第7話 暫定成績ナンバー1おめでとう!
その時俺の感知スキルが、オークが何らかの異能を使ったことを感知した。俺は横にステップして剣を避けた。剣はそのまま地面に向かって振り下ろされて空振りした。だが。
『pygaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!』
雄たけびと共に剣筋の軌道が突然変わった。軌道は直角に曲がるというありえない挙動を示して、俺の胴体を真っ二つにしようと迫る。これは『軌道変更』というスキルらしい。なぜかモンスター達はステータスシステムが提供する異能大系である『スキル』を使用できる。もしかしたらモンスターやダンジョンとステータスシステムは何らかの関連があるのかもしれない。だが今はそんなことどうでもいい。剣の対処をしないといけない。俺はすぐに太もものホルスターから一丁のリボルバーを取りだす。50口径の巨大なマグナム銃。でもあんまり使う人のいない趣味全部振り系武器の一つだ。俺はその銃口を剣の腹に向けて引き金を弾く。
『piygi?!』
剣の腹を撃たれた衝撃でオークは剣を取り落としてしまった。弾速加速スキルに大口径の銃弾の組み合わせならば、剣を手から放すくらいの衝撃は簡単に生み出せる。俺は地面に落ちたオークの剣を思い切り蹴っ飛ばしてやる。オークは吹っ飛んでいった剣を拾いに行こうとして俺に背中を見せた。
「だからモンスターは駄目なんだよ!単純なロジックで動いてるからすぐにスキを見せちまう!おらぁ!!!」
俺はベストからナイフを抜いて、オークの背中にぶっ刺す。それ自体は大したダメージにならなかったようで、呻き声さえ出さなかった。だけど俺のスキルの攻撃はここからが真価を発揮するのだ。
「ぶっとべ!!」
俺がそう命じると、オークの背中に刺さったナイフが爆発した。
『gyaaaaaaaa!!aaaaaaaaaaa!!!』
本来モンスターには手榴弾などの爆発は効果が薄い。彼らが張る防御シールドを突破できるだけの威力を提供できないからだ。だけど俺のナイフの爆発は違う。すでに体にめり込んでいるのだ。ナイフの爆発は体の内部にまで及んでいる。オークは体の内側から爆風でずたずたにされたのだ。背中の肉が大きく削がれたのを見届けて、俺はその背中に向かってひたすらアサルトライフルで鉛弾をぶち込み続ける。
『gya!gyaaa!gyaaaaaaaaaaaa!!!AAAA…aa…a』
そしてダメージが致死量に至ったのだろう。オークは地面に倒れ込んで、そのまま消え去ってしまった。
「ふぅ…あんがいあっけなかったな。斯吹さんの方はどうかな…?」
俺は斯吹の方へ振り向いた。すると最後の一体のゴブリンの頭にハイキックをぶち込んでいるところが見えた。その時一瞬だけど白い三角が見えました。今度からスパッツを履くように指導しておこうと思った。そしてゴブリンの首が宙を舞っておれの足元の方へところころと転がってきた。そしてゴブリンの頭も胴体も光の塵になって消え去ったのだ。
「ふぅ。アラタ!あたし全部倒したよ!」
「おう。みたいだね。こっちも中ボス倒したぞ。斯吹さん、いえーい!」
「アラタ、いえーい!」
俺たちは喜びのハイタッチを決める。被害もなく敵軍団を倒せた。これは喜ばしい成果だ。
「ねぇねぇ。さっきのナイフの爆発は何?あれもスキル?」
「あれは俺の固有の異能。『武装変換』っていうんだ。色んな道具をナイフや剣や鎧とかに変化させる異能」
「じゃああのナイフはもとは別の道具なのね?」
「そう。俺の異能は変化させた道具の性質をある程度変化後のナイフや剣に付与することが出来るんだ。さっきのナイフは元は手榴弾なんだ。だから爆発の性質をナイフに持たせたんだ。モンスターには手榴弾の爆風は効果が薄い。だけど体の内側なら別。刺さっていれば大ダメージを与えられる」
「へぇすごい異能ね。便利そうだし」
「残念だけどそうでもないんだ。ダンジョンの奥底に行くとそもそもナイフが刺さらないなんて言う敵がゴロゴロといる。爆発を体内まで通せても瞬時に回復させちゃう奴もいる。俺の異能が通用するのは下層だけだね。それ以上はぶっちゃけ厳しいかな」
「ふーん。そうなの?…でもおもしろい力だと思うけどなぁ…それが通用しないって…ダンジョンって怖い所なんだね」
不思議なことに斯吹はダンジョンへの認識を改めてくれたようだ。わりと根は素直らしい。そして俺たちは広間から脱出して先を急いだ。俺たちが転送されたのは同じ階ではなかった。ステータスプレートにはダンジョンのマップを全ユーザーで共有する機能がある。それによる現在位置表示では、俺たちはなんと19階にいることがわかった。
「運がいいぞ、斯吹さん!俺たちは19階に飛ばされたみたいだ!」
「それの何がいいの?モンスターがちょっと強くなってめんどくさいんだけど!」
俺たちは植物型のモンスターを倒し、ドロップアイテムの花びらや葉っぱを集めながら先へと向かっていた。回収したアイテムはパーティー共用アイテムボックスに放り込んだ。
「ダンジョンにおける小隊演習にはいろいろな成績判定基準があるんだ!そのうちの一つが1階から20階までのタイムアタックなんだ!俺たちは偶発的とは言え転送の仕組みをうまく利用できた!このままここを抜ければ結構いいタイムで抜けられるはずだ!」
「ほぇ?じゃあもしかしてあたしたち一番目指せるの?」
「おうよ。かなりいい線いってるはずだ!ほら見ろ!20階への階段だ!!」
そして俺たちは階段を一気に駆け上がる。そして20階へと辿り着いた。そこには穏やかな草原が広がっていた。そして少し離れたところに湖と湖畔にいくつかのコテージが建っているのが見えた。
「わぁ…綺麗…」
「いい所でしょ!ここはいわゆるセーフエリアって奴だね」
大昔はここにダンジョンのサブコアがあったらしいんだけど、自衛隊が多大な犠牲を払って破壊してダンジョンの機能を大幅に低下させることに成功したんだ。それによってモンスターが地上に湧くのを阻止し首都は守られたわけだ。
「へぇ…こんなところがあるなんて…素敵…ふふふ…」
斯吹は何処か機嫌よさげだ。
「さて。タイムは幾らだったんだろうか?」
俺はポケットからストップウォッチを取りだしてタイムを確認してみる。なんと驚くことにここまでくるのにわずか20分と46秒しかかかっていなかった。
「やったぞ!超高記録だ!間違いなく一位だ!本来ならばここまでくるのに2時間以上はかかるはずなんだよ!偶発的とは言えどもモンスターハウスを通過してこのタイムなら十分誇れるぞ!」
俺たちはダンジョンに潜るときにボディカメラをつけることが義務付けられている。これは万が一の時の為の不正防止やダンジョンという密閉空間での犯罪への抑止力とするためだ。今回の記録は客観的に証明できるので、間違いなく成績も良くなるはずだ。
「じゃあ。あたしたち一番?」
「ああ!絶対一番だ!」
「…そうなんだ…。ああ…良かった…うん。本当に良かった…。すごく嬉しい…とってもうれしいよアラタ…ありがとうね…ふふ」
斯吹は柔らかに微笑んだ。その笑みには何の憂いもなかった。
「あたし、美作にずっと付き纏われてた。パーティーに入れって脅されてた。でも絶対に入ってやるもんかって意地張って最低な噂を流されてボッチに追い込まれて…諦めかけてた。でも…あたしでも出来たんだね…ちゃんとやれたんだ…ありがとう。あんたのおかげよ。アラタ」
「どういたしまして。でも俺も君がいたから、ここまで来れたよ。俺だってボッチだった。俺も君にお礼がいいたい。ありがとうね、斯吹さん」
「あんたって水臭いよね。あたしのことは祢々でいいよ。あんたなら祢々って呼んでも良いわ」
「そう?よろしくね。ネネちゃん!」
「もう!ちゃんづけはやめて!…ふふふ…アハハ…」
嫌がっているような、でも照れているだけのようなそんな不思議な笑い声。モンスター殴り殺すようなすごく強い子なのに、年相応の可愛らしさを感じた。そして俺たちは湖畔に向かって歩き出したのだった。
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