第11話 メンヘラちゃん襲来

 ムキムキに膨れ上がった筋肉は男の俺から見ると羨ましいものに見える。だが女性陣はどこか引き気味な目を向けている。


「脇が臭そう。キモ」


「なんかテカってる。キモ」


 祢々とルーレイロは白けて切っている。 


「体を鍛えてるのはとてもいいんだけどね…自慢してくる態度はちょっとないかなってあたしは思うの」


「男はシャツを脱いだ時に腹筋は割れてなきゃ駄目です。でも筋肉で体でかくなりすぎてるのってなんか怖いです。シャツが膨らみ過ぎる筋肉は幾らなんでもキモいです。それになんか女の子のことより自分の筋肉の方が大事そうなナルシストっぽい感じがわたしはいやです」


 なんか言ってることに割と納得できるのがイタい。


「だからそこらの女はいやなんだ!俺たち男の美しさをちっとも認めやしない!体がでか過ぎて怖いだの!乱暴な感じがいやだの!ふざけやがって!女なら俺たちのこの体の逞しさに惚れこむべきだろうが!!なのにどいつもこいつもソフトマッチョだのとかほざくなよっちいモデル系イケメンばかりに熱中していやがる!あんな胸筋をぴくぴくさせられないような貧弱どもばかりと付き合う!女には見る目がないんだ!!」


「いやぁどうだろう?お前たちの筋肉はすごいんだけどね。俺は結構羨ましいって思うし。でもその女を舐めてる態度が気にいらないって祢々たちは言ってるんだよ」


「ふん!丁嵐新!お前みたいなソフトマッチョ系男子の傍に侍っている時点で、斯吹祢々も転校生には見る目がない!この間だって見ていたぞ!バニーブルマウォークが終わった後、恥ずかしい恰好のラーウィルにお前は自分のブレザーを渡していた!なんだあの少女漫画みたいなシチュエーションはよう!!ネイビーシールズの隊員が乙女の様に頬を染める??!!しばくぞ!!こらぁ!」

 

『そうだそうだ!』『丁嵐め!くたばれ!』『うらましいぞこらぁ!』『ラエーニャ先生に贔屓されやがって!』『リリハパイセンにオギャってんじゃねぇ!』『祢々ちゃんに世話焼かれてんじゃねぇ!!』


 アメフト部たちがやいやい恨みがましく叫び始める。何こいつら…?俺のこと恨み過ぎじゃない?


「俺たちは打ちのめされた。所詮この世界はソフトマッチョ系男子にすべてを奪われる理不尽な地獄。だがルシーノヴァ様はそんな俺たちに救いの手を差し伸べてくれたのだ。ルシーノヴァ様は俺たちの膨れ上がった筋肉を『使える』と言ってくださった唯一の御方!そしてルシーノヴァ様は丁嵐新に復讐するチャンスをくださった!ウラーーーーーーー!!」


『『『『ウラーーーーーーーー!!!』』』』


 ソビエト軍式突撃の雄たけびをあげるアメフト部男子たち。野太い声には迫力がある。だけどなんか必死さがちょっとキモいかなって。祢々とルーレイロはしらーっとした目を向けて、口を噤んでいた。こういうモードの女の子にはもうどんな言葉も届かないだろう。


「この者たちは屈強な肉体を持ちながらも、正当なる評価を受けられていなかった。ジブンはこの者たちを憐れんだ。そして我が配下としたのだ。ジブンに忠実なる兵士リソースとしてな!」


「…ようは女慣れしてない可哀そうな男たちを唆したってことね。サークルの姫様プレイかよ」


「ふん!ジブンは人民の上に立つために生まれてきたエリートなのだ。丁嵐新!ジブンと勝負しろ!!」


 ルシーノヴァは俺をびしっと指さしてくる。横一文字に切りそろえられた前髪の下の灰色の瞳は不敵でありながら冷たく細められていて、俺を睨んでいた。


「勝負?なにで?」


「40階のサブダンジョンの攻略だ。午前中に一般の冒険者パーティーが隠しボスの部屋を発見した。そしてそのパーティーはそのボスモンスターに敵わないと理解して慌てて逃げてきたそうだ。だがその時、隠し部屋の扉を開けたままにしたらしくな、現在隠しボスは部屋の外を出てサブダンジョン内を徘徊しているそうだ。お前の指揮する部隊、ジブンが指揮する部隊、どちらが先にそいつを倒すのか競争しようじゃないか!」


「へぇ。なかなか面白いことになってるね。ふーん。良いけど、勝負ってことは何かを掛けるってことだよね?君は俺に何して欲しいの?」


「斯吹祢々とのパーティーを解消しろ!その女はジブンが立派な兵士になるように指導してやるのだ!丁嵐新!お前如きの手にその女のことは委ねない!」


 どこか照れ気味にルシーノヴァはそう言った。なんか祢々に懐いてるみたいだな。


「祢々ちゃんあいつに好かれてるね。羨ましいよ」


「え?あたし?!…ええ、アラタのそばにいられないのは困るんだけど…」


 祢々は本気で困ってる。ルシーノヴァの要求は思っていたよりも可愛らしいものだと思う。俺は祢々の耳もとに口を近づけて囁く。


「祢々。すまないけど、これはチャンスだ」


「チャンス?…ああ!代わりにルシーノヴァさんにウチの部隊に来てもらう感じ?」


「そういうこと。祢々。俺は絶対勝つ。だから頼んでもいいかな?」


「ふふ。いいよ」


 内緒話を終えた俺はルシーノヴァに振り向き。


「わかった。そのかわり俺が勝ったらルシーノヴァ、お前が俺のパーティーに入れ」


「なに?くくく。まあいいだろう。どうせジブンが勝つのだ。お前がどんな要求をしようがかまわんよ。もし勝てたならばジブンの体などいくらでも好きにすればいいさ!そんな敵いもしない妄想くらいは許してやる!くくく、あーははは!」


 ルシーノヴァは驕り高ぶった笑い声をあげる。


「おい。アルファ。もちろんオレはアラタの小隊に入るが構わないよな?」


「ああ、構わないぞ。この勝負はついでに目障りなお前を排除することも兼ねているのだからな」


「ほう。上等だよアルファ。オレもお前との因縁はここで幕引きにしておきたいねぇ」


 ネヴェイアとルシーノヴァは殺気に満ちた眼で互いに睨み合う。


「あのセンパイ。これってわたしもセンパイのパーティーに加わらないといけない感じの空気ですか?わたしあの二人に全然因縁ないんですけど?わたしやる気とか全くないんですけど」


 ルーレイロは白けた感じで睨み合う二人をジト目で見ている。それに気がついてルシーノヴァがぎょろりと目をルーレイロの方に向けた。


「お前はこの次だ、エリザンジェラ・ハファエラ・ノゲイラ・ルーレイロ。この間の空港でジブンが大人なのに迷子センターに送られた切欠になった通報。それをしたのがお前であることは調べがついている。ジブンは恥を掻かせてきたものを決して許しはしない。お前への落とし前はちゃんと格式を揃えてから行うと決めているのだ!今回は手出し無用だ!!引っ込んでろ!」


「うわぁ。アラタ先輩!なんかこの前髪ぱっつんさん、絶対めんどくさい女ですよ!メンヘラ臭ハンパない!」


 目を向けてきたのルシノーヴァだけではない。ネヴェイアはどこか呆れたような顔をしていた。


「ちっともシリアスが続かねぇ…。でもあの迷子センターはスワットモドキのせいだったのかよ…おい、スワットモドキ!今日はベンチで大人しくしてしろ!お前は手を出すな!アルファとの決着はオレがつける!」


「スワットじゃなくてボッピです。でもやった!わたしはさぼってもいいんですね!いやー良かった。わたしダンジョン嫌いなんですよ。狭いとこ苦手」


 参加者はこれで決まった。できればこの機会にルーレイロの実力も把握しておきたかったのだが、それはまた別の機会に譲ろう。


「じゃあ勝負しようか。ルサーウカ・ルキーニシュナ・ルシーノヴァ!お前に人の上に立つ資格がないってことを俺が教えてやるよ!」


「ふん!吠えてろ負け犬め!貴様に本当の部隊指揮というものを教えてやる!世界最強の特殊部隊アルファ部隊の隊員であるこのジブンがなぁ!!」


 俺とルシーノヴァは睨み合う。指揮官としてのプライドをかけた勝負。絶対に負けない。必ず勝って俺は優秀な人材を手に入れてみせる。


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