第15話 寂しき陰謀

 美作凱斗は士官学校のカンセリングルームのソファに座っていた。最近成績の芳しくない美作はラエーニャによるカウンセリングを受けるように、担任に指導されたたためだ。だがその担当カウンセラーであるラエーニャは、部屋の隅で美作を放っておいて誰かとずっと喋っていた。カウンセリング中にメッセージアプリの着信音が聞こえたと思ったら、美作を放っておいて画面を見て、突然顔を青くして電話をかけ始めたからだ。


「祢々…新さんに慰めてもらいなさい。では切ります…ごめんなさい…」


 そしてラエーニャは通話を終えて、美作の前の席に座る。


「今の電話は誰にかけてたんですか?!祢々って言いましたよね!それにあの丁嵐の下の名前まで!?」


「美作候補生。あなたには関係ありません。さっきの通話はプライベートのことですからね。口出しはご無用にしていただきたい」


「このカウンセリングは仕事中ですよね!?生徒の俺のことを放っておいてプライベートを優先してるんですか?!」


「それの何が悪いのです?あなたよりも新さんたちの方がずっとずっと私には大事です。比較しようがないのです。優先度をはき違えれば人生はその指針を誤ってしまい、豊かには過ごせない」


 ラエーニャは美作が怒鳴るのにも眉一つ動かさずにそう吐き捨てた。


「それでしょ!丁嵐新が悪いんだ!あいつのせいで俺は成績が落ちた!祢々だってあいつに…!」


「そういえばさっきからそう言ってましたね。学校の成績が最近落ちていることも、ダンジョン小隊演習での成果が出ていないことも、祢々にフラれたこともすべては新さんのせいだと」


「フラれてなんかいない!あれは丁嵐が邪魔したから…!」


「あなたの主観的事実はどうでもいいです。祢々は貴方には発情していません。貴方とセックスしたいとはこれからも今後も思うことはないでしょう。無駄なので祢々への恋情は捨てた方がいいと思いますよ」


「ふざけんなよ!つーかあんたカウンセラーだろ!人の話を聞くのが仕事じゃないのかよ!」


「聞いてなんとかなる話なら聞きます。聞いても無駄な事象は聞かないことにしてるんです。だいたいあなたのダンジョン演習での成績が芳しくないのは、新さんを自分の小隊から追放したからでしょう?新さんがあなたの小隊の指揮を執っていたからこそ、あなたの小隊の成績は良かった。新さんが抜ければ小隊は有効に機能しえない。他に有能な指揮官はいないのだから小隊はうまく動かない。だからあなたの悩みは無駄の一言です。すべてが自業自得。まずはそこから認識するべきです」


「このぅ!」


 美作は反射的にキレてしまった。アイテムボックスから剣を召喚し立ち上がる。そして剣を鞘から抜き去ろうとしたその時だ。


「やめなさい。無駄なので」


 目の前にいたはずのラエーニャの声が後ろから聞こえた。美作が振り向くと、ラエーニャがハンドガンの銃口を向けてきているのが見えた。


「いつの間に後ろに?…高速移動のスキル…それともテレポートのスキル?」


「貴方相手にスキルなんて使う必要もありません。ただの忍び足ですよ。さてあなたの悩みはわかりました。ようは新さんに勝ちたいということですよね?」


「…ああ。当たり前じゃないか…!」


「祢々ともセックスしたいと?」


「ああ!祢々は俺と付き合うべきだ!丁嵐みたいな小細工だけしかできない雑魚Fランなんかに彼女は似合わない」


 ラエーニャはみっともなく喚く美作を見て、侮蔑的な笑みを浮かべる。


「そうですか。ではいいでしょう。はっきり言いますが、あなたの悩みは結局のところあなたに力がないことが大きな原因です。ならばその力を手に入れれば、あなたの悩みは解消される。カウンセリングでグチグチ恨みつらみを吐くよりも、暴力を身に着ける方がずっとずっと心の平穏に近づけるのが男というものです。だから教えてあげましょう。あなたが新さんに勝てる方法をね」


「どうすればいいんだ?!教えてくれ!」


「お台場ダンジョンは20階ごとにセーフゾーンが設けられているのは良く知っているでしょう?それらの場所はかつてダンジョンのサブコアがあった場所です。サブコアのガーディアンボスを倒したことで、あの領域は解放された。ですがね、実は40階ってガーディアンボスは倒されているんですが、サブコアはまだ未発見なんですよ」


「そんな話聞いたことないんだが…」


「日本政府も国連軍も秘密にしますよ。だってサブコアの封印が出来ていないってことはいつモンスターが湧きだすか分かったもんじゃないってことですからね。一つでも多くのサブコアを減らして、スタンピードのリスクを減らすのが現在人類に出来る唯一の対策です。お台場ダンジョンは、40階のサブコアが封印処理できていないので、わりと危ないダンジョンの一つだと言えるのです。ですからあなたにダンジョンのサブコアの場所をお教えします」


「サブコアを発見すれば学校も俺の実力を認めてくれるってことだな!」


「馬鹿ですね。そんなのどうでもよろしい。サブコアを確保するんです。そしてその力をあなたが使いなさい」


「サブコアの力を手に入れる…?そんなことして何の意味が?」


「サブコアは力の渦そのもの。それを手に入れるということは、人々の上に立てる強大な力を手に入れることなのですよ。あなたは王様に成れるんです。サブコアを手に入れればね」


「王様…?」


「そうです。王様です。王様になれれば皆があなたのこと尊敬のまなざしで見るでしょう。富も名誉も思いのまま。女だってそうです。わざわざ口説かなくても、あなたに抱いてくださいと列をなして拝んでくる。それが王様というものです。祢々だってそうです。きっと新さんを捨ててあなたの下に来るでしょう。見たくはないのですか?あの美しい娘が男に抱かれるときにどんな風に瞳を濡らすのか。聞きたくはないですか?あの可愛い娘がどんな風に男を喜ばせるように鳴いて喘ぐのか」


 美作はラエーニャがいう情景を想像して生唾を飲み干す。


「答えはもう決まっていますね?」


「ああ…俺はサブコアを手に入れる!」


「よろしい。ではお教えしましょう!」


 ラエーニャはメモにサブコアの場所を書き込んでそれを渡した。


「では頑張ってください。応援してますよ」


「ありがとうございます!では行ってきます!」


 美作はすぐにカウンセリングルームを後にした。そしてラエーニャは一人になった。彼女はソファーに深く座り込み息を吐いた。


「…祢々の親密度には若干の不安がありますが、美作もすぐにはサブコアに届くわけではない。慎重を期したかった。ですがウォーロード共が新さんにちょっかいを掛ける前に仕込みをしておかないといけない。ギリギリですね。何もかもが綱渡り…。…ステータスオープン…」


Laenha oliveira


Subject RANK 6th

LV 100

SP 10000


 ラエーニャは空中に現れたスタータスプレートの6thのところを指で愛おし気に撫でる。


「新さん…私は…早く…あなたに…会いたいようぅ…your majesty…私だけのyour majesty…愛おしいyour majesty…your majesty your majesty your majesty…」


ソファーの上で膝を抱いて身を丸めて、ただただラエーニャは繰り返し呟き続けていた。その声はとても寂し気なものだったのだ。


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