第31話 もう、泣かせたくない。

 その週の土曜日。

 調査結果が出たので事務所に向かった。結果を聞いて落胆したが、彼はもう一つ報告結果を持っていた。


「本当にここにいるんですね?」


「ええ、『彼』の方は『見つからなかった』ですが、『そちら』でも話を聞くことはできるかもしれません。本来の依頼内容とは違ってしまいましたが……」


「いえ、ありがとうございます!会いに行ってみます」


 陽太は手に取った報告書にあるその住所を強く見つめた。翌日、電車に乗ってそのお宅に向かう。都内にある一軒家。青い屋根にガレージと庭のある家。至るところにガーデニングの花が咲いておりよく手入れされている。陽太は表札の名前を見て目的の家だと確認した。


 インターホンを押そうとしたが、緊張で手が震える。しばらく呼び鈴は鳴らさないで門の前で突っ立っていた。ここに来て自分の中にあるのは虚無だった。期待も希望も沸き上がってこない。何度も絶望し裏切られたせいで、いつしか望みを抱くことすらなくなっていった。


 だが、暗くて汚ない底なし沼の中でも、ただ一つだけ失わなかったものがあった。


 大好きな夕夏の事だ……。


 どんなに苦しい時でも彼女だけが支えだった。幼かったころの笑顔を何度も思いだし、今は大人になった彼女の顔を思い出した。


「夕夏さん……」


 名前を呼ぶと少しだけ勇気が湧いてくる。もう、泣かせたくない。今度は笑ってくれるように、『全てを変えなきゃいけない』。


 陽太は意を決してインターホンを押した。




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