第10話 天然は役に立つ
ネヴェイアは少し不機嫌そうにルーレイロを見ている。
「なんでブラジルのスワットもどきがここにいんだよ?お前は一年坊主だろ?ダンジョンには用はないはずだろう?」
「スワットじゃなくてボッピだよ。海軍さんこそなんで陸戦用の迷彩服着てるの?ダンジョンは地面の上を歩くんだよ。船の上じゃないんだよ?海軍さんじゃ地面の上で頑張っても役立たずなんじゃ?」
ルーレイロは不思議そうに首を傾げている。挑発ではなく本気で心配しているようなニュアンス。ルーレイロさんマジ天然。
「おちょくりやがってこの野郎!海軍兵だって陸戦能力はあるに決まってんだろうが!」
ネイビーシールズの起源は海軍による機雷除去作戦にあるそうだ。そこから転じて海から上陸して陸戦を行える能力を備えて、今や彼らシールズの戦えない場所は地球の上にはないだろうってくらい幅広い作戦を行っている。
「ふぇ?海の上じゃないのに戦えるの?アメリカってすごいんですね」
ルーレイロはあくまでも警察官だ。海軍の任務については船を使うくらいしか知らないんだろう。
「何だこいつ…天然か?はぁ…もういいや。アラタたちは昼食か?」
ネヴェイアは溜息を一つついて俺に話を振ってきた。
「うん。ネヴェイアは?一人みたいだけど、どこかの学生小隊さんと一緒にランチしないの?」
「いや。そういうのは断ってる。ダンジョンに潜るのは授業単位だから仕方がない。だから小隊には入れさせてもらうけど。…戦友じゃないからな。一緒に飯食ったりお喋りしたり遊んだりはできねぇ」
どことなく寂し気な笑みを浮かべている。ネヴェイアにとっての戦友はどうやら重いもののようだ。これを聞くとランチに気軽に誘うのはちょっと憚れる。と思ったのだが。
「海軍さんお友達いないんだ。かわいそう。わたしたちと一緒に食べます?おにぎり美味しいですよ」
ルーレイロはにっこり笑って立ち上がり、ネヴェイアにラップにくるまれているおにぎりを一つ手渡した。
「…お前今の俺の話聞いてたの?」
ネヴェイアはルーレイロの事を唖然とした顔で見ている。
「ええ、まあ。お友達がいなくて寂しそうってことはわかりました。わたしは引っ込み思案でインドア派なんで体育会系っぽい海軍センパイとお友達にはなれそうにないからいっしょに食べられますよね」
どこか慈愛さえ感じさせる綺麗な笑みをルーレイロは浮かべている。ネヴェイアはしばらく呆けたようにその顔を見ていたが、微かに笑みを浮かべて。
「そうだな。くく。それなら一緒に食べられそうだな」
ネヴェイアはルーレイロの隣の席に座っておにぎりにぱくつく。
「へぇ美味いな。中に入ってるのは卵焼きか?いい香りだな。ブラジル料理か?」
出しのよく効いた卵焼きの入ったおにぎりを美味しそうに食べるネヴェイアをルーレイロはどこか誇らしげな笑みで見つめていた。
「あのー。そのおにぎりを作ったのはあたしなんだけど…ていうかこのお弁当はあたしとアラタのやつなんだけど…アハハ…」
どこか申し訳なさげに祢々が申し出る。ネヴェイアは微かに驚いて。
「え?おいスワットもどき?!これはお前が作った料理じゃないのか?」
「わたしお弁当は作りません。ランチは外食とかが好きなんです。このお二人が誘ってくれたのでご相伴してるんです。美味しかったので海軍センパイも誘いました。美味しいものはみんなで食べた方がいいですもの」
「いやいやいや!?おまえ自分の弁当でもないのに、オレに勝手に分けたの?!もうなんなのお前?!」
ルーレイロはどこ吹く風といった感じで、祢々からさらにおかずのから揚げを貰って美味しそうにぱくついていた。なんだろうねこの子。年下小悪魔属性まで持ち合わせているのだろうか?祢々も楽しそうにルーレイロにおかずを分けているし、おねだり上手なんだろうな。
「アラタ。このスワットモドキには気をつけろよ。気がついた時にはきっとケツの毛までむしられてるぞ」
「はは。覚えておくよ」
もしかしたら天然のハニトラ要員なのかも知れないね。閑話休題。これはいい機会だと思った。偶然とはいえ話を作る機会ができた。ネヴェイアは人気者なのでいつも誰かに囲まれてる。こうやって静かに話せる機会はチャンスだ。
「ネヴェイア。俺と祢々は午後からダンジョンにアタックするつもりだけど、どうかな?最近見つかった40階で見つかったサブダンジョン行くんだけど。サブコアが封印されていた場所でね。まだ隅々までは探索されてないんだ」
サブコアはダンジョン内でさらにみつかるダンジョン。通称サブダンジョンというところに置かれている。この間の騒動で美作がサブコアを見つけたサブダンジョンは大方の調査が終了したため、一般公開されている。まだ隠し部屋の類が残っているようで、貴重なアイテムが眠っているのではないかと冒険者の間では噂されている。
「例の事件の犯人が行ったダンジョンか。それは面白そうだな…だけどすまない。もう先約があるんだ。アメフト部の二年生中心の小隊に誘われててな」
ネヴェイアは興味あり気に俺の話を聞いてくれた。だけど申し訳なさそうに断ってきた。まあ仕方がない。アメフト部の小隊は二学年最強の小隊と言われている。
「午後はそいつらと潜るんだ。アラタ。誘いは嬉しい。だからまた今度誘ってく…」
「また今度と言わず、そこの負け犬男と今すぐに組めばいいじゃないか。なあシールズ!!」
氷のような冷たいニュアンスを含んだ女の声がした。迷彩の戦闘服を着たルシーノヴァがいた。首元はロシア軍でよくみる水色の縞々シャツだった。
「てめぇアルファ?!それにアメフト部?!なんで一緒なんだ!?」
ルシーノヴァの後ろには迷彩服を着た筋骨隆々の大男たちがいた。アメフト部の二年生たちだ。皆なぜかルシーノヴァと同じソビエト軍っぽい縞々のシャツを着ていた。
「シールズ。この学内最強のアメフト部はジブンの指導下に入った!故にお前はジブンの小隊には不要だ!そこの負け犬男のところに行けばいい!そして弱者と友情をはぐくんでダンジョンの中で野垂れ死ねばいい!!フハハハハ!!」
悪い笑顔でルシーノヴァは高笑いを上げる。後ろのアメフト部部員たちも彼女と共に笑い声をあげる。
「お前らの先約はオレだろうが!そいつにつくのは勝手だが、軍人でましてや男なら女との約束くらいは守れよ!男らしくない!サイテーだな!」
ネヴェイアの怒りはもっともだ。これはスジが通ってないと思う。ネヴェイアの面子を潰すような行いだ。祢々とルーレイロも冷たい目をアメフト部の男子たちに向けている。だが男子たちはその視線をニチャニチャとキモい笑みを浮かべて受け流していた。
「我々はアメフト部は男の中の男だ」
アメフト部小隊の隊長が一歩前に出てきてそう言った。もちろんネヴェイアはその言葉に侮蔑を隠さない。
「はぁ?約束破るような奴にそんなこと言う資格はねぇよ」
「我々アメフト部は日々男らしくあるために過酷な練習を行い、激しいトレーニングを繰り返し、肉体と精神を鍛え上げてきた。見ろ!この筋肉を!」
男子たちは上半身の服を脱いで、その肉体を誇示しはじめる。
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