第27話 脱出の指揮

 友軍は円形の広間にいた。俺達の小隊が部屋に入って来た時に丁度、モンスターの群れが桜色のオーラに飲み込まれるのが見えた。


「いやぁああああああああああああああ!!!」


 祢々が迫ってくるモンスター達に向かってひたすら光の波動をぶち込み続けているのがみえた。他の隊員たちはモンスターの群れの後ろにいるローブを被り杖を持った魔導士のようなモンスターを狙って攻撃を仕掛けていた。魔導士モンスター達の近くには召喚陣があり、そこからひたすらモンスターが湧いて出ているのが見えた。部屋の中はモンスターでひしめいていた。普通の冒険者ならきっと生き延びられなかっただろうと思えるモンスターの大軍だ。


「やばい!総員傾注!!全員であの魔導士タイプを叩く!桜色のオーラに続いて突撃しろ!!」


『『『『『了解!!』』』』』


 この広い部屋ではああいう召喚タイプのモンスターはやばい。ひたすら物量戦を強いられれば必ずガス欠になる。祢々もよく見ると額に汗を浮かべている。疲労がたまっているように見えた。俺と千晶たちは祢々のオーラの波動攻撃に続いて、突撃を開始する。


「やあああ!!え?アラタ?!!」


「祢々!あとは俺たちの班にまかせろ!!」


 薙ぎ払われるモンスター達の間を掻い潜り、俺たちの小隊は魔導士タイプの懐に飛び込む。そして俺たちは白兵戦を仕掛ける。


『gyaaaa!!』


「うるせえんだよ!杖振る以外できない能無しのくせに!!」


 俺は魔導士モンスターの胸にマグナムの銃口を突き付けて引き金を弾く。それでモンスターは一発で息絶えてくれた。千晶たちも魔導士モンスターを次々に葬り去り、召喚が可能なモンスターは一体もいなくなった。


「この部屋は敵の数が多い!不利だ!!すぐに離脱する!!俺たちの小隊が安全地帯までエスコートする!!ついてこい!!」


 残されたモンスターへ牽制しながら、祢々たちの小隊に向かって俺は叫んだ。彼らは頷いて俺たちの指示に従い、この広間からの離脱を開始する。俺はライフルの引き金を弾きながら、部屋の出入り口を守る。祢々の班の隊員たちと俺の小隊のメンバーたちが通路に飛び込んで部屋から脱出していく。


「アラタ!あたしで最後!!」


 祢々がモンスター達にオーラ弾をぶち込みながら通路に駆けこんだ。これで全員が抜けた。近くで通路を守っていた千晶を呼び寄せる。


「おっけー!千晶!通路を塞ぐ!!」


「了解!」


 千晶も通路に飛び込んできたので、俺は広間の出入り口に沢山のナイフを指し、その場から離れる。そして安全距離まで離れてから、指を弾いてナイフを爆発させた。轟音が響き、通路のレンガが崩れ去る。そして広間と通路の間が土とレンガで塞がれたのだ。


「…何とか離脱出来たな…ふぅ…祢々、怪我はない?」


「大丈夫…ちょっと疲れただけ…助けてくれてありがとう…ほんと危なかった…」


 モンスターの追撃もなく、周囲に敵の影もないので生徒たちはみんな休憩をしていた。皆口々に俺たちに礼を言っている。そして祢々は通路の壁に背中を預けて座って息を整えていた。祢々の班のメンバーはかなり疲労している。この先なんども戦闘させるのは難しそうなくらいだ。


「しっかし変だな。アラタ。あの召喚魔導士タイプは60階以降に出てくるモンスターのはずだ。この20階から30階までの間では目撃例はないはずなんだよ。なあ斯吹。何かのトラップか何かを踏んだりしたのか?」


「ううん。そんなことないよ。トラップにはちゃんと警戒してた。さっきの広間はあたしたちの班の進軍ルートだったの。あそこに入った時からあの召喚魔導士モンスターはいたんだ」


 祢々の顔には予期せぬ出来事に遭遇した時に出てくる戸惑いがあった。他の生徒たちも皆同じ顔をしている。実戦だから何が起きてもおかしくはないけど、ダンジョンのモンスター分布が変わっているのはどうにもキナ臭い。


「なにか不測の事態が起きてるのかも知れないな。教官たちに報告を。ステータスオープン。通信を開け」


 俺はステータスウィンドウを開き、教官へと回線を開こうとした。だがなぜか教官へと繋がらない。教官たちは20階と40階のセーフゾーンにそれぞれ作戦指揮本部を設置しているはずなのだ。


「なんでつながらないんだ?千晶?そっちは?」


「俺のも駄目だ。教官たちに繋がらないな」


「マジかよ…。他の小隊はどうだ?」


 俺は他の小隊との通信を開こうとする。だがそれも駄目だった。


「通信ジャミングか?たしかいくつかステータスシステムへの干渉が可能な異能はあったな。魔術とか超能力とかのステータスシステム以前の異能にはスキルの発動やステータスへのデバフが可能な能力があったはずだ。それを使われてるのか?」


 千晶は軍事技術に通じている。この男が言うのだから通信ジャミングそのものは技術的には可能なのだろう。だとすると厄介だ。ダンジョン内部は無線通信が出来ない。俺たちは他の小隊との連携がこれで不可能になってしまったのだ。


「どうするアラタ?このまま演習を続けるか?」


「…いや。ダンジョンから離脱しよう。これは明らかにおかしい。部隊間連携が技術的に出来なくなった以上、すでに演習目的の達成は困難だ。むしろこの状態でダンジョン内をウロウロすることは生徒全員の命を危険に晒しかねない危険行為になる。30階の一方通行の転送ポートを利用し地上へ帰還する。そして地上の転送ポートで20階へ戻り教官たちに事態の報告を行おう。全員聞いてくれ!!」

 

 俺は立ち上がってこの場にいる全員に向かって言う。


「みんなも気づいていると思うが、スタータスシステムに何らかのジャミングがかけられている可能性がある。さらに言えば出現モンスターにも異常があり、メンバーにも色濃い疲労があることから、これ以上のダンジョン進軍は危険であると判断せざるを得ない!我々は現在27階にいる。ここから一番近い脱出路である30階の転送ポートを目指す。責任は俺が取る!俺についてきてくれ!」


 生徒たちは皆俺の顔を不安げに見詰めていたが、俺の命令に納得してくれたようで頷いてくれた。


『『『『了解!!』』』』


 俺に向かって敬礼して指示への服従を誓ってくれた。彼らは俺の判断を信じてくれる。だから俺には彼らを無事に地上に返す責任がある。心してかからないといけない。













「…アラタはやっぱり頼りがいがあって…だから水臭いままで…寂しいままなんだね…あたしは助けられたままなんだ…」









 俺たちは30階を目指して進軍を続けた。さっきみたいな広間は避けて可能な限りモンスターの待ち伏せの危険が無さそうなルートを選んで進む。だけどやはりモンスターの出現挙動は明らかにおかしかったのだ。


「なにこれ!本当にもう!!数が多すぎる!!うあああああああああああ!!!やあ!!」


 前衛の祢々は出現するモンスター達をひたすらに殴り殺し続けていた。さっきから出現するモンスターの数が明らかに多すぎだった。千晶たち前衛はともかく俺たち後衛は持ってきた弾薬が心もとなくなってきた。


「くっそ!あと一階なのに!!他の小隊も拾ったからただでさえ進軍速度がトロイのに!この量はヤバすぎる!!」


 進行の途中でさらに他の生徒たちと合流した、彼らもステータスシステムのジャミングとモンスターの量の多さに疲弊し混乱していた。俺の指揮下に入れて彼らを保護しひたすら先に進んでいったのだ。もう演習どころじゃない。俺たちは明らかな危機の中に放り込まれてしまったのだ。


「よっし!30階!!中心まではそんな距離じゃない!いそげ!はしれ!はしれ!!」


 俺たちは転送ポートのある中心部に向かってひたすら走る。だがそれを追撃するものがあった。黒いローブを被った謎の骸骨が俺たちの後ろを飛んで追いかけてきたのだ。


「おい!?千晶あれは?!」


 謎の骸骨はするどく大きな鎌を持って俺たちを追いかけてくる。その姿は背筋が凍りそうなくらいに恐ろしい。


「嘘だろ?!ありえない!?あれはお台場ダンジョンでは確認されてないモンスターだ!ヨーロッパのダンジョンにたまに出てくる奴!通称デスサイズ!!ひたすらターゲットした奴を追いかけ回すヤバいやつだ!いまのところあの鎌の一撃を防御できたケースは報告されていない!いわゆる初見殺し系モンスター!!」


「くっそ!一体何が起きてるんだよ!!くそ!畜生!!」」

 

 俺は最後尾でライフルを撃ちながらデスサイズを牽制する。多少は怯んでくれるのだが、あまり効果がない。


「任せて!!」


 祢々は右手に桜色のオーラをありったけ貯める。そしてデスサイズに向かって突っ込む。


『OOOOOOAAAAAA!!!』


「いやぁああああああああああああああ!!!」


 祢々はデスサイズの振るう鎌をしゃがんで避けて、そのままカウンターでデスサイズのあばら骨に向かってフックをぶち込んだ。白い骨が砕けてあたりに飛び散る。それでデスサイズはいったん動きを停止した。


「みんな急いで!ゴー!ゴー!!!ゴー!ゴー‼ゴオオオおおおお!!!」


 生徒たちは祢々の叫びを聞きながら一目散に走り続ける。そしてなんとか転送ポートのある広間に辿り着いた。


「くくく。遅かったじゃないか…待ってたぜぇ丁嵐新ぁ!!」


 転送ポートの前にいたのは、なんと美作凱斗だった。なぜかファンタジー小説に出てきそうな中世ヨーロッパ風な偉そうな鎧姿だった。そして頭に王冠が被っている。俺はその姿に嫌悪感しか覚えなかった。









  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る