第23話 提案
今日は朝から忙しい。
朝食が済んだら、まずブランキア商会へ。ニーノさんに夕食のお誘いの件の返事を伝えたら、預けていた盗賊の武器の引き取り。
それを持ってそのままキノの店へ。
「こりゃ酷い。手をかけて売り物になりそうなのは、この剣一本と短剣二本だけだな。後は鋳潰して鍋の材料にでもするか」
盗賊の持ち物なんてこんなもんでしょ。手入れなんかするわけないだろうし。
「剣が五千で短剣が二本で四千。残りと纏めて一万てとこだね」
言い値でお願いしました。お金に余裕があるから金額には拘りません。金持ち喧嘩せずってとこかな。
荷物が片付きほっとしてから資料館へ。勤務がローテーションなのか入口の衛兵さんも案内の人も一昨日と同じ人でした。
今日はヴィオラに言われて気になっていた「獣人」についてと、背表紙で気になっていた「聖域」についての本を含めて五冊。もう昼一の鐘が鳴りそうな時間だから昼三の鐘で終わりにすればメリッサとの夕食にもちょうどいい時間だろう。
予定通りに切り上げて宿に戻って待っていると、迎えの馬車が来たと女将が知らせてくれた。そんなに大げさにしなくてもいいのに。宿の従業員たちが更に畏まった気が。
馬車が着いたのは豪華な入口の前だった。ドアボーイならぬドアガールが扉を開けて招き入れてくれる。俺もマリダも村人A・Bみたいな恰好なんだがドレスコードとか大丈夫なんだろうかとお互いの姿を眺める。
考えても今更なので後ろに付いていくと奥の個室に案内され、中にはメリッサとキアーラがいた。
「ようやく来たか。先に頂いてるよ」
キアーラがコップを掲げる。
「お待たせしてしまいましたか?」
「キアーラ!。気にしなくていいわよ。キアーラが来るなり飲み始めただけだから。さあ座って。私たちも始めましょう」
メリッサが室内に待機していたウェイトレスに軽く目配せをすると、テーブルに湯気の立つ料理が並べられた。
「宿はどう?足りない物とかないかしら」
「私が紹介した ”湖上を渡る風” だぞ。値段が高い分しっかりした宿だ。お前だって使ったことあるだろう」
「十分良くしてもらってるわ。部屋も綺麗で食事も美味しい」
「
「昨日の肉は
そんな差し障りのない会話をしながら食事をいただく。食後の香りのいい
「今日、態々来てもらったのはちょっと相談があったからなの。聞いてもらえる?」
「ええ、私たちでできることなら」
「私から話そう。マリダが使ってた武器の事だ。聞いていた改良点を取り入れて作ってみようとメリッサに相談したんだ。そしたら、どうせ作るのなら二人に監修してもらって作った方がいい物ができるだろうと言われてね。その後に売るにしてもキチンと許可を貰った方がいいだろうって事で来てもらったんだ」
「そんなことなら全然問題ありませんよ。協力もします。販売はメリッサさんにお任せしますから好きにやってください」
「なら良かった。販売については物が出来て目途がついたら改めて相談するわ。手間と材料がはっきりしないと値段も決められないものね。それともう一つ。貴方達が背負っていた荷物袋なんだけど、あれを見せて欲しいの」
「バックパックですか?」
「バックパックって言うのね。森から街道に戻るまでの二人を後ろから見ていたら、あんなに荷物があるのに両手が使えて凄く便利そうだったし、移動も楽そうだったわ。これなら他の旅人にもいいんじゃないかって思って。良ければブランキア商会で作って売り出したいのよ」
うむ、さすが名うての商人。目の付け所がさすがです。
バックパックは今回の長期滞在用にと俺が考えた自信作だ。ホバーカーゴが使えれば移動も荷物も問題ないが、それは無理。なら持って歩くしかないが強化炭素繊維でできたバックパックも見た目が異質過ぎるので却下。仕方がないと地上で手に入りそうな物を使ってバックパック擬きを自作しました。
L字型の木製フレームに背板と底板をつけ、背板を少し浮かすように太めの革のベルトを上下二本渡し背中のクッションにした。ショルダーハーネスは革ベルトをフレームに固定し、肩に当たる部分を布で巻いて補強した。荷物が動くと疲れるのでチェストストラップとウェストベルトも付けた。ここまではちょっと立派な背負子だ。
一番の特徴はキャスターだろう。グラブループを持って本体を背板側に傾けると引っ張って移動できるのだ。このベースに収納袋を固定するのだが、もちろん袋にも小細工が。素材は布だがフロントとサイドにポケットを付け、物を外側に固定したり吊り下げられるようにリングストラップを複数。簡単なトップリッドも付けた。
手間はかかるかもしれないが材料が揃えば作る事は十分可能だろう。俺もこの世界の人達の手で改良された物をぜひ見てみたい。
そんな訳でこれも了承して、明日にでも現物をブランキア商会に届ける事にした。
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