第4話 いざ

 この集落には3本の道が接続されているのは上空から確認済。同じく、集落には港を中心に150軒ほどの建物があり、少し離れた内陸側の道沿いの小高い丘に明らかに大きな建物があるのが判っている。



 道は海沿いに左右から町に繋がるルートと、内陸から延びてきてるルートの計3本だ。内陸からの道にだけ上空からは道を塞ぐように見える建築物が見受けられる。


 海沿いは管理者が同じで検問の必要がないが内陸側は管轄が違うから出入りをチェックするための検問所かな。敵対してたら面倒くさそう。


 縄張りの意識があり、それを組織的に管理する事が出来る知性があるらしい。縄張りなら猿でも持てるが管理する知恵があるなら迂闊には近づけないな。



 動くものの気配がない星明りの世界を、海沿いの砂利を踏みしめながら集落へ近づくと道の様子が変わった。集落の中の道は石畳が敷かれており周りの砂利道よりは歩きやすく整備されていた。真夜中だからか通りに動く者はいない。夜行性ではなかったようだ。


 建物は殆どが石造りで、小さめの窓や出入り口と思われる石壁の開口部には木製の扉が取り付けてある。出入り口と思われる扉の大きさは統一されている訳ではないが、高さ200センチから240センチ、幅は80センチから120センチといったところか。


 「この建物を使っているのは出入口のサイズより小さいと思っていいだろうな」などと考えながら、ふと見上げると看板らしき物が目にはいった。そして、そこには模様が刻まれている。


読めないけど多分文字だ!


 歴史書などでは過去に栄えた多くの文明について知ることができる。かなりの規模で繁栄しても文字をもつことなく滅んだ文明についても伝えらている。当然、口伝の多くは消失し、その文化は繋がる事無く失われた。


 そんな中、この文明には文字がありそうだ。記録を残し、知恵を積み重ね、過去を振り返る事が出来るのだ。記録する事の意味を理解し、過去に学ぶ意識があるとみていいだろう。これは侮れない。


「ドル、これ解読できる?」


『データベースには類似する文字の記録が見当たりません。解読には相当量のサンプルが必要です』


 だよね。うん、わかってた。「何処かに本でも落ちてりゃいいのに」と叶う事のない願いを呟きながら集落の中を通り過ぎ、小高い丘の上にある大きな建物に慎重に近づく。


 いや、ほんとにデカイな。恐らく地域の管理者の住居なんだろう。力を見せつけ民衆を威圧し黙らせ従わせる。権力を握った奴の考え方は洋の東西を問わず不変らしい。


 建物の周囲は8メートルを超える高さの壁に囲まれ、中の様子を窺い見ることはできないが、街道に面した壁の一部にかがり火が灯され明るくなっている箇所を見つけた。


 そこには正門と思われる大きな扉の両脇にメタリックな素材でできた甲冑を身にまとい右手にハルバードを携え直立不動の門番らしき姿が2体確認できた。頭部が左右に動いたり、時折足場を均したり不規則に動いているから置物ではないだろう。


 はい、確定


 上空からの観測で予測されていたことではあるが、未確認知性体は2足歩行であり、俺たち人間に酷似した外観の可能性が高かった。ヘルメットが邪魔で顔が確認できないのが残念だが、それもすぐに確認できるだろう。それよりも気になったのは


 うん、デカくね?


 ビュワーで計測したらヘルメットの分もあるけど216センチと223センチでした。188センチ83キロの俺でも迫力負けしそう。扉の寸法で気にしてた事が現実になっちまったよ。


 良し、初回にしては十分な収穫だろう。後はマーカーを設置して今回のミッションは完了だ。


 「マーカー」とは通常であれば荷物の受け取りや引き渡しの状況を監視・記録するための、外観はまるっきり卵のカメラ端末だ。


 個人的には球体の方がカッコイイと思うのだが、なんでも卵は傾斜で転がっても途中で勝手に止まるのでこの形になったらしい。


 今回はこれを何台か設置して、言語を始めとする情報を収集する事にした。記録したデータは100キロ程度の範囲なら送信可能だが、さすがに周回軌道までは難しい。そこで、ランチを着陸させた島にブースターを設置し中継する事にした。街中に勝手にライブカメラ設置するようなもんだ。


「やっぱり1台はここだな」


 マーカーの設置は、予め細かい座標を設定入力して自動で移動させることもできるが、今の状況では無理なのでコントローラーで移動させながらライブ映像で場所を指定する。


 バックパックからコントローラーとマーカーを取り出しリモートモードで起動させると、とがった方から全体の3分の2程の外殻部分が縦に割れながら外側に開き、開いた外殻を胴体に沿って回転させながら浮かび上がる。


 後は映像を見ながら壁を乗り越え、玄関らしき場所が見える木の枝に固定指示を出し、補助アームで固定完了後に画角を調整して設置完了だ。


 カモフラージュで外装の色を周囲の葉の色と同じにすることも忘れない。表面に変色フィルムコーティングを施すことで好みの色を選択できる機能は多くの製品に採用されている。


 さすがに完全に見えなくなるステルス迷彩なんかは民生品には望むべくもない。はなから目的が違う。統合軍に採用されている機種には一部採用されているようだが軍専用モデルだから民間企業じゃ入手できません。何となく風景に紛れるだけで満足しときましょ。


 さあ、集落にもマーカー撒きながら帰りましょ。





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