第30話 卑怯者の戦術

 祢々は背負っていた新を地面に降ろして優しく横たわらせた。そして新の体の上にシールドを展開する。


「ごめんアラタ。背中冷たいかも知れないけど、そこでしばらく横になってて…すぐにあいつらを片付けるから!!」


 そう言って祢々は地面を思いっきり蹴って、敵である美作の取り巻きの一人に一気に肉薄し思い切り拳を振るう。


「ひぃ!やめ…ぐぼぉ…!」


 腹を思い切り殴られた男は吹っ飛ばされて壁に激突し気絶する。祢々はそのまま残った男たちを憤怒の形相で睨みつけながらさらに桜色のオーラを展開する。


「くそ!!さすがはAランク異能者!!あれを使うぞ!!」


 残された男たちは剣に禍々しい光を纏わせ始める。祢々はその光を見て、美作の放った技を思い出す。


「まさか美作と同じ技?!」


「そうとも!美作様より貰ったダンジョンの力だ!ダンジョンは異次元から力を引っ張ってくるんだ!だから現実世界の異能では防御不可能なんだよ!!」


 そういって男たちは祢々に対して斬りかかってくる。祢々は男たちの斬撃を素早い身のこなしで避ける。


「くはは!斯吹ぃ!!いつものお前なら先にぶん殴ってるよなぁ!!覚えてるかぁ!!俺たちはお前に食堂でぶん殴られてんだよ!!」


 シールドを張って剣を受け止めれば、そのまま切り裂かれる。だったら相手の動きを止めてしまえばいい。そう祢々は判断する。


「だったらまた殴ってあげるわよ!!ふん!!」


 祢々はオーラを纏わせた拳で地面を殴る。すると地面に亀裂が走っていき、男たちの足元が割れる。


「うわぁ!!足が!足がぁ!!」


 咄嗟の出来事であったため、一人の男が地面の揺れに足を滑らせて、亀裂に足を挟んでしまった。


「間抜け!!そこで眠ってなさい!!はぁ!!」


 祢々はオーラの弾丸を男の頭に向かって撃つ。撃たれた男はそのまま気絶してしまう。


「ちっ!!なんだよ!!大人しく切られてろよぅ!!生意気なんだよ!!女のくせに暴れてんじゃねぇ!!」


「お前たちこそ生意気なのよ!!借り物の力で調子に乗ってんじゃないわ!!ダサいのよそういうのが一番!!」


 激高しながら男の一人が斬りかかってくる。だが冷静さを欠いた剣では祢々の素早さには届かない。祢々は男の懐に一気に飛び込み剣が振り下ろされる前に、男の両手首を掴んで止める。そしてそのまま足を払って地面に思い切り投げる。


「がはっ!」


「だけどまだあるから!歯を食いしばりなさい!!」


 そして祢々は投げた勢いを使って空中で横回転して、地面に倒れた男の腹に踵を振り下ろす。


「ぐぼぉおおおおお!!?」


 祢々の踵は男の鎧を砕いた。その衝撃は内臓を激しく揺らし大ダメージを与えて男を気絶させてしまった。祢々は男が気絶したのを確認してすぐに近くにいる男にターゲットを移し睨みつける。


「ひっ?!」


「あとはお前ともう一人…!」


 獰猛な笑みを浮かべながら祢々は桜色のオーラを吹き上げた。だがその集中を途切れさせる声が聞こえた。

 

「動くな!!これを見ろ!!」


 リーダー格の男が横たわる新に剣を突き付けていた。


「お前!!アラタに近づくなぁ!!」


「五月蠅い!!おとなしくしろ!じゃなきゃこいつを殺す!!」


「くっ…卑怯者…ほんとダサい…美作のお仲間らしいダサさ!」


「うるさい!!バカ女が!!お前にはいつもムカついてたんだよ!!お高く留まって正義の味方気取り!俺たちが学年の人気グループなのに、お前だけは俺たちにちっとも媚びやしなかった!!女なら強い男グループにすり寄ってくるもんだろうがようぅ!!お前はいつも俺たちを睨みつけてた!女なら俺たちに向かって笑っているべきなのに!!」


「そんなこと考えてる男にヘラヘラするわけないでしょ!!だからあんたたちはかっこ悪いのよ!!学園の貴族気取り!?誰がそんな奴らに媚びるのよ!!あたしはかっこわるい男には絶対に笑ってなんかやらないのよ!!」


 祢々は世にも恐ろしい顔でリーダー格の男を睨みつけている。その姿に恐れをなしたのかリーダー格の男は少し後ずさりしながら、祢々の近くにいる仲間に命令をする。


「うるさい!!おい!斯吹を殴れ!!」


「いいのか?美作様が怒るんじゃ?」


「いいんだよ!!躾だ!じゃじゃ馬を献上する前に素直にさせるんだよ!!顔や体に傷さえつけなきゃ文句は言われねぇよ!!」


「それもそうか。はは!」


 命令された男は嗜虐的な笑みを浮かべて、祢々に近づきその顔を張り手で殴った。


「きゃっ…!」


 祢々はその衝撃でよろけて地面にぺたりと座り込んでしまった。殴られた頬を抑えて少し震えていた。


「おいおい!見ろよリーダー!!見ろって!」


「ああ!見えてる!見えてる!すげぇ!ぶるってる!あの斯吹が!ブルってる!まじかよ!かわいいぃいいい!ひゃはは!!」


 いくらずば抜けた戦闘力を持っていても、祢々の心はごくごく一般的な女性のそれだった。男から一方的に振るわれる暴力に祢々は生理的な恐怖を押さえることが出来なかった。


「なあ!こっちに祢々ちゃんを連れてこいよ!!俺もそいつのこと殴りたい!夢だったんだよ!女の顔殴るの!!そいつの綺麗な顔をひっぱたくのさぁ!!」

 

「おう!いいぜ!サンドバック配達しまーす!ぎゃはは!」 


「いやぁ!やめて!放して!引っ張らないでぇ!!」 


 祢々は髪を引っ張られて地面を引きずられてリーダー格の男の所へと連れて行かれる。そして祢々は頬を思い切りひっぱたかたれた。


「いやぁ…」 


 祢々の口の中がキレて、唇の端から血が少し流れる。


「うわぁ!唇真っ赤じゃん!超きれい!あはは!おら!」


「ぐぅ…」


 そして祢々は鳩尾を殴られる。血の混じった胃液を新の傍に吐いてしまう。


「うわぁ…みっともないねぇ…ああ!俺こいつのことちょっとは好きだったんだけどなぁ…恋がマジで冷めそう!くははは!いーひひひ!」


「やべぇマジウケる!つーかやばい!ハマりそう!超楽しい!女の体って殴っても面白いのかよ!マジでお前ら女って男の為の玩具だよなぁ!!ぎゃははああはは!!」


 お腹を抑えながら蹲る祢々を男たちは嘲っていた。

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