第6話 ダンジョンの醍醐味!モンスターハウスへご案内!!

 お台場ダンジョンの1階から20階まではまるで洞窟のような構造となっている。ある意味人々が想像するダンジョン像そのものとも言える。だが通路の幅は5mくらいあるし、高さも5mくらいあって結構高い。全体的に薄暗く見通しが悪いが、隣にいる斯吹の姿が見えなくなるほどではない。


「あたし久しぶりに来たから道順覚えてないんだけど、丁嵐はちゃんと覚えてるの?」


 俺たちは突入前にステータスシステム上でパーティー登録を行っていた。これを行うことでダンジョン内でお互いの位置が把握でき、念話での秘匿通信も可能。さらに共用のアイテムボックスなんかが使えるようになるのだ。他にも特典は沢山ある。


「道順覚える意味はないよ。お台場ダンジョンの場合、24時間で内部構造にはリセットがかかるんだ。毎日通路の構造は変化してる。変わらないのはモンスターやトラップの種類。あとは宝箱のアイテムくらい」


「へぇ毎日変わるのね。中に住んでるモンスターたちは大変だね。家の中が毎日変わったらあたしだったら頭おかしくなっちゃうかも…」


 深夜0時にリセットになるのだが、そのタイミングでダンジョン内にいるといきなり周りの風景が変わるからわかっていても混乱するそうだ。


「それに関しては同感だね。でもモンスターにそんな知恵はあるのかな…紫吹さんストップ」


 俺は十字路の手前で止まり、斯吹の前に手を翳して停止の合図を送る。斯吹は俺の指示を素直に聞いて足を止める。


「右側の通路にゴブリンが三体いる」


「ん?そうなんだ。それってスキルって奴?」


「そうだね。感知スキル。後で取っておくといいよ。ダンジョンでは便利だから」


「へぇ。わかった。あとでとっとくね」


 俺は通路の壁に背をつけてゴブリンたちの様子を伺う。薄緑のゴブリンたちはまだ俺たちのことに気がついていなかった。


「んじゃまあ。雑魚だしとっとと片しちゃいますかね!」


「あっ!あたしにまかせて!よっと!」


「あっ!ちょっと!?」


 斯吹は俺の制止を振り切って、ゴブリンたちに向かって突撃していった。俺も慌てて彼女の後ろを追いかけたのだが。それは一瞬だった。


「やああああああああああああああああ!!!」


『『『Piygy!!?』』』


 雄たけびを上げる斯吹の体の周囲に桜色をした謎の光のオーラが現れた。それを拳に何重にも纏わせて、斯吹は一番近くにいたゴブリンの顔を思い切りぶん殴った。


『gybii!!』


 殴られたゴブリンは一瞬だけ変な泣き声を上げたが、すぐにその声は収まった。なぜならば頭の上が一瞬にして蒸発したからだ。そのままゴブリンは地面に倒れ込んで光の粒子になって消え去った。そしてそのままさらに足に謎のオーラを纏わせた斯吹は近くのゴブリンの腹を思い切り蹴飛ばす。今度は上半身そのものが蒸発して、ゴブリンの体はさらさらと消え去る。そして残ったゴブリンは斯吹の手のひらから放たれたオーラの波動に飲み込まれて塵一つ残さずに蒸発した。


「どう?あたし超強いでしょ?」


 いくら一階の雑魚敵とはいえ、ここまで圧倒的な戦闘力を見せつけてくるとは驚きだった。


「…うん。そうだね…はは。めちゃめちゃ強いね…」


 ドヤ顔を決める斯吹は可愛いかも知れない。だけど同時に頭を抱えたくなるような展開でもあった。


「斯吹さん。丁度いいからこのままダンジョンの怖さを学ぼうか。実は君は気づいてないと思うんだけど、足元見てみな」


「…なにこれ?魔法陣ってやつ?」


 俺たちの足元には魔法陣が現れていた。ダンジョン特有のトラップの一つ。転送フィールドだ。行く先はランダムだが、大抵の場合。


「多分このままモンスターハウスに飛ばされると思うから。覚悟決めておいてね」


「え?なにそれ?!やばいんじゃないのそれ?!」


「だから言ったんよ。止まれって。まあいい勉強になったんじゃない?慎重さが何より大事だってね!さあ楽しい楽しいモンスターハウスへご案内だ!!」


 そして俺たちは何処かの大広間へと転送された。周りは薄暗いが、モンスターの呻き声が沢山響いている。感知スキルによると大小合わせて50体のモンスターがこの部屋にいた。


「…これは…ちょっと…怖いかな…アハハ…」


 斯吹の声が若干震えていた。俺は斯吹の少し震える手を握る。


「あっ…」 


 きょとんとした顔で斯吹は俺の顔を見ている。俺はできるだけ優しい笑みを浮かべるように心がけた。


「大丈夫だよ紫吹さん。さっきあれだけやれたんならこれくらい大丈夫さ。俺もいるしね」


 俺の言葉に少しは安心したのか、斯吹の手の震えは止まった。


「…うん…ありがとう…でもそろそろ放して…」


 俺は言われた通りに手を放す。俺たちはモンスター軍団が展開する方向に体を向けた。


「斯吹さんは広域攻撃は可能?」


「できるよ。さっきのゴブリンくらいの敵なら一撃で殺せる」


「じゃあそれを頼む。俺はあの奥にいる中ボスの足止めをする」


「中ボス…?…あのオークのこと?」


 ゴブリンとスライムの群れの奥に、一回り大きな体のオークがいた。その手には巨大な斧が握られている。


「そっ。一対一ならともかくまだダンジョン慣れしてない斯吹さんにまかせるのは、ちょっと怖い。あのオークは強力な攻撃スキルを持ってる。慣れてないうちは相手にしない方がいい」


「…あたしのせいでごめん。まかせてもいい?」


「任された。では突撃!!」


 俺はモンスター軍団に向かって突撃する。ゴブリンの合間を駆け抜けて思い切りジャンプする。


「やああああああああああああ!!ふっとべぇええええええええええええ!!」


 そして俺がジャンプしている間、斯吹は桜色のオーラの波動を地面に沿って、まるで津波のように走らせた。


『Pigyaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!』


 桜色の波はモンスター軍団の前衛の20体ほどを飲み込んで一瞬で蒸発させた。そして多少威力は減衰したものの後衛にも多少のダメージを与えたのだ。


「まじでチートだな…ぶっちゃけ俺いらない子な気が…。あれをぶっぱぶっぱしてれば勝てるんじゃ…?」


 そして残ったモンスター軍団はフラフラになりながらも、斯吹に迫っていく。さすがに残った数が多いように見えたので、俺はライフルをそいつらに向けて引き金を弾いた。狙いは頭と心臓。このアサルトライフルは速射性に優れるモデルだ。そして同時に『弾速加速』のスキルで威力を強化している。


『『『guyaaaaaaaaaaa!!!』』』


 俺の放った銃弾はいずれもモンスターの頭や心臓などの急所を貫いた。撃たれたモンスターはその場で倒れ込みそのまま光の塵になって消え去った。だいたいこの射撃で20体ほど仕留められたかな。


「ふぇ…やるなぁ…他の男とは違うのかな……おっとモンスター?!ぼーっとしてた!やああああ!!」


 斯吹は俺の事をどこか感心したような目で見ていた。だがすぐに肉薄してきたモンスター達を確認して、真剣な眼差しとなり拳を構える。そして飛び掛かってくるモンスター達を次々と殴り殺していった。まあ既に数は大分減らしたので、一人でも安全に対処できるだろう。だから残る問題は中ボスさんのみである。俺はオークの目の前に着地する。


『gyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!』


 オークは剣を大上段に構えている。その目には怒りのような色が見えたような気がした。


「あん?いっちょ前にお仲間が殺されて、キレてるんですか?はは!モンスターのくせに生意気なんだよ。三枚におろしてやるよ豚野郎」


 そしてオークは俺に向かって剣を振り下ろしてきた。


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