これからは私が支えるよ

第39話 前はうきうきしてたのによ

 味気ないコンビニのサンドイッチを久々に食べた。陽太が海藤家に行ってしまったから、必然的にお弁当から買い弁に戻ってしまった。


「陽太くんとケンカでもしたのか?」


 同じようにコンビニ飯を買っている杉山が目の前に座る。夕夏がここ数日お弁当なのを見て、飯炊きをしてくれた陽太の存在を尋ねてくる。


「…ケンカなんかしてない」


「だって、ベントーじゃねーじゃん。機嫌損ねちゃったか?」


「いや、陽太くんとは、今は一緒に暮らしてないの…」


「なんで?…まさか、家出か!」


「違うよ!その、…今は別の家にいるっていうか…」


「親が迎えに来たのか?」


 そんなとこ…と曖昧に返事をする。海藤夫妻と特別養子縁組するため、『監護かんご』期間中は海藤家に住んでいる陽太。すでに2週間経っているが、陽太と離れて夕夏の生活も大きく変わっていた。


「ふーん、だから最近腑抜けてるのか?お前…」


「そんな感じ?私…」


「んん、前はうきうきしてたのによ。今は脱け殻みてーだぜ」


 杉山に言われるまでもなく、夕夏も生活に張りがなくなっている事に気づいていた。

 会話もなく食事していると、他の社員が杉山に話しかける。


「杉山、稲井商事から電話かかってきて来てたぞ」


「おお、後で折り返しとくよ」


 榎本が異動になってから、自分達のリーダーは他の上長が兼任したが、継続の案件は杉山が引き継いで、クライアントとやり取りしていた。


「営業大変?」


「ん~、そだな。まだ慣れねーけど、こういうのも経験しとけば独立した時、役に立つだろうからな!」


 いつか独立を考えている杉山は着実に経験とコネクションを築いている。そういう向上心があるのは本当にすごいと思った。


「なんかスゴいね、杉やんは…目標があって」


「なんじょ~はねーの?出世したいとかさ…」


「無理にしたいとは思わない。仕事にやりがいはあるけど、それだけかな~」


 仕事をして生活してそれの繰り返し。いずれ、何かの転換期があるんじゃないかと想像するが、明確なものは何もない。


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