第28話 リーダーの責任

 転送ポートの前に陣取る美作みまさか凱斗かいとは剣を抜いて、それを大仰にかっこつけながら振った。すると彼の周囲に魔法陣が現れて、そこから鎧を着たゴーレムが現れた。


「くははは!どうだ丁嵐あたらしあらた!!おれはダンジョンの力を手に入れて王になっ…うおっ!?」


 俺は美作に向かってマグナム弾をぶち込む。それは残念ながら美作が振るった剣に阻まれたが、回る舌を止めることは出来た。今回の騒ぎはこいつのせいなのだろう。だがその真相は俺にはどうでもいいことだ。仲間を地上に帰すことが俺の責務である。


「お前の話など聞く耳もたん!悪事自慢はSNSにでも書き込んでイキっていればいい!千晶隊!!モンスターを排除しろ!祢々!モンスター相手に砲撃!突撃を支援しろ!俺は美作を殺す!」


『『『『イエス・サー!!』』』』


 祢々が桜色のオーラを美作とモンスターたちに向かって飛ばす。美作はシールドスキルでそれをガードしたが、モンスター達はその波に飲まれてダメージを受けて態勢を崩した。


「突貫!野郎ども!俺に続けええええ!!!!」


『『『『おおおおおおお!!』』』』


 千晶たちがゴーレムたちに向かって白兵戦を仕掛ける。数ではゴーレムたちが優勢だが、祢々のオーラ波のダメージが十分溜まっているので、千晶たちは有利に状況を進めて行った。


「ばかな!!レベル40以上のモンスターだぞ?!士官学校の生徒如きじゃ相手になるはずが?!」


「あほが!なんのために俺たちが軍隊やってんだと思ってんだ!?戦術と連携で強大な敵を打ち破るからこその軍人なんだよ!!ちぇすとーーー!!」


 俺は美作の懐に潜り込み、リボルバーの引き金を弾く。大層な鎧を着ていても、弾速加速スキルと大口径の銃弾があれば余裕で貫ける。だが美作も決して雑魚ではない。俺の放った銃弾はすべて切り裂かれて、逆にカウンターの剣技を放ってくる。


「AAランク秘剣技!龍邪光覇刃!!」


「だからスキルの剣技なんて効かねぇって言ってんだろうが!!この阿呆!!」


 大上段から俺を切り裂こうと振ってくる美作の剣を俺は十手で受け止める。十手の鉤で剣を絡めとって動きを封じる。


「くそ!?俺の剣が見えるのか?!」


「スキルは挙動がわかりやすいんだよ!目を瞑っててもうけとめられるっつーの!おら!これは勉強代だ!受け取れ!!痛みこそ教訓だ!!」


 俺は美作の手の甲にリボルバーを突き付けて、引き金を弾く。


『ぐあああああああああああああ!!!あああああああああ!!ぎゃああああああああああああああ!!!!』


 美作の両手はマグナム弾によって、手首から先が吹っ飛んでしまった。辺り一面に血がまき散らされ、美作は膝をついてのた打ち回る。


「総員!今のうちだ!!転送ポートに飛び込め!!ゴーゴーゴー!!」


「みんなこっち!!急いで!!」


 転送ポート周辺の安全を確保した祢々が生徒たちを呼び寄せる。次々と生徒たちは転送ポートに飛び込んで、ダンジョンから脱出していく。


「千晶!俺もサポートに入る!徐々に離脱しろ!!」


 俺は祢々の傍に駆け寄って、ゴーレムたちに向かってライフルをフルオートで撃ちまくる。同時に祢々もオーラ弾でゴーレムたちを狙撃しまくる。


「サンキュー!まずは左翼側から抜けてポートに飛び込め!」


 千晶は戦闘しながら班員たちに指示を飛ばす。モンスターの圧が薄い左翼側のメンバーから戦場を離脱していく。


「よしよし!アラタ!俺も抜ける!援護よろしく!!」


「任せろ!」


 俺は千晶がダメージを与えて弱らせてくれたゴーレムの急所を撃ち抜いて殺していく。千晶はその間に転送ポートに向かって駆けこんできた。


「サンキュー!お前たちも早く飛び込んで来いよ!!」


 千晶はポートに飛び込んで、ダンジョンから脱出した。そして残ったのは俺と祢々だけになった。


「祢々!俺たちも飛び込むぞ」


「うん!」 


 俺たちも転送ポートに飛び込もうとしたその瞬間、美作の方から恐ろしい金切り声の叫びが聞こえた。


「お前は逃がさない!!祢々は俺のモノなんだぁあああああああああ!!!がああああああああ!!」


 美作の両手が一瞬にして再生したのが見えた。そして剣を握って俺たちに向かって振るった。剣から禍々しい光が放たれる。それは俺たちを飲み込もうと迫ってくる。


「この程度の技であたしを倒せるなんて思わないで!!」


 祢々は迫ってくる光刃に向かって立ちはだかり、桜色のシールドを展開した。だけど直感でわかった。あれは明らかにヤバい。


「駄目だ祢々!!」


「きゃっ!?アラタ?!なんで?!」


 俺は祢々に覆いかぶさるように彼女を押し倒す。そして彼女の体をぎゅっと抱きしめて衝撃に供える。そして光刃は祢々の張ったシールドをいとも簡単に切り裂いてしまった。


「うそ?!あたしのシールドが?!きゃああああああああああ!!」


「うわああああああああああああああああ!!」


 そして光刃は俺の背中を掠めていく。そして後ろにあった転送ポートを飲み込んで一瞬で蒸発させてしまった。


「…嘘でしょ…何あれ…?転送ポートが蒸発しちゃった…?!」


 祢々は驚愕に顔を歪めている。だけど様子を見るに怪我の類はなさそうで、俺は安心した。だからだろう。俺は緊張を維持できなくなって、祢々の隣に倒れてしまった。体上手く動いてくれない。


「…あれ?血?…あたしのじゃない…アラタ?!アラタぁ!いや!いやぁああ!!」


 祢々が俺の体を揺らしていた。その目にははっきりと涙が浮いている。さっきから背中が凄く熱かった。それに両手や両足が何かで濡れていて気持ちわるい。軍人やってるから一応覚悟してきたつもりだったけど、自分が致命傷を喰らだなんて思ってなかった。自分の血が流れているのを見るって意外にビビりそうになる。


「アラタ!アラタ!大丈夫!?ねぇ!ねぇ!アラタ!返事をして!ねぇ!ねぇ!ってばぁ!アラタ!アラタぁあああ!!!」


 俺の顔を撫でながら祢々は悲しそうな顔で叫び続けている。だけど取り乱されたままだとまずい。おれの視界の端にこちらへと悠々と迫ってくる美作の姿が見えた。その顔は嗜虐的な笑みに歪んでいるのが見えた。


「祢々…逃げろ…」


「アラタ!?そんなこと言わないで!」

 

 そして美作がとうとう俺たちのそばまでやってきた。そして祢々の髪の毛を引っ張っり上げる。


「いやぁ!放して!アラタが!アラタがぁ!!」


「そいつはもう死ぬ!祢々!丁嵐はもう死ぬんだよ!だからお前は俺のモノだ!祢々!祢々!」


 美作は祢々を抱きよせようとするが、祢々は抵抗し続けていた。俺は必死に手を動かす。


「嫌!気持ち悪い!放して!いや!いやあ!!」


「丁嵐は弱いんだ!だから死ぬ!俺は強い!俺は王様になったんだ!!だからお前を俺のものにしてやる!祢々!喜んでくれ!お前は世界一強い男の女になれるんだ!」


 俺は太もものホルスターにあるナイフを抜き取る。


「いやよ!お前は強くなんかない!!全然強くなんかない!!アラタの方がずっと強い!お前はちっとも強くない!何の努力もなしに運よくAランクだっただけ!その力で周りを脅して従わせて全然かっこよくない!何より優しくない!全然優しくない!」


「祢々!俺はお前に何でも与えてやれるんだ!だって王様になったんだから!!」


「お前から何を貰ったって満足なんて出来ない!だってお前は弱い!本物の弱者だもん!そんな人に心震えるわけがない!あたしはもうアラタからいっぱいいっぱい貰ってる!だからお前から貰うものなんて何一つもない!放してぇ!!」


「祢々!生意気だぞ!もうそいつは死ぬ!だから死んでからいっぱい教えてやる!俺こそがお前の…ぐぅ…痛い…あれ…?」


 俺は美作の右足首にナイフを突き刺した。


「…どかーん…」


「なっ…死にぞこないがぁ!!」


 そしてナイフは爆発し、美作の右足が吹っ飛ぶ。バランスを崩した美作はその場に倒れ込む。解放された祢々はすぐに俺を抱き上げて、肩に背負い走り出す。


「アラタ!安心して!絶対に助ける!あたしがアラタを絶対に助けるから!だから!だから死なないで!アラタ!!!」


「ゴーレムども!逃がすなぁ!!殺せ!丁嵐を殺せぇえええええ!!」


 祢々の前にモンスターが立ちはだかるが、祢々は異能をフルに使って身体を強化して、群れの間を走り抜ける。


「やあああああああああああああああああああ!!ああああああああああああああ!!!」


 周囲にオーラの波を展開させながら、ダンジョンの通路を走る。擦れ違ったモンスターは祢々の桜色のオーラに飲み込まれて蒸発していく。そして近くにあった階段を駆け抜けて31階に昇り、美作の追撃を振り切ったのだ。




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