第34話 火に追われて、水面に消える
お台場ダンジョン40階の中心部には綺麗な湖がある。その湖畔に美作は手に入れたダンジョンサブコアの力を使って城を築き上げた。その城の玉座の間にて美作は眉間に皺を寄せながらステータスプレートのダンジョンマップを睨んでいた。
「何処に行った祢々!お前は俺の傍に居るべきなんだ!この城で俺と一緒に…!」
妄執に焦がれながらも美作は祢々の居場所を突き止めようとデータ処理を行っていた。今このダンジョンの40階より下のモンスターはすべて美作の制御下にある。彼らの目から齎される情報によれば、祢々は間違いなく城から離れた森の奥深くの何処かにいるはずだった。
「丁嵐め!何の才能もない雑魚のくせに祢々を騙しやがったんだ!許せない!絶対に殺してやる!!確か祢々は丁嵐を背負っているんだよな。だったら…。ステータスオープン」
美作はステータスを開く。ダンジョンサブコアを手に入れたことで追加されたモンスター制御のコントロールパネルを弄り始める。
「森に潜むものをわざわざ追いかける必要はない…。炙り出せばいいんだ…。くくく…あははは!…あれ?何だこの反応…?」
ダンジョンマップに警告のマークが現れていた。城を中心にそれぞれ40階の東西南北の四方の端に国連軍のパーティーが出現しているのが映っている。
「嘘だろ?!ウォーロード共だと!?」
北にシャールカ・クラーロヴァー少将のヨーロッパ国連軍。
南にレナエル・ルロア中将のオセアニア国連軍。
西にリーフェ・コーニング大将のアジア国連軍。
東にヒメーナ・レイエス元帥の中南米国連軍。
この四つの軍勢が城を目指してモンスターを駆逐しながら進んでいたのだ。そして美作のステータスプレートに対してウォーロード達から通信が入る。
【今すぐにあたくしに降伏し、ダンジョンサブコアをお渡しなさい。そうすれば命までは獲りませんわ。シャールカ・クラーロヴァー少将】
【ダンジョンサブコアをわっちによこすでありんす。さもなければ殺すでありんす。レナエル・ルロア中将】
【ボクにダンジョンサブコアを引き渡してくれ。なに、悪いようにはしないさ。でも聞き分けがない子ならばこのかぎりではない。リーフェ・コーニング大将】
【あーしは寛容だし!ダンジョンサブコアをあーしにくれるなら部下として可愛がってやってもいいし!でも渡さないんなら。ぶっ殺すし!ヒメーナ・レイエス元帥】
降伏勧告らしいメッセージが立て続けに表示される。それを見て美作は狂ったように笑いだす。
「くくく、あーははは!!ウォーロードどもめ!力を手に入れた俺を恐れて結託して戦争を仕掛けてきたのか!!ふははは!愚か者め!このダンジョンは俺の城だぞ!!むしろここで奴らを倒してこの俺こそが地球の支配者に相応しいことを証明してやる!!あーははは!!」
美作はウォーロード達に一括でメッセージを送る。
【お前たちこそ俺に降伏しろ!この俺こそがダンジョン王!この世界の支配者になる男だ!!今ここで俺に泣いて命乞いをするならば、お前たちを女として可愛がってやってもいいぞ!】
それに対しての返事はすぐに返って来た。
【我が忠誠は唯一絶対の王にのみ捧げたるもの。故に我が王に代わり王を名乗る恥知らずは万死に値する。サブジェクトランク5位・
【我が貞節は唯一絶対の王にのみ捧げたるもの。故に我が身を辱めんとする意思を持つ汝を生かしてはおけぬ。サブジェクトランク4位・
【我が崇敬は唯一絶対の王にのみ捧げたるもの。故に我が王の治める世界を乱さんとする叛徒を生かしすことまかりならず。サブジェクトランク3位・
【我が愛情は唯一絶対の王にのみ捧げたるもの。故に我が人民を脅かさんとする汝を許しはしない。サブジェクトランク2位・
どれもこれもさっきとは違ってひどく好戦的文面に思えた。だが美作にはそれは女たちの精一杯の強がりに見えたのだ。
「くだらん!俺を舐めるのであれば、それ相応の出迎えをしてやろうじゃないか!モンスター共!森に火を放て!俺に逆らう女どもを煙で煽ってやれ!!あーはははは!!」
コンソールに向かって命令を下す。すると40階の各地にいるモンスター達が森に向かって魔法を使って火を放ち始める。そしてどんどん木々に延焼していき、火の勢いは何処までも広がって行こうとしていた。
「さあ祢々!出てこい!早く出てくるんだ!!俺のところにこい!死にたくなければ俺のところに来るんだぁ!抱きしめてやるよぅ!祢々ぇええええええええええええええええええ!!!」
城から火の海に包まれる森を睥睨しながら美作は高笑いを続けていた。
森の奥に掘った横穴に潜んでいた祢々は、焦げ臭い匂いに気がついた。土と草を被せた偽装ネットから外を見ると森の木々に火がついているのが見えた。
「火をつけたのね!あの馬鹿野郎!!そこまでする?!そんなにあたしが欲しいの!!あたしはあいつのこと全然好きでもないのに!!」
祢々はすぐに新を背負って穴から飛び出して、森の中を走る。煙と火の勢いはどんどん増していく。
「あたし一人ならともかく今の新じゃこの火には耐えられない!!どこか水源は…?!」
マップを開いて水源地を探す。フィールドの中心に湖があることがわかった。そこであればこの火からも身を守れる可能性がある。祢々は湖に向かって駆けていく。その途中、上空を大きなドラゴンたちがフィールドの中心部から四方へと飛んでいくのが見えた。
「一体何が起きてるの?!ウォーロード達の部隊も40階に上がってきたみたいだし…どうしてこんなことに…!」
祢々は困惑と疑問で頭を一杯にしながら、それでも火の中を走り続けた。そして湖の畔に辿り着く。幸いにして湖一帯の火の勢いは弱かった。いざとなれば湖に飛びこめば火に飲まれずに済む。
「ここなら安心かな」
「そうとも!俺の傍に居ればお前はいつでも安心できるんだ!祢々ぇ!!」
野太くてそれでいてねっちこい気持ち悪い声が湖の方から響いてきた。
「美作!!そんな!?」
煌びやかな鎧を纏った美作凱斗が湖水の上を飛びながら祢々の方へと飛んでくるのが見えた。
「嫌ぁ!!!落ちてぇえええあああああああ!」
祢々はありったけの力を込めてオーラ弾を練り上げて、それを美作に向かって放つ。だが。
「無駄だ!!祢々!俺は世界一強い男なんだから!お前みたいなか弱い女の子には勝てないんだよぅ!祢々!祢々ぇえええ!!」
高ランクのモンスターさえも一瞬で蒸発させられる祢々の砲撃さえも美作は剣を払うだけで簡単に消し去ってしまった。そして美作は祢々の傍に軽やかに降り立ち祢々に向かって剣を向ける。
「祢々。降伏しろ」
「いや!絶対にしない!」
「今ここで聖戦が行われてる。俺はウォーロード達を倒してこの世界を手に入れるんだ。祢々。お前を世界の王である俺の王妃にしてやる」
「そんなものになりたくなんかない!望んでない!あなたの女になんかなりたくない!!」
「祢々!いい加減聞き分けろ!!」
美作は祢々に一気に詰め寄り、その首を右手で締め上げて持ち上げる。新の体はそのせいで祢々の背中から地面にずり落ちてしまう。
「ぐぅ…かはっ…」
「おかしいじゃないか。女は強い男が好きだろ?だからあの時負けた俺から丁嵐にお前は乗り換えた。俺はお前の傍にずっといたのに!!」
「最初からお前になんか乗っていない!お前はあたしに付き纏ってだけでしょう!!」
「だから俺は丁嵐を倒したんだ!なのになんで負け犬男をお前は背負って守ってるんだ!おかしいだろう!何でそんなことするんだよ!?あの時負けた俺の傍にはいてくれなかったくせに!」
「あたしがお前の傍に居ないのは…お前が誰にも優しくない男だからよ。アラタはあたしにちゃんと優しくしてくれた。だからアラタが負けたって傷ついたってあたしはずっと傍に居たいのよ」
首を絞められながらも祢々は笑った。そこには新に向ける確かな愛情があった。それを見て美作は激昂する。
「うああああ!なんでだよ!なんで俺じゃなくてそいつなんだよ!そいつは雑魚なのに!」
美作は祢々の体を遠くに投げた。地面に何度もバウンドしたせいで祢々は体に強い衝撃を喰らって呼吸が困難になる。
「入学したころからムカついたんだよ。ステータスもカスだし、異能もクズ。なのに首席を取って俺たちに向かって上から目線のお前が気にくわなかった!何が兵士だ!?将校の戦い方だと!俺たちはエリートなんだから英雄を目指すべきだろう!ダンジョンの脅威から人類を救うのはステータスに優れた英雄に決まってるじゃないか!!俺みたいな!!」
そして美作は新の体を持ち上げて、湖の方へと歩いてく。
「何する気?!やめて!やめて!やめてぇ!!」
祢々は必死に美作の方へと這って行こうとする。だが蓄積したダメージのせいで体がうまく動かせなかった。
「お願いやめて!美作やめて!やめてぇよう!お願い!やめてぇ!アラタに手を出さないでやめてやめて!やめて!!なんでもするから!何でもするよ!あたしにできることならなんでもするから!!体ならいくらでも好きにさせてあげる!王妃でも奴隷でもなんでもなるから!だからアラタには!アラタの事は許してぇ!!」
その声を聴いて美作は足を止めて祢々の方を振り向いた。祢々は美作が止まったことに安堵した。だが美作の目を見てそれは勘違いだったと知った。その目にはありったけの虚無と憎悪しかなかった。
「祢々。お前はこいつの為ならなんでもするんだろう?許せないじゃないか。男の為に何でもできるなんて。そんなにこいつを愛してるのか?そんなの絶対に許せないぃいいいいい!!うああああああああああああああああ!!!」
「やめてぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!」
そして美作は新の体を湖に向かって思い切り投げた。新の体は遠くの水面に落水し、そのまま沈んでいく。
「うぁあ…ああっ…あああ…ああぁあぁぁぁぁぁあああ…」
祢々は大粒の涙を流しながら湖を見続けていた。アラタに意識は無かった。湖に深く沈んでしまえばもう助かることはない。その事実が祢々の胸を悲しさと虚しさで埋めていく。
「いひひ!いひゃははは!あははははあはあははははあああはははは!あはははははははははは!丁嵐新ぁああああ!死んでくれて!ありがとうぅぅぅぅうううううううううう!あははははははははっははははははははははははは!あはははははははははははははははははは!」
その狂った笑い声だけが祢々の耳に響き渡る。
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