顔面に打ち下ろしの拳を一発。
「次」
「オオッ」
オオッじゃねえ!いつまでやるんだよ!!
両手を高々と掲げてからスッと腰を落としタックルを仕掛けてくる相手をこちらも腰を落とし足を開いて受け止めながら相手の頭を小脇に抱えて腰の剣帯をむんずと掴み一気に引き上げる。
「オリャー!!」
気合の掛け声とともに押される勢いを利用して一気に持ち上げ、後方に倒れ込みながら投げ捨てるように背中から地面に叩きつけた。
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