第2話 迷子のお知らせとかすごく恥ずかしい
祢々は微笑んでいる。それは人を安心させるような優しいものだった。
「あたしはね。アラタ。あたしはね、出会い方とか、陰謀とか、運命とか。そんなことどうでもいいの。アラタにしてもらったこと、あたしがしたこと。そしてこれからいっしょにやりたいこと。それだけでいいんだよ。ねぇこっちに来てよ…」
彼女は部屋着のホットパンツから覗く太ももをポンポンと叩いている。男女経験のない俺でもそのお誘いの意味はわかった。でもどこか恥ずかしさと、戸惑いを感じてしまって俺は体を動かせずにまごまごしてしまう。
「なんだ。アラタも困っちゃうところがあるんだね。いいねそういうの。もっともっとそういう可愛いところをあたしに見せてよ。アラタの可愛いところにあたしはいっぱいいっぱい触れたいから」
祢々は俺の肩を優しくつかんで引っ張る。俺はそれになすがままにされることにした。そして俺の頭は祢々の太ももに預けられてしまった。柔らかくて温くて、だからこそ心地いい感触だった。
「アラタがあたしに気を使ってるのは嬉しいよ。でもね。あたしは役立たずじゃないの。アラタがやりたいことをちゃんとお手伝いできるんだよ。
「うん。俺は礼无を助けたい。やっと希望が見えたんだ。そのために特殊部隊を作ることを俺は決めたんだ」
「ならあたしを頼ってよ。アラタは水臭いしかっこつけマンだから、助け船を出してあげるよ。あたしはね、役立たずのお姫様みたいにチヤホヤされるよりも、相棒みたいに頼られる方がずっとずっとうれしいよ。アラタといっしょに戦うなら、きっとそれは楽しいことだって思えるとあたしは信じてる」
見上げた彼女は朗らかに笑っている。頼っても裏切られることはないと不思議と確信できた。俺は祢々の頬に手を伸ばして撫でる。彼女はくすぐったそうに頬を微かに染めた。
「そっか…祢々。頼りにさせてくれ。俺を助けてくれ」
「うん。まかせてよ!あたしがアラタを支えてあげるからね!」
その後の俺たちに言葉はなかった。お互いにただ見つめ合うだけで何か心が満たされる不思議な時間。そして俺たちは気が付いた時にはソファーで安らかに眠りについていた。そして朝になってケータイのアラームが鳴った時にお互いにソファで寄り添いながら眠りについていたことに気が付いた。こうして俺たちの共同生活が始まったのだ。
日曜日午前。ブラジルを旅立ったエリザンジェラは羽田空港に辿り着いた。アメリカを経由して丸一日のフライトは彼女の精神に多大なるダメージを与えていた。リオデジャネイロ州軍警察の制服を着たままでフラフラと歩いている。
「神様。イエス様。マリア様。ありがとう。本当にありがとう!空を飛ぶという愚かな行為をしたわたしを助けてくれてありがとう。墜落から守ってくれてありがとう!」
十字架と聖書を胸に抱きながらひたすらブツブツと祈りを捧げるエリザンジェラは、荷物がレーンに乗ってくるのを待っている。周りの人々は彼女の異様な雰囲気を恐れて彼女の傍から離れた。そして流れてきたスーツケースを手に取って。レーンを離れようとしたその時だった。
「テメェ!アルファ部隊の銀髪女か!?」
「貴様は!シールズの?!アフガン以来だな!」
近くに赤毛でアメリカ海軍のセーラー服を纏う赤毛の少女と、銀髪でブレザーにタイトスカートのソビエト赤軍の制服を纏う少女が互いに胸倉をつかみ合って睨み合っていた。
「何あれ…?アメリカ軍人とソビエト軍人。冷戦って奴かな?ベルリンの壁はもうないのに喧嘩しちゃうのか…時代遅れだな…」
エリザンジェラはその光景を鼻で嗤ってから、近くの空港スタッフに喧嘩の事を伝えた。すぐに空港警察官たちがやってきて、喧嘩している少女たちを拘束して連れ去っていた。それを見届けた後、エリザンジェラはバスターミナル前のロビーに辿り着き、スマホを出して写真を表示する。そこには着物に黒髪の美しい大和撫子然した少女の姿が映っていた。それが今日エリザンジェラを空港まで迎えに来てくれるという士官学校の先輩で、名前をツルギ・リリハという聞いていた。
「侍セニョリータはどこかな?」
ロビーには多くの人々がいた。手にボードを持って待合人を待っている人が沢山いる。その多くは一般企業や旅行業者だったが、たった一人だけボードに『U.N.Forces academy』と書かれたフリップを持った少女がいた。ところどころにメッシュの入った盛ってる茶髪に、派手な化粧。胸元を大きく開けたシャツに短いプリーツスカート。茶髪の少女は気安い笑みを浮かべてエリザンジェラに手を振る。
「何あれ?ギャルって言うんだっけ?あれで士官学校の生徒なの?大丈夫なの日本って…」
エリザンジェラはかなり引いていた。士官学校と言えば彼女の基準で言えばエリート校であり、そんなところにまるで娼婦のようないやらしい恰好をした女がいるはずないと思っていたからだ。きっとコンパニオンか何かで、男の軍人と待ち合わせしているのだろう。
「まあ。わたしのこと待ってるわけじゃなさそうだし。別にいっか」
ギャルから視界を離して、待合人を探すことを再開する。
「ちょっとちょっと!エリザンジェラ・ルーレイロさん!ウチのこと無視しないでよ!」
なんとギャルに名前を呼ばれてしまった。エリザンジェラは気まずげに振り向いた。日本に来る前にステータスシステムで『翻訳』のスキルを取得していたため、ギャルの話し言葉は日本語であったが理解はできる。
「なんでわたしの名前を知ってるんですか?」
「えーひどーい!ちゃんと写真おくったじゃん!ウチが三年生の
「え…?!全然写真と違うじゃないですか?!ちょっと何言ってるんですか?!」
スマホの写真と目の前のリリハを見比べる。黒髪の大和撫子と、茶髪のギャル。同一人物には見えない。
「ん?あ!ごめーん!写真間違えちゃった!ほらほら見て見て!」
リリハは指をパチンと弾く。すると盛っていた茶髪は黒いストレートになり、派手な化粧も消えて清楚で凛とした顔立ちになる。
「ふぁ?!なにそれ?!ええ?!意味わかんない?!」
「化粧スキルです。ステータスシステムで非異能系スキルに対してモンスター経験値を加算するとゲットできますのよ。これのおかげでわたくし、普段は清楚系のふりして裏で男を食いまくれているんですわ」
「ステータスシステムってそんなのまであるんだ。てか喋り方まで違う…?なんだこの女…変人…変態?」
エリザンジェラはリリハのエキセントリックな言動にかなり戸惑っている。もともとやや引っ込み思案なところがあるエリザンジェラはリリハのことを苦手な女と認識し始めていた。リリハまたギャルメイクに戻り、握手を差し出してきた。
「これからよろしくね☆エリちゃん!うちのことはリリハパイセンとかリリィちゃんとかって呼んでいいんだぞ♡」
「エリちゃん…?え?渾名?馴れ馴れしくないですか?やめて欲しいんですけど鶴来さん」
いきなり距離を詰めてくるリリハにエリザンジェラはかなり引き気味だった。だがリリハはテンションをどんどん上げていく。
「えー?ラテン系なのにノリが悪いぞ☆ウチらって戦友じゃん!これからは戦場でずっともだよ!うぇいー!」
「ラテン系だからってみんな明るいわけじゃないんだけどなぁ…。わたしのことは苗字のルーレイロで呼んでください」
「ええ?じゃあルーちゃんって呼んでいい?やべぇ!エリちゃんよりルーちゃんの方が可愛くない?!どうよルーちゃん!」
「あっ。この人何言っても駄目な人だ…。もういいですよルーちゃんで。ふぅ…じゃそろそろ寮に案内してください」
「あ、それなんだけど。もう少し待って。アメリカとソビエトからも留学生が来るんだ。そろそろのはずなんだけど、荷物の受け取りで戸惑ってるのかな?」
リリハは可愛らしく首を傾げている。それを見てエリザンジェラはさっき見た光景を思い出した。
「アメリカとソビエト?あっ。それって…」
『迷子のお知らせをいたします。アメリカ海軍からお越しのネヴェイア・ラーヴィルちゃんと、ソビエト赤軍から来たルサーウカ・ルキーニシュナ・ルシーノヴァちゃんを保護しております。保護者の方はすぐにすぐに迷子センターに来てください。繰り返します…』
エリザンジェラとリリハはその放送を聞いて溜息を吐いた。そしてすぐに迷子センターに向かったのだった。
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