第26話 学年全体ダンジョン攻略演習
学年全体での演習の為、俺たち士官学校第二学年の生徒はお台場ダンジョンの20階に集まっていた。学校側から指示されたメンバーで六人一組の小隊を組まされた。生徒たちは全員、国連軍が正式採用している迷彩の戦闘服にボディアーマーとヘルメットとベストのフル装備だ。違うのは装備している武器くらいである。
「アラタと組めるのは楽で助かるな。是非隊長やってくんない?」
メンバーの中に数少ない俺の友人の一人である、
「別に構わないけど。それならお前が副隊長やってくれよ。気心の知れてる奴がサポートしてくれないとやっぱりきついからな」
「いいぜ。俺でよければな。…ああ、それとな。美作の件なんだけどすまなかったな。お前を俺の小隊に入れてやりたかったけど、できなかった。本当にごめんな」
「いやいいよ。あれは仕方がない。美作の影響力は強かったしな。千晶だって自分の隊の仲間を守るのに必死だっただけだ。しょうがないさ。それにもうなんとかなったしな」
俺はこの男が友人としてとても好きだ。美作と揉めてしまい俺が孤立した時も、周りからは見えないように千晶は俺に情報を流して助けてくれていた。
「ありがとう。だがその美作の姿が見えないんだよな。あいつこの演習サボる気なのか?これサボったら下手すりゃ退学もあるよな?」
士官学校は授業の出欠席に五月蠅い。それは当然の話で、軍人が決められたスケジュールを守れないのは、他の兵士たちの命の危機に関わるからだ。軍事作戦って言うのは緻密に練られているのだ。気分でサボるような奴が出ることは一切許容できないのである。
「いっそ退学になってくれるならいいけどね。ウチの祢々も散々嫌な目にあってるし、他の女子たちも被害にあってるって言うしね」
「だな。俺もあいつにはうんざりだね。士官学校はただでさえ女子の数が少ないんだから、優しくしろっての!マジでムカつくぜ美作のくそ野郎!」
俺は別の小隊になってしまった祢々の方に視線を向ける。祢々は同じ小隊の男子たちに話しかけられていた。男子たちは祢々と組めて楽しそうだが、対して祢々は何処か浮かない顔をしていた。まだ土曜日のことを引きずっているのかも知れない。同じ隊にならなかったことが恨めしい。演習が終わったらすぐにでも話をしなければいけない。
「なあアラタ。あれ見てくれないか?」
「ん?なに?」
千晶の指さす方に美作の取り巻き連中がいた。祢々の方をまるで獲物を見るような獣の目で見ている。
「あいつら美作の取り巻きだよな?斯吹の事見てるよな。なんか嫌な感じがする」
「ああ…なんだろう。何か仕掛ける気かな?」
「だけどこの演習はステータスシステムのパーティー情報リンク機能で教官たちに行動をリアルタイムで把握されるから何か出来るわけないよな…?」
今回の演習では学年全体と教官たちで一つの大きなパーティーをステータスシステム上で組むようになっている。これでお互いのダンジョンでの位置情報や行動ログが把握できるようになる。成績判定のための措置なのだ。
「そのはずだけど…警戒はしておこう」
一応警戒はしておこうと思った。演習中は取り巻き連中の行動ログを可能な限り追いかけることにしておこうと思った。
「気をつけ!総員注目!」
教官が演台に立ったのを見て、俺たちは全員整列して傾注する。
「これより学年全体ダンジョン攻略演習を行う!諸君らはここ20階から40階のセーフゾーンを目指して各小隊ごとに進軍を開始する!だがこれは競争ではなく、部隊間協調行動を実践する訓練である!各部隊はそれぞれ違うルートで40階を目指してもらうが、進軍のペースは常に全部隊で一定になるように調節してもらう!互いにスタータスシステムで連絡を取り合って各チェックポイント通過を同じペースになるように協調するのだ!決して脱落者を出すことなく、全員で40階を目指すのだ!以上!健闘を期待する!」
第二学年名物の全体ダンジョン攻略演習。学年全体がバラバラのルートでダンジョンを進軍し、ほぼ同じタイミングでゴールしなければいけないという地獄の演習。いつもみたいに早くゴールについたりモンスターを倒しまくったりすればいいわけではない。各小隊が全体の目的を達成するために互いに協調しなければいけないのだ。何処かの小隊の進軍ペースが遅れれば、それに合わせなければいけない。そうすると今度は待機してるものに別のトラブルがやって来たり。そうやって不協和音がドンドン積みあがっていくのがこの演習の肝だ。
「いやぁ…地獄だわ…。ダンジョンとかいう危険極まりない場所で、姿の見えない友軍とペースを合わせながら進軍するなんてきつ過ぎる…。はぁ…スタンドアローンで好き勝手出来る冒険者さんたちがうらやましいぜ…」
千晶が溜息を吐いている。この演習はまさしくうちの学校の特色だろう。軍隊って言うのはつねに集団行動する。冒険者のパーティーと違って、軍隊全体でダンジョンを進むので、こういった訓練が必要なのだ。この演習は毎年のように生徒たちが阿鼻叫喚の叫びをあげることで有名なのだ。俺はステータスシステムを開いて、ダンジョンのマップを開く。ステータスシステムは各地のダンジョンのマップ情報を全アカウントから収集しており、毎日のように構造の変わるダンジョンのマップもすべて正しくマッピングしているのだ。俺は指定されたウチの小隊の進軍ルートを確認する。いくつか難所はあるが戦力的に踏破は問題なさそうだった。問題は他の小隊と進軍ペースを合わせることの一点だろう。
「さて。じゃあ状況を開始せよ!!ゴーゴーゴー!」
21階へ上がる転送陣は複数存在している。進軍ルートとしてしていされたその一つの前で、俺は自分の演習小隊メンバーに向かって叫ぶ。
『『『『『おー!!』』』』』
俺たちは転送陣に飛び込み進軍を開始した。
21階から40階はレンガ張りの壁が特徴となっている。モンスターは以前と比べるとやや強くなるがそれでも士官候補生の敵となる程ではない。今回俺たちの班は、俺ともう一人の後衛と、千晶と残り3人の前衛に役割を分担することにした。
「前方から敵10体!援護する」
俺たち後衛はライフルの弾速加速スキルとその他の砲撃系スキルでモンスターの軍団を撃って牽制する。
「崩れた!前衛!!突撃しろ!!」
そして敵の隊列が崩れたら、前衛に突撃を支持する。
「了解!おら!俺に続け野郎ども!!」
『『『うおおおお!!』』』
千晶は槍の達人だ。前衛を率いてモンスターの群れに飛び込んで、あっと言う間にモンスターを皆殺しにして見せた。
「いやぁ指揮官がちゃんと判断してくれると突撃は楽でいいね!頭使わずに武器振り回すのって最高に気持ちいいね!はは!」
「だな!丁嵐隊長様様だな!あはは!」
前衛たちは千晶のジョークに笑っていた。小隊は上手く機能していた。進軍ルートもペースを守ってきちんと回れている。今のところ問題はない。だけど。ステータスシステム経由で入ってくる通信が本当に酷い。ある小隊はチェックポイントに早く着き過ぎてるし、逆に別の小隊はモンスターの圧力に負けてルートを外れてしまってチェックポイントにさえついてない。本当にグチャグチャ。
「はあ…ややこしい…。取り合えず近くの小隊が梃子づってるみたいだな…。みんな聞いてくれ!」
俺は小隊メンバーに一つの命令を出す。
「この近くにいる別の班がどうやらモンスターに押されているようだ。彼らのペースが遅れると全体の進軍ペースが遅れかねない。だから助けに行くぞ!友軍を見捨てるな!」
『『『『『了解!!』』』』』
進軍ルートは守るべきだが、こうやって別の小隊の進軍を助けるのもこの演習に必要な項目の一つでもある。友軍を見捨てるものは軍人失格なのだ。俺たちは進軍ルートを外れ、友軍を助けに向かった。
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