第38話 君を使いこなす
湖ではラエーニャと龍となった美作が激しい戦闘を繰り広げている。その光景を祢々はどこか呆れたような顔で見ていた。
「このままラエーニャにまかせておけば大丈夫そうだね…あはは…」
「残念ながらそうはいかないんだよね。ほら周りを見てごらん」
いつの間にか俺たちの周囲に召喚陣が現れて、そこから大量のモンスターが出てきて俺たちを包囲した。
「まだ出てくるの?美作は本当にしつこいね」
祢々は心底いやそうな顔をしている。すでに疲労はピークに達しているし仕方がないと思う。
「それにあの龍はダンジョンからフルバックアップを受けてる。ダンジョンの内部だとラエーニャの火力じゃ殺しきれないと思う。だから俺がやるんだ」
ラエーニャも俺が把握していない奥の手を隠し持っているだろうけど、基本的に戦闘に対してやる気のある女ではない。美作相手にわざわざ本気を出すほど酔狂でもない。むしろ俺と祢々にここで活躍してもらいたいと彼女は願っているだろう。どうせ今回の騒ぎはあの女の仕込みに決まってるしな。
「アラタには何か手があるんだね。あたしに手伝えることある?」
「…先に謝っておくね。ごめんね、祢々」
俺は祢々を後ろから抱きしめる。
「あっ…アラタ…どうしたの?なんで謝るの?」
祢々は頬を赤く染めて俺に顔を向ける。恥ずかしいのだろう。瞳が少し濡れているように見えた。
「結局君を使うしかなかった俺を許してくれ。でも俺はそれでも美作に勝ちたいんだ。頼むよ祢々。君の力で俺をあいつに勝たせてくれ」
「あたしを使いたいの?ねぇ。ねぇアラタ?それであいつに勝てるの?あたしを使ったら、アラタはあいつに勝てるの?」
「ああ、絶対に勝つよ。君の為に勝つ」
俺は祢々の顎に手を添えて少し上向きにさせる。祢々の瞳から今にも涙が零れそうなくらい濡れている。だけど彼女は俺から決して目を逸らさなかった。祢々の手が俺の頬を撫でる。
「…っ…ぁ…うん…いいよ。アラタの為なら構わないから」
微かに笑みを浮かべながら、祢々は目を瞑った。
「祢々。俺にすべてを捧げろ」
「アラタ!…っあ…ん…んん!」
そして俺は彼女の唇を奪う。最初はただ触れるだけ。彼女の頬を撫でて慈しみ可愛がる。
「…ん…ちゅぷ…ア…ラタ…こんなの…こんなに…!んっ…ああ!」
俺は彼女の口の中に舌を入れて責める。最初は祢々も俺になすがままにされていた。だけどだんだん彼女も俺の舌に自分の舌を絡ませてくる。
「ちゅ…ん…ぁ…!んん!あっぷはっ…ああっ!」
祢々の口から少し声が漏れた。そして彼女の体が桜色の光に包まれた。
「王の名の下に勅令を発布する!
俺の周囲に祢々のステータスプレートが現れる。そしてその情報がすばやく書き換わっていく。
斯吹 祢々
Shibuki Nene
LV20
Subject RANK 9th (New!)
JOB Minster (New!)
祢々のステータスに新しくジョブとして
「我が大臣に命ずる!汝は万軍を滅ぼす剣となれ!
祢々の体は光となって、徐々に剣の形に変化していく。これが俺の奥の手。自分に忠誠を誓った者を自分の武装に変換する力。他者を道具とする支配の力。そして俺の手に一振りの桜色の剣が握られた。
「鞘に包まれたままか。ごめんね。祢々は本当は戦いたくないんだよね」
祢々が変化した剣の形は少し独特の形状だった。1mほどの刀身を持つ大剣なのだが、刃の部分は鞘に収まったままだった。そして柄頭からは赤い糸が伸びていて、それは俺の小指に絡みついていたのだ。それは暖かくなによりも優しく感じられた。
「可愛らしい糸だね。だけど俺は君を使いこなして勝たなきゃいけないんだ!サブジェクト!!」
俺は桜色の剣を両手で空に向かって掲げる。剣の周囲に桜色の光の粒子が現れて渦を巻き始める。そしてそれは俺の周囲にも展開を始める。
「テールム解放!!うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
俺は剣を周囲のモンスターに向かって振るう。剣から伸びた桜色の渦はモンスターを巻き込んでそのすべてを粉々に切り裂いた。モンスターはすべて息絶えて消え去る。そしてあたりに散った桜色の光の粒がまるで桜吹雪の様に見えた。
「まるで春の嵐とでも言えばいいのかな。すごく綺麗だ」
そして俺は剣を大上段に構えて、狙いを湖にいる龍にセットする。
「ラエーニャ!!時間稼ぎご苦労!!」
ラエーニャは龍の首を蹴り飛ばしてから煙の様に姿を消して、俺の傍に現れる。
「陛下!なんと麗しいお姿なのでしょう!剣となった祢々はやはりあなたの雄々しさをよく引き立ててくれました!!嗚呼!素敵です!」
この女の言ってることには一切共感できない。ぶっちゃけセンスが壊滅的だと思う。だけどこいつに今は構っていられない。美作だった龍は湖から俺を憎悪を込めて睨みつけていた。大きく口を開けて禍々しい光を溜め始める。
「ガアアアアア!ヤッパリジャナイカ!ヤッパリオマエハ祢々ヲ道具ニシタ許セナイ!オマエハ自分以外ヲ道具ニスル!テキダ!人類ノテキ!テキ!ネネ!ネネヲタスケル!祢々ガ俺ヲオ前死ネバ好キニナルカラ殺サセテ戴ク所存ナレバ祢々が好キデシタ一年生ノ時saisyono演習デ怪我ヲシタオレヲヤサシクシテクレタ祢々ガスキデシタ!ツキアッテ欲シイカラAランクwoメザシ祢々ヲ戦争カラ守レル男ニナッテテツキアッテ俺ダケニトクベツニヤサシクシテ笑ッテ欲シカッタダケナノニィィィィ丁嵐新サエイナケレバァアアアアアアアア!!」
そして龍は俺に向かってブレスのビームを放った。
「そうかお前は恋に狂っていたのか。ならばせめて恋した女の力で葬ってやろう。テールム!!」
俺は桜色の剣を振るった。剣から放たれた桜色の光の渦はブレスを飲み込み、そのすべてを散り散りに分解した。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!ァァァァ…ァ…ッ…」
そして光の渦は龍を飲み込み、塵一つ残さずにこの世から消滅させてしまう。そのまま光の渦は後ろに進んでいき、40階層の外壁をぶち破り、外界の空高くに向かって飛んで行って消え去った。ダンジョンの壁はすぐに塞がれてしまったが、おそらく外の人間の目にも今の光は見られてしまっただろう。軍事衛星辺りには間違いなく観測されているはずだ。
「大した威力ですね。あれなら成層圏にさえ届いてそうですね。やはり祢々は期待通りの性能がありました。やはりいい拾い物だったでしょう陛下」
ラエーニャは俺に向かってドヤ顔を浮かべている。このサイコ女は自分と俺以外の人間を悉く駒の如く扱っているようだ。祢々には多少は思い入れはあるだろうけど、それでも本質は道具扱い。それに対して俺は嫌悪が湧く気持ちを止められない。
「テールム解除…ふぅ…」
力を使って疲れた俺は地面に座り込んで、祢々の武装変換を解除する。剣は光ったと思った次の瞬間には元の祢々に戻っていた。
「あっ…あたし戻っちゃったんだ…」
祢々は上気した顔で自分の両手を見詰めていた。そして両手で自分の体を抱きしめて身を捩っている。
「…あれ…何で…熱い…んん…あはっ…くぅ…ぁ」
「ほらね。言った通りでしょう?王に仕えることは快楽そのものなのですよ。このように!」
ラエーニャはニヤニヤと笑いながら祢々に近づいて、その胸を優しく揉み撫でる。
「ああんっ!やめて!ラエーニャ!触らないでぇ!!んんっ!!…ぁ…」
「陛下の
「っう…あんっ…ラエーニャ…たしかにすごく気持ちいいよ…でも…こんなの…」
「抵抗しないでください。祢々。それは別に罪ではない。あなたは王に選ばれたのです。それは恥ではない、むしろ誇りです」
「ううっ…でもぉ!でもぅ!こんなのぉ!!ああっ」
祢々は腰を抜かして、その場にへたり込んでしまった。慣れない性的快感のせいで涙をポロポロ流しているのが痛々しかった。
「やめろラエーニャ」
「ですが陛下。ここで一つ祢々には教育をしておかないといけません。この子は陛下と対等になりたいだのと宣うような身の程知らずですからね」
「良いじゃないか別に。俺はこの子が隣にいてくれたらきっと幸せだと思えるよ」
全てを思い出したわけじゃない。だけどラエーニャは俺の第一の臣下だいうことは体が理解している。こいつは俺という主を絶対の存在だと規定している狂信者だ。早く記憶を取り戻さないとまずそうだ。
「陛下。そのようなことを仰られては困ります。陛下に並ぶものなどこの世界にあってはならないのですから」
「そんなのお前の勝手な思い込みだ。俺には関係ないよ。とにかくやめろ。いいね?」
「……かしこまりました。今日のところはやめておきます」
一応命令には従ってくれる。だけどラエーニャの顔は渋い。不機嫌さを隠す気はさらさらないようだ。
「…はぁ…何とかなったのに…これから先の事の方が頭が痛そうだ…」
力を使い過ぎたせいで、もう座っていることさえできないくらい疲れ切っていた。俺はその場で横になってしまう。
「アラタ!?大丈夫!?」
祢々が心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。俺は祢々の頬を一撫でして目を瞑った。
「うん。大丈夫…とりあえず寝かせてくれ…お休みぃ…」
取り合えず今は何も考えたくなかった。そして俺は深い眠りについたのだった。
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