第109話 再会

 翌日、俺たちは伯爵と一緒に登城していた。


 恐らく王の手からの報告も上がっているはずなので伯爵の報告だけで済むと思われたが、念のため呼ばれたらすぐに対応できるように城内での待機を命じられたのだ。

 情報の擦り合わせは大切な事だ。


 待機場所は王城の中の広いサロンのような場所だった。

 のんびりと椅子に腰かけお茶を頂いてるのだが俺たちの異物感が凄い。


 周りは城勤めの法衣貴族が殆どで俺たちの様な傭兵のなりをした奴はいないからだ。もちろん俺の体格が目を惹いた事は否定しません。


 最初は少し気にもしたが、今更着替える事もできないので開き直って堂々とすることにした。服装変えても俺の体格で目立つのは変わらないだろうし。

 

 そんな半ば諦めの心境で時間を潰していると別の異質な存在がサロンに入ってきた。それを見つけた人々の口から「選ばれし者エリーテ」や「五輝聖ペンタゴナ」といった単語とともに「あれが」といった感嘆とも畏敬ともとれる言葉が漏れ聞こえる。


 黒いマントを身に纏い銀色の髪を揺らしながら歩いてきた彼女はサロンの端に俺達を見つけるとそんな周りの呟きなど全く聞こえていないかのように不思議そうな顔で悠然と近づいてきた。


「ティリンセ伯爵のところの傭兵さんですよね?こんな場所でお会いできるとは思いませんでした。リシャールではあまりお話しできませんでしたから」


「確かオデッサさんでしたよね。リュートです。私達もあなたと話がしたいと思ってたんです。今日は伯爵の指示で来たんですがどうやら無駄足になりそうなんで時間はありますから宜しければ少し一緒にどうですか」


 円卓の空いている椅子を勧めると後ろに控えていた軽鎧を身に着けた鳶色の髪の女の子に声を掛け示した椅子に座った。


「私もちょっと息抜きに出てきたところだから時間は大丈夫よね、クロウ。せっかくですから貴方も座りなさい」


「はい、では失礼して。噂の傭兵に会えるとは光栄ですね」


「噂?どんな噂なのか聞くのが怖いですね」


 気にしない素振りを装って笑顔で聞き返すが嫌な予感しかしない。


「ティリンセ領の傭兵にとんでもない男がいると。帝国の別働隊を潰して付いた綽名が『四百人殺し』。あなた達でしょ?」


『ザワリ』


 王城に紛れ込んだ異物同士の会話に興味津々で聞き耳を立てていた周りの空気が一瞬ざわつく。変な奴と思ってたのが危ない変な奴だと判明すれば周りの反応はこんなものだろう。

 席を立ち、逃げるように立ち去る者がいないだけまだマシかも。


 ほらロクでもなかった。

 そんなに殺してないわ!

 半分くらいだよ!

 誰だそんな綽名付けて噂流したの!


「あれは運よく指揮官を討てたんで敵がバラバラになっただけですよ。全滅させた訳じゃないですから」


「普通はたった二人で指揮官まで辿り着くなんてできないと思うけどね」


「相手は寄せ集めの戦時徴兵が多かったみたいだし、きっと選ばれし者エリーテの人達でも同じ結果でしたよ」


「ふん、私達と同じ事をただの傭兵が出来る時点で既におかしいんだけど」


 クロウと呼ばれた女の子が悪戯っ子の表情で呟く。


「その辺にしておきなさいクロウ。すいませんリュートさん。この子は今回出番がなかったので不満が溜まってるようで。一緒にリシャールに行った仲間が面白おかしく話すのを真に受けてしまったみたいで」


「でもキューの話を聞いたら誰でも気になりますよ。オデッサさんだってそう言ってたじゃないですか」


 どうやらキューという奴が噂の出所らしい。どうとっちめてやるかな。


「それはそうだけどいきなりじゃ失礼って事です」


「……はい、ごめんなさい」


「まったく。ホントにごめんなさい。リュートさん、マリダさん」


「いえ、気にしないで下さい。問題ありませんから。それより皆さんも戻られたんですね」


ロッソはまだリシャールですけど私達五人は陛下と一緒に」


「そうでしたか。挨拶にもいかずにすいませんでした。それにしてもあの攻撃は見事でしたね。どうやってるんですか」


「それはさすがにここでお話しするのは難しいですね。まだ暫く王都にはいらっしゃるんですか?時間が取れるようなら私達の訓練場に来てみませんか?そこなら選ばれし者エリーテしかいませんから気兼ねすることなくお話しできますよ」


「それはぜひ。訓練場は王城の中ですか?」


「少し離れますが王城の西にある陛下の離宮です。私も今日で王城の仕事は片付きそうですから明日以降ならいつでもお立ち寄りください。お話はその時にでもまたゆっくり。さあクロウそろそろ戻りましょう」


 そう言うと二人は席を立ち、来た時と同じように悠然とサロンを出て行った。


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