第24話 本題はどっち

「商品化が進められそうで良かったわ」


 メリッサは微笑みながら言葉を続ける。


「ねえマリダ、これは言いたくなければ答えなくてもいいんだけど貴方達ってどういう関係なの?」


「一緒に旅をしているだけ。それだけよ」


「それもなんだけど、マリダはリュートに従ってるの?」


ツッコんだ質問にマリダが俺を見るから会話を引き取ることにした。


「何でそう思う?」


「盗賊の尋問をリュートがしたでしょ。そこで変な感じがしたんだけど、更にその後に私たちの縄を解くように命令してマリダはすぐに従ったわ。男に命令されて文句も言わず従うなんて普通はないから」


 俺の凡ミスでした。


「そうだな。手合わせの時もマリダは常にリュートを気にして行動してた。私の違和感もそこだな」


 さすがに部門責任者マスターともなると周りをよく見ている。ただの脳筋じゃ務まらないよね。


 ちょっと考えたけど素直に答える事にした。反応を知るにはいい機会だろう。


「ああ、確かにマリダは俺に従ってる。普段は目立たないように俺が下がってるつもりだったんだが失敗したな。理由は込み入ってるんで勘弁してもらいたい」


「フフッ、そこまでは私も聞かないわ。でもそんな事が本当にあるのね。女が男に従うなんて」


「でも、ニーノだって女性の店員に指示や命令するだろう?」


「それは仕事ですもの。それにニーノに従うのは私の命令でもあるんだから。マリダは誰かの命令で従ってる感じじゃないし」


「しかし、そいつはできるだけ隠した方がいいな。まあ、いきなり言われて信じる奴もいないだろうが、余計な波風は必ず立つ」


「ああ、そのつもりだ。今回だって隠せてると思ってたんだがなぁ」


「これからはリュートに話をした方がいいのかしら」


「どっちでも構わないよ。マリダの方が大抵は上手く熟せるくらいだから」


「分かったわ。でも、これはリュートね。ねえ、私と子供作ってみない?」


「ブッ!」


「なっ、メリッサお前いきなり何言ってるんだ」


 俺も驚いたがキアーラも驚いたようだ。


「だってまた今回の件みたいな事があったらって考えたら、子供はもう一人くらい必要かなって思ったのよ。私も今なら間に合うだろうし、ニコレもきっと喜ぶわ。それに女を従える甲斐性のある男の子供なら期待できるでしょ」


「そりゃそうだが、今お前が妊娠なんかしたら誰の子種だって大騒ぎになるぞ。それに次があるなら貴族の血を入れた方がいいかもって言ってだろうが」


「それは仕方ないわね。商会の為にはそれも有りかなって思ったけど、元々あの人達は高貴な血をくれてやるみたいに偉ぶるからホントは遠慮したいのよ。やっぱり子作りは自分が認めた人とする方がいいに決まってるわ。そうだ、どうせ騒ぎになるならキアーラも一緒にどう?もう歳なんだから今を逃すと次なんかないわよ」


「よ、余計なお世話だ!巻き込むな!!」


「そんなに意地を張らなくてもいいじゃない。貴方を負かす男なんて、きっともう出てこないわよ。素直になればいいのに。リュート、私は本気よ。返事は今でなくていいから考えてみて。寝室の鍵は開けておくから」


 微笑むメリッサに照れて苦笑いしか返せない俺を、マリダは不思議そうな顔で眺めていた。





「しかし参ったな。昨日の少尉さんにしても、さっきのメリッサにしても」


 食事会が終わり、帰りも馬車で宿まで送ってもらった。


「あそこまで直接的で積極的だと対応に困るよな。その上、美人だから余計に困る。何か考えないと」


「求めに応じてみてはいかがですか。種の繁栄には必要な事だと思いますが」


「正にそこだよ。ここの女たちは恋愛感情で男を求めてる訳じゃないんだ。種の保存と言う最も根源的な欲求しかない。

 つまり結果は同じでもそこまでの過程は俺が知ってるものとは別物なんだよ。そこで本能の赴くままでいいのかと連邦の倫理観が邪魔するんだ」


「連邦でも多くの異性と関係を持つ者はいたはずですが」


「ああ、いたね。でも俺はそういう奴らを軽蔑してたから。そんな奴らはその時は良くても、後で必ず誰かが泣くんだよ。最低だろ」


「では仮に誰も泣かず、それどころか感謝してもらえるならばどうですか?」


「は?」


「みんなが喜ぶんです。そして感謝される。誰も悲しい思いはしないとしたら」


「でもそんな事が…。そうかこの世界ではそういう事なのか。まるで慈善事業だな」


「社会的倫理観に基づき滅私の精神で行う奉仕活動。この世界での行為には相応しい言葉かと」


「今度は神父か坊主になれってか。それでもさっきまでよりはマシだな。メリッサの事だって嫌いなわけじゃないんだから流れに任せてみてもいいのかもな。他力本願で情けないが」


「その時には生物学的資料として詳細の報告を希望します」


「……それは無理」


小声で呟き眠る事にした。



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