第13話 戦友になるのは簡単だ

 ダンジョンの内部の通路はまるで鉱山のような土の壁で出来ていた。


「外面とはなんかギャップが激しいな。なんだこの適当な感じは?」


 ライフルを構えながら俺の横を走るネヴェイアは燻しがっていた。


「たしかにね。床の土も足跡が残るくらいには柔らかいしね」


 通路には先に入ったであろうルシーノヴァ小隊のもとであろうコンバットブーツの足跡が沢山あった。足跡を追いかけるとT字路にぶつかった。足跡は両側にある。つまりルシーノヴァ隊は二手に分かれているということだ。そして同時に俺の感知スキルがモンスターの気配を掴んだ。俺たちはT字路の前で停止し壁際に潜む。


「全員ストップ。この先のT字路の左側、その30m先にモンスターの群れがいる。数は6。そのうち2体は魔導士ゴブリンのようだ。残りはちょっと強めの戦士ゴブリンだね」


 『王様の力』に覚醒して以降、俺はステータスシステムに登録してある『スキル』に関しては自由自在に使えるようになった。もともと俺がFランクだったのは自分の力を使いこなせていないのが理由だったわけだ。ステータスシステムが俺の異能により構築されているのだから使いこなせないわけがないのだ。もっともステータスシステムは俺の『王様の力』を使ってラエーニャが造った『人工異能大系』なので、俺も良く知らない裏の機能が多々あるようなのだ。それについてラエーニャは一切コメントしていない。だんまりを決め込んでいる。


「へぇ…。ダンジョン内部は異能力の索敵に結構ジャミングがかかるのにアラタは気配が読めるのか?大したもんだな。それがお前の『スキル』か?」


 ネヴェイアは何処か感心しているように見える。


「うん。まあね。感知や探索は得意だよ。一応指揮官だしね」


「ふーん。確かに将校様にはぴったりだな。だけどステータスシステムに依存しすぎるのは感心できないな。他の小隊もそうだったけど、国連軍はステータスシステムに頼り過ぎてる。もっと自前の異能を伸ばしたり、装備での補正で戦闘力を上げるべきだと思うけどね」


「たしか米軍ではステータスシステムの仕様を必要最小限にする戦略にシフトしてるんだっけ?」


「ああ。最近やっと簡略化された魔導防護装甲の装備や催眠暗示と投薬とナノマシンによる安全な超能力開発が可能になったからな。今後はステータスシステムを利用する戦術は廃止して、これらの装備と戦術ドクトリンを全軍に徹底させる予定だ。もともと利用フリーで運営不明の上、突然現れたステータスシステムなんていう物に国家戦力を依存するのが間違ってるんだ。ステータスシステムが登場した時からネイビーシールズを始めとする米軍の各特殊部隊はこのシステムの利用を原則禁止としていた。俺もアカウントはとってない。戦場で頼れるのは自前の異能と訓練の成果と戦友だけさ」


 流石は世界最強の超大国の軍隊だ。ステータスシステムが登場して30年でその依存から抜け出ようとしている。もっともそれができるのはアメリカのような潤沢な予算と政治力がある国だけだろう。他の国ではきっとこうはいかないはずだ。


「さてお手並み拝見だぜボス!敵をどうやって排除するか命令をくれ!オーダー!オーダー!プリーズ!」


 どこか俺の事を試すような人の悪い笑みでネヴェイアは囃し立てる。器を試されてる。兵士として俺が頼るに値する指揮官なのか見極めようとしているのだ。俺はニヤリと笑って。


「オーケー!じゃあまずはそこで見てろ!」


 俺は壁からT字路に出る。まずはライフルを『弾速加速』のスキルで強化する。そして群れの後方に隠れている魔導士ゴブリンの頭に向かって引き金を弾いた。


『gyyy!!!』


 一体の魔導士ゴブリンの頭が強化された銃弾によって粉々に吹き飛ぶ。今の俺は『弾速加速』スキルを最高レベルで使用できる。雑魚ならこの通り一発で吹っ飛ばせるのだ。すぐにもう一体の魔導士ゴブリンの額に狙いをつけて引き金を弾く。


『pygyaaa!!』


 こちらも頭が粉々になって吹き飛び息絶えた。残りは戦士ゴブリン四体だけ。このまま俺が皆殺しにしても良いけど、仲間の活躍を奪ってしまってはいい指揮官とは言えない。


「敵の援護は潰した!ネヴェイア!君の実力を見せてくれ!突撃せよ!」


「いいね!了解ボス!まかせろ!!」


 ネヴェイアは獰猛な笑みを浮かべて戦士ゴブリンたちに向かって突撃した。彼女は自前の異能力で身体を強化し、加速して一気にゴブリンたちの懐に飛び込んだ。


「さあ!ゴブリンども!ネイビーシールズ仕込みの剣をその目に焼き付けろ!!」


 タクティカルベストの背中に装着している二本の鞘からネヴェイアは剣を抜いた。右手には片刃のレイピア。そして右手にはちょっと珍しい形の短剣。


「ねぇ、ねぇアラタ。ネヴェイアの左手の剣。あれって何?」


「マンゴーシュ。使い方は、まあ、見ればわかるよ」


 ネヴェイアはまず一番近くにいたゴブリンの心臓を鎧ごと鋭い突きで貫いた。


『gyaaaaa!!!!!』


 仲間が殺されて激昂したゴブリンたちがネヴェイアを取り囲み、そのうちの一体が持っている剣で斬りつけてきた。


『剣筋が甘い!!』


 ゴブリンの剣をネヴェイアはマンゴーシュで防ぎ、払いのける。それによって体勢の崩れたゴブリンの右目をネヴェイアはレイピアで脳ごと貫いた。


『ggga...』


「おらぁ!残りもかかってこい!!」


 ネヴェイアはゴブリンに向かって挑発的に叫ぶ。


「ああ!盾代わりなんだ!すごーい!!」


 楽しそうな笑みを浮かべた祢々はぱちぱちと拍手のように手を叩いている。


「二刀流の一つの形だね。マンゴーシュでテクニカルに相手の剣を弾き受け流してレイピアでカウンターを叩きこむ。綺麗でその上理に適った動きだ」


 そのままネヴェイアは残りのゴブリンもマンゴーシュとレイピアのコンボで屠った。


「いやぁ楽勝だったぜ。この分ならボスも大したこと無さそうだな。アハハ!」


 剣を背中の鞘に収めたネヴェイアは得意げな笑みを浮かべて俺たちの方へ戻ってきた。


「すごいねネヴェイア!頼りにしてるぞ!いえーい!!」


 俺は笑顔を浮かべながら、彼女の前で右手を挙げる。ハイタッチのお誘い。ネヴェイアは反射的に右手を上げた。だけどすぐにそれを引っ込めてしまう。


「…いや…それは出来ない…オレはお前たちの戦友じゃないから…」


 ネヴェイアは暗い表情で俯いて右手をじっと見ている。その瞳は寂しさが確かに見えた。


「何言ってんの?ネヴェイアは俺の援護で突撃した。俺たちは連携したんだ。だからもう戦友だよ」


 だから俺は彼女が引っ込めてしまった右手を掴んで上に挙げさせる。ネヴェイアの頬が少し赤く染まった。


「おい!ちょっといきなり手を握るなんて…!」


「祢々ちゃん!」


 俺は祢々に向かってウインクする。祢々は笑みを浮かべて俺の意図を察してくれた。


「いえーい!ネヴェイアいえーい!!」

 

 祢々は右手を挙げて、ネヴェイアの手を軽く叩いた。ぱあんと気持ちのいい音が俺たちの間に響いた。


「あっ…音が…きれい…」


 ネヴェイアはあっけにとられた顔で自分の右手を見ている。


「…ふは…そっか…そう言えばちょっと前まではこんなことしてよろこんでたんだよな…フフ…」


 そしてネヴェイアは柔らかな笑みを浮かべた。


「ありがとうアラタ。…皆で戦えるのって幸せなんだな」


 俺と祢々もまた笑った。チームの仲が確かに深まった。そう思えたんだ。





 俺たちはダンジョンを進んむ。時にモンスターが現れるが、俺の援護射撃、祢々とネヴェイアの近接戦闘で難なく排除できた。ここのモンスターは俺たちの敵ではない。ボスもこの調子で倒せればいいのだが…。


「なあボス。これ見てくれ」


 ネヴェイアが何かに気が付いた。それは十字路の床にあった。二筋の真っすぐな線型の痕が土の上に残されている。


「なんだこれ?まるで車のタイヤの跡?いや…まさかこれ戦車か?」


 一年生の頃何度か実習で戦車に乗ったからわかる。地面に残されている後はまるで戦車の無限軌道の痕のように見える。その後は十字路で曲がって何処かへと続いていた。


「ねぇねぇアラタ。もしかしてボスって戦車なのかな?あたし、戦車の授業苦手だったなぁ。狭いし揺れるしおしり痛いからキライ!」


 祢々的には戦車はせいぜい不快な存在止まりなのだろう。だけど俺とネヴェイアは少し顔を引きつらせてしまった。


「ボス。オレはぶっちゃけ地上なら戦車なんて別に怖くないんだ。異能があるし、開けた場所なら砲撃だって避けられる…だけど…」


「ああ。言いたいことはよくわかる。ここはダンジョンだ。外の戦車よりも攻撃力は恐ろしく高いはずだ。機動力だって俺たちの常識はおそらく通じない。なによりも、ここは狭すぎる・・・・・・・!」


 残されている無限軌道の痕から推定すると戦車のサイズは恐らく通路ギリギリになるはずだ。すなわち会敵してしまうと、正面から戦う以外に方法がないということだ。ダンジョンというファンタジー世界の中で、まさかの陸戦最強の存在が登場するとは…。世の中は本当に何が起こるかわからないものだ。

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ハーレム・スクワッド 美少女たちを無双チートな自分専用武装に変化させて装備するスキルでハーレムなダンジョン攻略特殊部隊を作りあげて、王様に成り上がります! 園業公起 @muteki_succubus

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