第33話 決断の非情さ

 地毛の黒に戻った髪の毛をリリハはしきりに掻きむしっている。その顔には苦悩と恐怖がありありと刻まれていた。


「うぉ?!リリハ先輩がビッチギャルから清楚系黒髪ロングになってるぅ?!驚きすぎだろ!気持ちはわかるけど落ち着け!!」


「ですが!こんなのいくらなんでもあんまりでしょう!?この世界の危険人物がここに勢ぞろいなんですのよ!意味不明ですわ!!事態が急展開過ぎます!!彼女たちの目的もわからないのですよ!!いったい何が!?」


「だから落ち着けって先輩!いつもみたいにふわっとしていてそれでいてすごく雑かつあやふや極まりない元カレの話をして落ち着いてくださいよ!!ほら!元カレで逆ハーレムを作るのが夢なんでしょ!!」


「いえ。わたくしは元カレが100人欲しいんであって、別に逆ハーレムは欲しくないんです。わたくしはチヤホヤはされたいですが、別に付き合うのは一人でいいんですよ。男と違って女って別に同時に複数人と付き合うとかは求めてないんですよ千晶くん。覚えておくといいですよ。男女の違いって奴を。うふふ。あ、なんかわたくし落ち着きましたわ。ありがとねー☆千晶くん!今度千晶くんを元カレにしてあげるね!!」


 千晶とのしょうもない会話で落ち着きを取り戻したようで、リリハはいつものギャルメイクに姿を変えた。


「いやぁあんたの元カレにはなりたくないわ…」


「ええ?もしかしてウチの最後の男になりたいってこと?!…ごめんね…ウチは風船よりも軽いお付き合いがしたいからそういう重い関係はちょっと…元カレ100人出来た後ならいいよ…」


「そんなに経験人数多い女に本気になれる男はあんまりいないと思うんだよなぁ…まあいいや。で、どうします?ウォーロードたちへの対処」


 方針を尋ねられてリリハは真剣な顔になる。


「マップ上での動きを見ると、ウォーロード達は互いに距離を取って接触しないように動いているみたいだね。お互いに違う階段を使って上のフロアに昇ろうとしてるみたい。だけど動きから見ると競争しているような感触もあるね。ならウチらのことをわざわざ殴りに来ることはないと判断できる。彼らの動きは速い。だから彼女らが上の階に昇るまでウチらはここで待機。念のためにウォーロード達との接触は可能な限り避けるよ」


「ウォーロード達が先に上に行くと新たちが危険に晒される可能性がありますけど」


 千晶は進軍の一時停止に納得がいっていないようだった。千晶だけではなく他の士官候補生たちもそうだった。早く仲間を助けたいと彼らは焦っている。


「残念だけど二次被害は避けないといけない。ウチらはもちろんアラタっちとネネちゃんを助ける。だけどここにいる勇気ある兵士たちの命だって損ないたくない。千晶くん。これが指揮官の非情な決断だよ。ウチを恨んでいいよ。あなたがいつかこういう決断をしなくていいようにウチの決断から学んで欲しい」


 リリハは寂し気に笑った。彼女もまた自身の決断に心の底から納得はしていない。それを見て千晶たち候補生はやるせなさそうに頷いた。


「わかりました。令令に従います。…難しいっすね指揮官って…」


「そうだね。人の命を天秤にかけてギャンブルし続けるのが指揮官なんだ…因果な商売だね…ただのビッチになりたいよ…ほんとに…」


 そして千晶たちはウォーロード達の部隊が上の階に昇ったのを確認し進軍を再会した。


「さて…美作達の取り巻き君たちはこの部屋から動いてないね。千晶くん。うちらの動きよく見ててね。…突入!!」


 美作の取り巻き達がいる部屋の前にやって来た特戦群は通路を塞ぐレンガの山を爆弾で吹き飛ばして、中に素早く突入した。その動きの鮮やかさは国内最強の特殊部隊の名にふさわしい鮮やかなものだった。


「クリア!…鶴来三等陸曹!ターゲット三名確認!全員気絶してます!あと二名の死体を確認。同じく士官学校の生徒で容疑者の仲間の一味のようですね」


 リリハと千晶の傍に特戦群の自衛官の一人が駆け寄ってきて状況報告を始める。


「死体?だからマップに表示されてなかったのか。リリハ先輩。これって戦闘の後ですよね。アラタたちかな?」


「多分そうだね。だけどアラタっちの殺し方じゃないね。アラタっちなら殺すときは全員殺してるはず。彼は半端な殺しはやらないよ。たぶん殺したのは祢々ちゃんだね。…これアラタっちはもしかしたら戦闘不能の大けがしてるんじゃないかな?」


 リリハは部下の自衛官に命じて拘束した美作の取り巻きの一人を傍に連れてこさせる。目覚めさせてから尋問をしたところ、リリハの予測通りアラタは美作によって大けがをしており、祢々が一人でアラタを守りながら背負ってダンジョンを踏破していることを知った。


「ねぇ。美作のその剣の力ってまじで防御不可能なの?」


「ああ。詳しくはわからないが、美作が言うにはサブコアから異次元の力が流れ込んでくるらしい。俺たちもその力の一部を貰っていたけど、確かに防御不可能だ。あの斯吹のシールドさえ切り裂けるんだ」


 千晶はその話を聞いて眉間に皺を寄せる。改めて情報の重要性というものが身に染みて理解できた。


「うわ…知らなかったら初見で死んでたな…捕虜取って正解だった…アラタはそれで斬られて行動不可能になったのか…」


「だねー美作のくそ野郎。はぁ…手に入れた力にベロベロに酔ってるのがわかるね。ビッチのウチでさえ美作のダサさにはワンナイトさえお断りしたくなるよ。マジキモ」


 リリハは額に手を当てて溜息を吐いた。尋問を続ける。


「でさあ美作ってダンジョンのどこを拠点にしてるの?」


「サブコアがあった40階だ。力を使って作った城がある。そこにいる」


「わかりやすいバカやってんだね…王様気取りかぁ…ないわー。あんたたちのステータスプレートにはそこのマッピングデータがあるよね?こっちに渡しなさい。じゃなきゃ殺す」


 その脅しに取り巻き達はすぐにスタータスプレートのデータを通信でリリハに引き渡した。


「おっけー。現地に行ってみてから判断するけど、場合によっては美作はウチらが城に強襲して殺害する。総員。その覚悟はしておくように」


『『『サー!イエス!サー!!』』』


「では40階を目指すよ!!ゴーゴーゴー!!」


 リリハたちは捕虜を連れ、40階を目指しダンジョンを進む。厳しい戦いの予感に供えながら。






  




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