第5話 さりげなくデートの約束を取り付けるのが、隊長ってもんですよ!

「ふーん。あんたってけっこう数値高いのね」


 斯吹は俺の強化前のステータスを見て、どこか感心したような様子だった。


丁嵐 新

ATARASHI Arata

Subject RANK  --th(*当該人物はサブジェクトランクの測定対象外。詳しくは『シャドーキャビネット』へお問い合わせください)

LV20

SP 200/200


ステータス(強化前)


攻撃力    62

防御力    64

敏捷力    61

感応力    50


保有スキル(異能系)


『武装変換』  F-


保有スキル(非異能系)


『部隊指揮』  A-

『部隊経営』  A+

『戦術構築』  B+

『軍隊格闘術』 AA-

『家事全般』  B-


総合ランク --(当該人物のサブジェクトランクが測定不可能であるため、強化前ステータスの総合ランクは測定不可能)


 俺個人は自分の強化前の素のステータスは悪いもんではないと思ってる。だけど…。


ステータス(強化後)


攻撃力   38

防御力   42

敏捷力   40

感応力   41


保有スキル(異能系・ステータスシステム提供スキル)


『罠感知』        C

『レーダー』       C

『鑑定』         B-

『コモンスペル』     D-

『ダメージ軽減シールド』 C+

『神経反応速度増加』   D-

(省略)


総合ランク F-


 俺の強化後のステータスは雑魚の一言である。さらに言えば保有スキルにもほぼほぼ強力な攻撃系スキルがない。


「ねえ?なんであたしよりもレベル高いのに、SPが低いの?」


「なんでだがわからないけど、俺はステータスシステムと相性悪くてね。SPがレベルアップしても他の人たちと違って10しか増加しないんだ。それだけじゃなくて、レベルアップで標準的にオープンになるはずの攻撃系スキルがほぼ取得できないんだ」


 SPがほぼない俺はステータスやスキルを強化できない。だからまわりからFランクの雑魚扱いされている。持ち前の異能もはっきり言って弱いしね。


「運営に嫌わてるの?可哀そう…それにサブジェクトランクって奴が未表示だね。確かこれが高いと補正がかかるんでしょ?ラエーニャがサブジェクトランクだけはあげなさいって言ってたよ」


 斯吹は俺の事をなんか本気で憐れんでるようだ。


「たしかにサブジェクトランクが上がるとステータスに強い上昇がかかるみたいだね。だけど俺はどうも対象外らしいんだよね。何故かはわからないけど」

 

 このサブジェクトランクはステータスシステム最大の謎の一つだ。このランクはどうもステータスシステムを利用するすべてのものの順位を示しているらしい。だがこの順位を決定する基準がまったくわかっていないのだ。毎日のように更新がかかっており、3桁の順位に行ったと思ったら、次の日には5桁まで下がるなんていうことも普通に起きている。前に組んでいた美作なんかは毎日のように順位が乱高下していた。観察していたのだが、順位変動の条件はわからずじまいだった。


「ねぇねぇ。あんたはこのステータスでちゃんと戦えるの?あたし不安よりも、あんたがダンジョンで死なないかが心配なんだけど?」


「一応ダンジョンを踏破するのに必要なスキルは取ってあるから足手まといにはならないよ。言ったろ?ラエーニャ先生が俺を信頼してるんだ。だから安心してくれ」


「そう?でも危ないって思ったら言ってね。あんたはラエーニャのお気に入りだから、ちゃんと守ってあげる」


 ふふんと鼻を鳴らしてドヤ笑顔を浮かべる斯吹は確かに可愛かった。こういう可愛い女の子とパーティーを組めるのは青春的にはありなんだろうなって思う。


「ははは。まあその時は頼むよ。じゃあ行こうか。着替えが終わったら、ダンジョンのゲート前に来てね」


 俺は席から立ち上がりながらそう言った。だけど斯吹がきょとんと首を傾げている。 


「え?着替え?」


「おい…。まさかそのままの恰好で潜る気か?」


「駄目なの?この制服ってけっこう丈夫なんでしょ?」


 斯吹はブレザーのままでここに来ていた。


「まさかと思うけど、アイテムボックスに学校から支給されてる迷彩服とか防具とかしまってないのか?」


「アイテムボックス…?何それ…?」


「うそだろ?!まじかよ!?じゃあ武器とか防具とか持ってきてないのか?!」


 ステータスシステムは異空間型のアイテムボックスを標準で提供している。予備の装備や食料なんかをそこに保存しておけるのだ。あまり容量は大きくないが、それでも重いリュックを持って出歩かないですむのですごく重宝している。


「殴ればいいじゃない」


「女の子とは思えないほど野蛮な答えがきちゃった!?」


 俺は思わず頭を抱えてしまった。こんな奴初めてだ。ステータスシステムからはいわゆるスキルセットとしての『ジョブ』とかがあって、その中には拳闘士なんていうものもある。だけど当然最近までステータスシステムを放置していたこの子にはそんなスキルを取っていない。


「あんたむしろ着替えるの?他の皆もブレザーのまま潜ってるよね?」


「たしかに実習での装備に規定はない。好きな格好で潜ってもいい。だから学生パーティーは制服のままで潜ったりするケースは多いね。っていうか皆そうしてる。でも俺は軍用装備で潜ってる。いざって時の事を考えると制服で潜るのはちょっと怖いからね」


 防御スキルが充実している人間ならば、わざわざアーマーなんかを着る必要はほぼないのが現実だ。重いし蒸れるので鎧は不人気である。


「そう?あたし嫌なんだけどなぁ迷彩服とベストって。可愛くないし、なんかちょっと重いし」


「でも効率はいいんだけどね。ふぅ…まあいいか今日はそこまで深く潜らないし、装備そのもので優劣がつくところまではいかないだろう。じゃあ先にゲートの前に行っててよ。俺は着替えるからね」


「ん。わかった」


 本当にわかってんのかよくわからない返事で斯吹は部屋から出て行った。俺も部屋から出て更衣室へと向かった。



 すぐに着替えてダンジョンのゲートの前にやって来た。ゲートは謎の金属製の大きな扉でできていて、黒いドームの周囲のあちらこちらに存在している。


「お待たせ」


 今の俺の恰好は迷彩服にタクティカルベスト、それにヘルメットと手や足を守るボディアーマーを装着している。それとアサルトライフルにその他の武装もベストに収納している。


「ねぇねぇ。こういうときは今着たところって言えばいいのかな?それとも女の子待たせるなんてひどいって言って帰っちゃえばいいのかな?」


 悪戯っ子みたいな顔した斯吹がどこか俺を揶揄うようにそう言った。


「ごめーん。許してー。お詫びにスイーツはおごるからさ!HAHAHA!」


「男の子って女の子に甘いモノ奢ればなんでも許してもらえるって思ってるのかな?ふふふ」


 斯吹は俺のふざけた回答に満足したようで、微かに楽し気な笑みを浮かべてくれた。


「俺は甘いモノ好きだよ。タピオカとかな。たまにすごく飲みたくなる」


「あたしタピオカ食べたことないんだよね。あれって高くない?ただの紅茶のくせに1000円とか吹っ掛け過ぎじゃない?」


「確かにね。そうだ。今日の素材報酬がそこそこ稼げたら、どうせなら飲みに行ってみる?」


「うーん?あんたがダンジョンで足引っ張らなかったら行ってもいいよ」


「それはよかった。じゃあ行きますか!」


 そして俺と斯吹はゲートを開いて中へと突入した。

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