第180話 道案内

 一度は刺すような視線を向けられたものの再び二人は忠誠を誓った主へとその視線を戻し無事の帰還を寿いでいる。


 王様の姿を目にして感涙に咽ぶ二人の姿に俺が居ては話したいことも話せないだろうとちょっと気を遣ってマリダ達に目配せをするとそのまま静かに部屋を出る。


 まあ俺に聞かせたくない話もあるだろうし部外者がいるのも何だろうからね。政治の話なんか聞きたくも無いし関わりたくないし。というか俺が居心地悪くなりそうなんで逃げただけです。


 部屋を出たその足で向かったのは王城の外に設置された監獄だ。


 宰相様に貰っておいた許可状を入口の衛士に見せて中に入ると幾つもの扉を抜けて建物の中でも最も厳重そうな地下を目指して進む。通路の壁に点々と設置された灯火だけが照らす薄暗い牢獄の中に目的の人物が粗末な貫頭衣をその身に纏い手枷を填められた状態で石の寝台に座っていた。


 場違いな輝くような美しい長い髪が何とも痛々しい。


「何の用だ。貴様らに話す事など無いと言ったはずだ」


 こちらの気配に気付いて上目遣いにジロリと睨みながら不貞腐れたように女は口を開いた。


「一ついい話を持って来たんだけど聞く気はある?」

「好きに話せばよかろう。私はここから動ないのだからな。だがお前達が望む結果になるとは思うなよ」


 薄暗がりでギラリと光る瞳はまるで森に潜み獲物を見つめる獣の様だ。

 薬はすっかり抜けている様で少し安心する。

 身柄は引き渡したがいつでも面会して話が出来る様に予め交渉済だ。


光の扉ポートへ案内してくれるならここから出してやるがどうする?」


 駆け引きは面倒なので要件をストレートに伝える。


「!貴様、何故それを。まさか二人が喋ったのか!」


 確かに他の二人も喋ってましたけど貴女もしっかり喋ってましたよ。

 まあ薬で朦朧としている時に喋った事なんか覚えていないだろうから仕方ないんだけど素面でもこんな反応じゃ何にも隠せそうにない。

 

 しかしこいつホントにポンコツだな。返しが分かり易すぎるだろ。

 そんな反応じゃそれが確かにありますよと言っているような物だ。


 大まかな場所は尋問の結果で判明しているのだが、それでも捜索範囲は中々の広範囲に及ぶ。それにミラクの技術で隠蔽されているのだろうから外から見て如何にもな物が見つかるとも限らない。


 ならば多少のリスクはあっても道案内させてみようかとなった訳だ。


「嫌なら無理にとは言わないよ。少し時間はかかるだろうけど何とかできると思ってるから。ひょっとしたら森を焼く事になるかもしれないけどね。つまりそっちの協力が無くても結果は変わらない。でもそこまで派手にやったらそっちは拙いんじゃないかな。こちらは無駄な時間を、そちらは要らぬ注目を避けられると思うけどどうする?」


 こちらとしては森を焼き払う気なんて更々ないし、あの広大な森を焼き尽くす程の力なんてないけどポンコツ相手の張ったりはこれくらい分かり易い方がいいだろう。


「あの広大な森を焼くだと?そんな事が出来るはずが――」


火炎フレア


 ラライアの言葉を遮り無言で広げた俺の掌に小さな回路図が現れるとその上に火球が揺らめく。


「意外と簡単に出来ると思うけど」


「…神器の力か。抵抗は無駄なのだな………。分かった、案内しよう」


 ラライアは暫らく悔しそうに揺らめく炎を見つめていたが、その視線を逸らすと苦々しく吐き出すように俺の提案を受け入れた。


 俺が何某かの特殊な力を使えるのは自らの身体で学習したらしい。体が壊される痛みは色濃く記憶に残っているのに傷痕は痕跡も無い。国には治療に用いる神器もあるらしいのでその辺と結び付けて勝手に納得したようだ。


 こいつらに染みついた神器の力への畏敬の念が強すぎるお陰だな。

 結局、人とは自分の価値観でしか物事を判断できない。

 つまりは信じたい事しか信じないのだ。

 こいつらの場合は根底にあるのは大きな力を持つ神器への絶対に近い信頼だ。

 そこさえ抑えれば大抵はゴリ押しが通るということだろう。


 俺はこれより大きな炎を出した事ないけどラーミアの雷みたいにとんでもない威力の火の神器があるんだろうか。だとすれば怖すぎるんですけど。


 ともあれこれで良し。道案内確保。これで無駄に森を彷徨わないで済むだろう。

 最悪、迷いの森に踏み込んだ事があるキアーラでも連れて行くかと考えていたのだが巻き込まないで済みそうだ。


「二、三日中に迎えに来る。それまでは大人しくしていろ」


「ふん、神兵ガルディアンを従える奴に逆らってもどうにかできるとは思わん」


 俺の後ろに立つミアを見ながら投げやりな態度で呟く。


 ユーグラシアは確かにエルフの住まう国ではあるのだが、その中枢である統括院が活動する議事堂の奥には誰も立ち入る事のできない区画が存在しているらしい。その門を護っているのが神兵ガルディアンと呼ばれる兵だそうだ。当然、その先に何があるのかは誰も知らない。


 遥か昔にはその奥に入ろうと兵を進めたエルフもいたらしいが神兵は斬られようが突かれようがダメージを受ける様子はなく、それどころか入口を閉鎖している柵の僅かな隙間からまるで湧き出すようにその数を増やし攻め込む兵を駆逐したとの記録が残っているそうだ。


 ラライアがミアを神兵と呼んだのも牢の格子を平然と通り抜ける様子からその話を思い出したようだ。因みに先人の教えを無視したそのエルフ達は生き残った者全員がその後に反逆者として処刑されており、その背景は統括院により秘匿されたため真相は知らされておらず半ば伝説のようになっているとか。


 ユーグラシアも決して一枚岩ではない事が伺えるのだが今はどうなんだろうか。


 当然これもラライア達から聞いた話。薬使ったのは確かだけどこいつら本気で隠す気あるのかと疑うほどよく喋る。ガバガバ過ぎて逆に疑っちゃうレベルだな。


 やっぱりエルフっておバカなの?ポンコツ臭しかしないんだけど。

 見た目がいいだけに残念な感じが際立ってるような。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

果ての空はどんな色 銀ビー @yw4410

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ