第3話 見蕩れてる場合じゃない
その惑星は美しかった。
漆黒の暗闇に浮かぶ宝石のように青く輝いていた。
惑星の周回軌道に入ってから既に二日が経っている。現在は高度620キロまで近づき状態観測中だ。
コントロールシートに座りモニターに見とれていると左側の表示が切り替わり、ドルの耳障りの良い声がブリッジに響く。
『大気組成のスペクトル分析が完了しました。窒素76.59%、酸素22.51%、アルゴン0.86%、二酸化炭素0.03%、その他の微量な成分0.01%。人類生存可能レベルと判断します』
「よっしゃー!惑星表面の状況は?」
『海洋が78.3%、陸地が21.7%、陸地で確認された山岳部は最高高度が10851m、海洋の最も深い海溝は18000m以上と推測されます。この二日間での日中の最高気温は赤道部分で摂氏47.2℃、夜間最低気温は極部分で摂氏-18.1℃です。因みに自転周期は25時間16分、公転周期は398日と推測されます。』
「ちと暑そうだけど十分合格点だよ。生物、生物は確認できた?」
『陸地部分の82.1%には植物とみられる物の繁殖が確認できます。また、沿岸部および内陸部に人工構造物とおぼしき物が確認でき、その周辺に移動物体が多数みられる事から一定の文化をもつ高度知的生命体が存在すると思われます』
「・・・マジか」
連邦だって植民惑星をずっと探してる。だけど300年以上見つかってないから仕方なく手間暇かけて強引な環境改造事業を推し進めてるのに。たった3か月で即時移住可能な惑星にたどり着くなんて。そのうえ原住の知的生命体付き。
乱数の女神様、文句言ってすいませんでした。
これで連邦に還れるなら歴史に名前が残る大偉業だ。
でも還れません。迎えも来ません。ショボン・・・とはなりませんよ。
本来なら未確認原住生物との勝手な接触は重罪だけど、ここに連邦の法務官はいませんし来ません。なら自由に好き勝手やってみたいじゃない。還る手段がないなら現況で生き残る努力をするしかないよな等と自分で自分を都合よく納得させて次の指示を出しましょう。
「ドル、ランチでの上陸準備を頼む。あと人工構造物の近くで知的生命体に見つからないような着陸可能場所の検索もお願い」
『了解しました』
さあ、第一種接近遭遇だ。今回はされる側じゃなくてする側だけどね。
・・・・・・・
『外気の確認が完了しました。スペクトル分析の結果と差異は認められません。呼吸に問題はありませんが未知のウィルスへの対策としてノーマルスーツ着用の継続を推奨します』
ランチは構造物のある大陸沿岸部の沖合約7キロにある無人島に着陸していた。30mを超える断崖絶壁に囲まれた島の外周は約4キロ。
断崖には波により多くの窪みが穿たれているが、そのうちの1つが断崖の裏側の大きな窪地に繋がっていた。トンネルは途中で曲がっているので外からは内部の窪地は見えない。
窪地は3分の2が砂浜で障害物もなく垂直での離着陸には何の問題もなかった。より大陸に近い海中に待機させる事も検討したけど、今回は陸上にした。
ノーマルスーツのままエアロックに入り、内部ドアをロックしてから外部ドアのロックを外す。
”プシュー”という音とともに気密が破られ、センサーの温度表示の変化に外気の流入を感じながら外部ドアを開け放つ。
漣の音だけが聞こえる夜の砂浜へタラップから降り立つと、砂が”キュッ”と小さな音をたて迎えてくれた。
上陸調査は夜間に実施する事にした。
視認されるのを避ける目的だが、この惑星の未確認生命体が自分たちと同様に夜間視力が低いとは限らない。
実際、ドロイドは各種センサーにより昼夜関係なく行動が可能だ。未確認生命体がその手の感覚器官を備えている可能性はゼロではない。
まあ夜間には明かりを灯してるみたいだから確率はかなり低いだろうと判断して、通常時に考えられる対策くらいはダメもとで実施しながら計画を組み立てることにした。
航空機すら確認されていない文明レベルであれば見つかって騒ぎになっても、とっとと高度300Kmまで降下して待機中のロシナンテまで撤退すれば逃げ切れるとの目論見もあるんだけどね。
お陰で着陸は無事に成功したと言っていいだろう。
着陸後にはランチの安全確保のために乗せてきた4体の簡単な武装を施したドロイドを周囲に配置した。
ロシナンテの格納庫にはもう一台のランチを緊急ピックアップ用に待機させてるけど、このタイミングで貴重な物資を失いたくはない。用心に越したことはないだろう。
島から大陸までの移動は小型の荷物運搬用ホバーカーゴを使うことにした。地上から20センチ程浮き上がりながら荷物を運搬する機器だ。
通常は地上で使うものだが水の上でも使える優れもの。浮かんでる原理は知らん。どこかの賢い人にでも聞いてくれ。
スピードは時速50キロくらいしか出せないけど大陸までは10分てとこだろう。
今回は荷物もないのでカーゴ部分を取り外せばかなり小さく隠すのも簡単だし、大きな駆動音もださないから隠密行動に向いていると判断しチョイスした。
生物の気配のない夜の海の上をのんびりとドライブして、集落から少し離れた岩場に、ライトグレーの滑らかな素材で肌に張り付くようにフィットしたシルエットのノーマルスーツにミリタリーベストとバックパックを身に着け、ミラーシールドのヘルメットを被った控えめに言っても立派な不審者がこっそりと上陸した。
本人はいたって真面目なのがかなり悲しい。
さて、調査本番だな。
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