第12話 廃テナント突入作戦!

 俺と祢々はヤクザたちが潜む廃テナントの入るビルの屋上に隣のビルから飛び移って侵入を果たした。


「見張りがいないね?授業ではこういう時は屋上とかに見張りがいるのが普通だって言ってたような気が…?」


「どうも素人みたいだな。ヤクザも兵役は経験しているんだろうけど、対モンスター戦闘しか経験がないっぽいな。だけどこっちからすれば好都合だ。手すりにロープ張ってターゲットのいる廃テナントの階に侵入するよ」


「わかった!」


 俺たちは屋上の手すりにロープを引っかけて、人質のいる廃テナントがある6階の窓の傍までラぺリングして降りる。窓は曇りガラスとなっており、中の風景は見えない。だが感知スキルを発動して、壁に耳を当てると窓の傍に二人のヤクザが銃を持ってウロウロしていることがわかった。


「祢々。壁を切断できるよね?」


「うん。できるよ。廊下に出るように開ければいい?」


「まずは一つ小さな穴を開けて。音を立てずにお願いね」


「了解!ふぅうう。やあ!」


 祢々は手刀を作ってそこに桜色のオーラを纏わせる。そして壁に一つの小さな穴を開けた。俺はその穴にサイレンサーのついているアサルトライフルの銃口を差し込んで、ヤクザたちに向けて引き金を弾く。


「がはっ!」


「ぐっ!?」


 ヤクザたちの呻き声が聞こえ、床に倒れ込む音が聞こえた。穴から様子を伺うと二人とも気絶しているのがわかった。ゴム弾であっても弾速加速を使えば気絶させることができるのだ。


「クリア。祢々、侵入口を作って」


「了解」


 祢々が造った穴を通って、俺たちはビルの内部へと侵入した。入った部屋は埃をかぶった小さなオフィスルームだった。俺たちはライフルを構えながら、忍び足でオフィスルームの出入り口へ向かう。例によって感知スキルを使うと、ドアの向こうに一人ヤクザがいることがわかった。俺はハンドサインを出して、祢々にドアを開けてもらい、素早く飛び出してヤクザを撃つ。


「ぐっ!?」


 ヤクザは気絶してその場に倒れ込む。そして祢々がさっと部屋から廊下に飛び出してくる。


「クリア。祢々。廊下の曲がり角に三人いる。カバーして」


「了解。あれ?さっきからあたしこれしか言ってないね」


「まあ指揮官以外は基本喋らないもんだよ」


 俺たちはひそひそ声で廊下を進みながら、曲がり角に潜んでチャンスを伺う。ヤクザたちの姿は感知スキルのおかげで、疑似的に何処にいるのか把握は出来ている。彼らは灰皿の近くで固まって話していた。


「あの店に出入りしてるピンクちゃんが今度うちの組のフロント企業でAVデビューだってさ!パネェよな!俺男優やりてぇわ!あの綺麗な顔にめっちゃべろちゅーしてやりてぇ!」


「だよな!あとあの胸もでかくてまじでいいよな!」


「俺は形のいい尻がいいな!ぎゃははは!」


 隣の祢々の顔を見ると能面のように冷たくなっていた。俺は肩を優しく撫でて、彼女に向かって微笑む。流石にターゲットの近くで声は出せなかったからこれくらいしかできない。だけど祢々はそれでも気を取り直してくれて、俺に微笑みを返してくれた。そして俺はベストからスタングレネードを取りだして、ヤクザの足元に向かって優しく転がすように投げ入れた。それはころころとヤクザたちの足元に転がっていき、一人のヤクザの足にこつんとぶつかった。


「ん?何か足にぶつかった?…え?これって?!」


 そしてスタングレネードは激しい閃光を放ってかるく爆発した。俺と祢々は曲がり角から彼らの前に飛び出して、引き金を弾いた。


「ぎゃっ!」


「ぐぅう!」


「ぐぼぉ!」


 ヤクザたちはその場に気絶して倒れ込む。


「クリア。どう?少しは溜飲が下がったかい?」


「うん。そうね。でもさっき肩を撫でてもらった時に、だいたい機嫌は直ってたかな」


「そうか。それならよかった」


 俺たちは廊下を進む。そしてビルの端にある部屋に辿り着いた。感知スキルによると、この部屋に3人の人間がいることがわかった。1人は女であったため、間違いなく祢々の先輩であるチエミさんだろう。そしてもう2人、銃を持った男がいることがわかった。問題はこいつらと人質の距離が近いこと。このままドアを蹴破って中に突入するとまちがいなくチエミさんを人質に取られる。


「アラタ。早く突入しようよ…先輩をこれ以上怖がらせたくないの…」


「待ってくれ。…ちょっと邪道だけど…やってみるかな!祢々。学校の制服に着替えてくれ」


「いいけど。どうするの?」


「それはね…」


 俺は祢々の耳もとに作戦を囁く。


「…ちょっと面白そう。いいね。頑張る!」


 祢々は俺の作戦を了承してくれた。そして祢々が着替えている間、俺は廊下を戻って気絶しているヤクザたちの所へ向かい、彼らが着ているスーツを剥ぎ取り始めたのだった。



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