第39話 ウォーロードの奇襲

 力を使い果てて眠ってしまったあらたに祢々は自身の太ももを枕にしてやっていた。柔らかな笑みを浮かべた祢々は新の頬を優しく撫でていた。


「お疲れ様、アラタ。普段は頼もしいのに今はなんかかわいく見えるね。ふふふ。とろこでラエーニャ何やってるの?」


 ラエーニャは湖の方に手を向けていた。掌にはスキルの魔法陣が現れていた。そして何らかの力によって湖の方から赤い球が飛んできた。その球に反応しているのか祢々の瞳は淡く赤い光が宿っていた。


「ダンジョンのサブコアを回収していました。他所の勢力に渡すには惜しいアイテムですからね。これがあれば陛下の力をかつてのものに近づけることが出来ます」


「ねぇ。ねぇラエーニャ。ダンジョンはなんで人間に力を与えるの?普段はモンスターを外に吐き出して人を殺しているのに」


「目的なんてあるんでしょうかね?適当に配置されているだけで深い考えなんてないかも知れませんよ?祢々。世界のあらましについて洞察しても、女の子のあなたは幸せにはなれませんよ。そんなことよりも陛下にどうやったら可愛がってもらえるかだけを考えたらいい。その方がずっと楽しいでしょうからね。ふふふ」


 そういって煙に巻かれたことを祢々は機敏に感じ取っていた。ラエーニャはサブコアを見てうっとりと楽しんでいる。そのサブコアはきっと新の将来を豊かにするために必須な物なのだろう。それを手にして新たに捧げることを楽しみにしている。祢々はそのラエーニャの姿にどこか意地汚い女の匂いを感じてしまうのだ。


「やっぱりラエーニャはアラタに…」


「やっと見つけたし!きゃはは!ラエーニャ!ずいぶんとひさしぶりだし!」


 国連軍の制服を着崩した金髪の美女ヒメーナ・レイエスとその後ろに付き従う迷彩服の兵士たちの特殊部隊の一団が見えた。


「ほう…ヒメーナ殿下ですか。これこれはお久しぶりですね。何か御用ですか?あいにく陛下は今お休みなされているのですよ。王室から出て行った阿婆擦れ王妃さまをお取次ぎするのは憚れますのでね」


 ラエーニャは笑みこそ崩さなかったがヒメーナを酷く冷たい目で睨んでいる。


「あーしが阿婆擦れ?はは!あーしは今でも一途だし!…ふざけるなよ6位の家臣風情がこのわたくしの貞節を疑うのか?」


「ええ、陛下を裏切って後ろから刺したじゃないですか?他所に男でも作ったんだと思ってましたよ。違うんですか?あはは!」


「相変わらずミニスター如きくせに王族のわたくしへ敬意を一切払わないんだな」


 ヒメーナは瞳を紫色に染めてラエーニャを睨み返す。


「あなたは陛下ではありません。ただの配偶者コンソート。なぜ敬意を払う必要がありましょうか?その紫も陛下に抱かれなければ手に入れられなかったものでしょうに!くふふ!」


 2人の間に一触即発の空気が流れる。


「いやぁ面白いことやってるね?ボクも混ぜてくれよ」


 森の中から兵士を引き連れたリーフェ・コーリングが現れる。そして彼女だけではなかった。


「おや同窓会かえ?わっちも当然招待してくれるのであろう?」


「お茶会をするならばもちろんあたくしも呼んでくださらないと!」


 そこへさらにレナエル・ルロアとシャールカ・クラーロヴァーもそれぞれ自前の特殊部隊を引き連れて現れた。ラエーニャと祢々は四方をウォーロード達に囲まれてしまうことになってしまった。


「しまった!この人たちもいたんだ!どうしよう!でもどうやって逃げれば…!?」


 祢々は立ち上がってアラタを背負った。


「ラエーニャ。サブコアを寄越せし!そしてアラタも引き渡せし!力を取り戻した今、お前の傍に置いておく気はあーしにはもうないし!だからむしろ断れし!お前を殺してアラタを奪っていくし!楽しみだし!きゃはは!」


 ヒメーナは獰猛な笑みを浮かべながらそう告げた。それと同時に後ろの兵士たちも臨戦態勢になる。


「もちろんボクもヒメーナ殿下と同意見だよラエーニャ。すぐにこっちにすべてを渡してくれ。かつては友だった。そしてボクは今もまだ君を友だと思いたいんだよ。手荒なことはしたくない。ボクはキミと仲直りしたいんだよ」


 リーフェは優雅に微笑んでラエーニャにそう言った。だが彼女の後ろの兵士たちは明らかにラエーニャへの戦意を隠していなかった。


「わっちも右に同じでありんす。だがラエーニャには恩がある。わっちと共に来るとよいぞ。わっちはラエーニャがアラタに仕えることを引き続き認めでありんす。もちろん。アラタの隣に立つわっちにも仕えてもらうがのう」


 レナエルは艶やかな笑みを浮かべている。ラエーニャの事をアラタと共にどこか熱く舐め回すような瞳で見つめている。後ろの兵士たちはレナエルの指示を今か今かと待っているようにソワソワしていた。


「ラエーニャ!ああ!お久しぶりですわね!ラエーニャ!あたくしと一緒に行きましょう!共にアラタ様の王道を歩きましょう!ラエーニャ!あなたは本当は怖いのでしょう!大丈夫です!あたくしがラエーニャの手を引いてあげますわ!大丈夫!共に生きましょう!あたくしとアラタ様の作る楽園で共に幸せになりましょう!ラエーニャ!ラエーニャ!ラエーニャぁあああああああああ!!」


 シャールカは柔らかな笑みを浮かべながら激しい歓喜の声をあげる。彼女の部隊もまた武器の切っ先をラエーニャに向けた。


「ちっ…!逆上せ上がったブルータス裏切者どもめ。陛下をお前ら如き裏切者共に渡すわけがないのです。私は第一の臣下プライムミニスターとして陛下の王国を守り育てる誇りがある。お前ら如きメス臭いお嬢様如きに陛下は渡さない」


 ラエーニャは仄暗い笑みを浮かべている。そしてその周囲にオレンジ色の光が現れる。そして。


「「「「突撃!!」」」」


『『『『『『『うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!』』』』』』』


 ウォーロード達の怒号と共に兵士たちがラエーニャ達に向かって突撃した。


「うそ!もう!!なんなのよ!もう!うおああああああああああああああ!!」


 飛び掛かってくる各陣営の兵士たちを祢々は華麗な体捌きで避ける。ときに反撃を繰り出しながら、アラタを渡すまいと必死に足掻き、兵士たちの間を駆けまわる。


「死ねぇラエーニャ!!」


「ラエーニャ!ボクと戦え!」


「わっちを見ろぉ!ラエーニャ!!」


「あたくしだけに構いなさいラエーニャぁあああああああ!!」


「メスガキ共!鬱陶しい!!」


 対してラエーニャはウォーロードの4人に囲まれていた。瞬間移動染みた高速移動で彼女たちを翻弄しながら激しい戦闘を繰り広げていた。全員徒手空拳での殴り合いであり、そこには一切の優雅さがなかった。


「ちっ!!リーフェ!!わたくしに力を貸せ!」


「まあいいよ!本当はいやだけど!ボクだって追い込みたいんだからね!」


 ヒメーナはリーフェを抱き寄せる。そして2人はキスをし、ヒメーナは叫ぶ。


武装変換テールム!!」


 リーフェは青い光となり、レイピアに変化し、ヒメーナはそれを装備した。


「おっ?不味いのぅ。シャールカ!わっちに力を貸すのでありんす!」


「仕方ありませんね。まああなたならいいでしょう。ラエーニャを殺させるわけにはいきませんからね!」


 レナエルはシャールカの唇を奪い叫ぶ。


武装変換テールム!!」


 シャールカはハルバートに変化し、レナエルはそれを装備する。


「ブルータスどもめ!!それは陛下だけのお力なのに!!よくも陛下の力を奪ってくれたな!万死に値する!」


「羨ましいかぁ!所詮は臣下止まりのくせになぁ!しゃあああああ!!」


 ヒメーナはレイピアに光を纏わせて鋭い突きを繰り出す。ラエーニャはそれをスキルのシールドで防ごうとしたが、一撃で砕かれてしまう。


「紛い物の力のくせに!スキル無効がついているのですか!!」


「当たり前だろう!これはアラタからわたくしが授かった愛の力なのだからぁ!!やああああああああああああ!!」


 そして体勢が崩れたラエーニャに向かってヒメーナは連続で突きを放つ。ラエーニャはそれを紙一重で躱していく。だが。


「おっと!そのまま殺させる気はありんせんよ!!王の力よ!!ダモクレスに打ち勝たんとする意思を示せ!!王賜技ロイヤルスキル!王嵐刃破!!」


 レナエルはハルバートを横薙ぎに振るう。すると金色の光の刃が放たれて、組み合うラエーニャとヒメーナを飲み込もうとした。


「邪魔をするなレナエル!!」


「アラタとラエーニャはわっちのものじゃ!!」


 ヒメーナは迫りくる刃をレイピアを翳して防ぐ。だがその後ろにいたラエーニャは光の刃の攻撃をもろに食らった。


「ああああああぁぁああ!!ぐぅうう!」


 ラエーニャは自身の持つオレンジ色のシールドである程度ダメージを軽減することに成功していた。だがそれでもダメージは深く、彼女は地面に膝をついた。



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